11. 爺やの来訪
僕とミーナが着任地に到着したのはそれから9日後のことだった。
そこは実にのどかな風景が広がる田舎で、広大な麦畑以外は目立つものはなかった。
そういえば、僕がこの世界に来る直前の日本は夏だったが、畑が黄金色に輝くほど麦が実っているところを見ると、こちらの世界もほぼ同じ季節のようだ。
僕らは早速代官の屋敷兼役所に向かい、引き継ぎを行う。
小さな村とはいえ、役所の仕事は少なくない。引き継ぎには3日かかった。
村の名は「グリック」、人口300人程度の小さな村だった。
主な産業は農業と狩猟くらいという、見本のような田舎である。
辺境にあるという地理的特性上、村は他国と国境沿いにあり、トラブルが頻発してもおかしくないような場所なのだが、規模が小さすぎて無視されてしまうような村であった。
流石に田舎すぎるかなと、少し残念にも感じたが、まだこの世界に慣れていない僕にとってはむしろ都合がいいとも思えた。
それにミーナも側にいるしね。
借金を背負っているわけでもないのだから、のんびりいこう、そう僕は決意した。
突然の来客があったのは、僕とミーナがグリックに赴任した5日後のことだった。
初老の男性で、ナイスミドルという言葉が似合う渋い男性だった。
そしてその男性はミーナを見るなり
「お嬢様!」
そう叫び、跪いた。
ミーナも
「爺、来てくれたのね!」
そう叫んで男性の元に駆け寄った。
男性の名はスミスといい、ミーナの実家に仕えている使用人の1人だった。
家令、つまり使用人のトップではないが、序列で4番目という優秀な男で、ミーナの専属だったらしい。
ミーナが小さな頃から仕えているため、最もミーナを可愛がってくれた1人であり、同時に家族からの期待に応えることができずに苦しんでいたミーナに、最も心を痛めていた1人でもあったとミーナが説明してくれた。
「このスミス、お嬢様からのお手紙を頂き、参上いたしました。どうぞまたお仕えさせて頂けますようお願い申し上げます」
どうやらこの地への引越しの前に、ミーナが送った手紙を受け取った1人らしい。
手紙を送ってから1ケ月も経たないうちにに来てくれるなんて、よほど忠誠心が強いのだろう。
「ええ、私からも是非お願いするわ」
ミーナも輝くような笑顔で応える。
ミーナがこれほどの笑顔を僕以外に向けるのを見たのは初めてであり、そこに主従の絆の深さを感じた。
「それでね、爺。こちらは私の旦那のマコトよ」
ミーナはそう言って僕を紹介してくれた。
「マコトと申します。どうぞよろしくよろしくお願いします」
僕は丁寧に挨拶をしたが、スミスは驚きの余りか、固まってしまった。
それでも努力して
「お嬢様、ま、まさか、ご結婚なされたのですか?」
と、絞り出すように言った。
・・へ?
まさかミーナ、結婚のこと、説明してなかったの?




