才能
鉄の交わる音が鳴り響く。村を出てからの短期間でどれだけ剣が交わるのを見たのだろうか。
トトは自分のいた村の小ささと、世界の広さを目の当たりにする。
「俺も中々やれるもんだなっ……と。」
「あらあら、この程度で互角だと思っているのかしら?」
「さあどうだろうな。お前は本気を出していないかも知れないが、それはこちらも同様だ。」
「へぇ……なら早くその本気を出した方がいいわ。手遅れになるわよ。」
ヘカテーが言ったその言葉はどうやらハッタリではなかった。だんだんと速度を上げる1撃に、トトの目は追いつかなくなっていく。
「どうした?それが限界なのか?」
しかしその速さを上回る速度でラーヤの剣はヘカテーを攻める。
「あら。予想以上に俊敏なのね。」
少しずつラーヤが優勢になっている。ヘカテーは一定の速度からの上昇を見せない。
そして決着がつく。ヘカテーはラーヤの思い一撃を流しきれずに、体制を崩した。大きな隙ができたのをラーヤが見逃すはずも無く、懇親の一撃がヘカテーを襲う。
到底防げるわけもないだろう。
「さよならだ。魔女。」
重く鋭い一撃がヘカテーを切り刻むはずだった。その一撃は空を斬り、そこに居たはずのヘカテーが消えたのだ。
「あらあら、とても残念ね。ふふっ。」
「チッ。空間を移動しやがったな。」
「この子の身体、思ったより慣れないわ。後2つ異能があるようだから、使ってから戻る事にするわ。」
ヒティアの異能。自己強化以外の2つ。それはトトも、ラーヤも知らない異能。隠していたということは、決して油断してはいけない能力ということだ。
「まず最初は、こっちにしましょう。確かこの異能は……こうだったかしら?サイレント。」
その瞬間、世界から音が消えた。音が消えたのに気を取られ、ラーヤは向かってくるヘカテーに遅れをとる。しかし、ラーヤはしっかりと攻撃を剣で弾き、再び剣を交わす。
「剣で向かってくるとはな。さっきどうなったか忘れたのか?そのサイレントの効果も3秒だけ。その姿で勝ち目はないぞ。」
「ご忠告ありがとう。でもね、勘違いは良くないわ。ワタシがいつ本気を出したと言ったのかしら?」
「……ハッタリか!」
ラーヤは体力の消耗を気にし、攻撃を更に速め闘いを終わらせようとしている。
「まだこの子の異能は1つ残っているのよ。相当な自信家なのね。」
「自信、か。確かに自信はある。なんせ俺はヒティア本人と闘って勝てるはずがない。互角から程遠いだろう。しかし、お前はヒティアを使いこなせていない。圧倒的差が無くなる程にな。」
「ふふっ。せいぜい頑張って頂戴。」
ヒティアがなぜ強いのか。それは努力と才能だった。自己強化の8倍に耐える身体。そしてそれを使いこなす技術。他の女性と大差ない身体で、あの動きをするのは、並大抵の事ではない。
しかし、自己強化という異能は珍しくもなく、8倍までというのも、そう貴重な程ではない。現代までに、最大15倍までの自己強化が確認されている。この倍率は乗ではなく、元のポテンシャルにその倍数が加算されるだけで、2倍から3倍までの間は通常の1人分。2倍から7人分しか加算されていないのだ。それなのに女性という枠から外れた、その程度の事で果たしてこれまで生きてこられたのか?通常の状態でもヒティアは強いが、それは技術面が高いだけで、身体能力は高いと言っても、人という枠での話だ。さらに女性であるのだから、鍛えられる限界も見えない訳では無い。それでもヒティアは強く、名誉もある。
それを埋めるほどの異能という事なのか?
ラーヤは考える。考えて考えて、考えるのをやめた。
「さっさと使わねーと斬り刻むぞ。」
「そうね。ちなみに今ワタシはリミッター解除で自己強化12倍なの。」
「解除してこの程度か。やはりお前に勝ち目は」
それを言い切る前にヘカテーの攻撃の速度にラーヤは驚き、言葉を失う。
「第3の異能、異能強化。」
「なっ……組み合わせが良すぎるだろう……」
「あの子はどうやら、才能に、運に恵まれていたようね。ちなみに異能強化によって異能の効果が2倍。12倍から24倍になったわ。多少身体が痛いのだけれど、耐えられなくなる前にアナタを殺す。」
「やってみろ…」
「さっきまでの勢いが無くなったわね。つまらないわ。」
余裕だったラーヤに、焦りが生まれる。ヘカテーの攻撃速度が格段に上がり、今度はラーヤが攻撃についていけない。
トトは、また見ている事しかできない。立ち入る隙がない。
「飽きたわ。さよなら。」
ヘカテーはラーヤの剣を弾き飛ばし、剣を滑らせる。どうやらラーヤは後ろに飛び跳ねたらしく、傷は深くないが、そこから血が滴っている。
「鬱陶しいわね。」
しかし剣を飛ばされたラーヤに反撃は出来ずに、喉元を切り裂こうとするヘカテーの攻撃を防ぐことはできなかった。
しかし、しゅうぅぅ、音を立ててヘカテーがヒティアではなくなる。それと同時に、ヒティアの装備である剣も消え、ヘカテーの攻撃は虚しく終わる。
「あらあら、もう終わりなのね。時間を忘れていたわ。」
「だからと言って、俺に勝ち目はない。慣れない身体から、元の状態に戻ったお前に勝てるはずがない。この傷も浅いが、範囲が広い。当然動きにくい。」
「あら。急に負けを認められても困るのよね。まあアナタは殺すけれど、あっちの怯えている少年は貰っていくわ。」
「一体……何が目的な」
言い終わる前に、ラーヤの口から血が吹き出る。ラーヤは呻き声を上げ、地面に膝を落とす。
「アナタが知る必要は無い。さようなら。」
ヘカテーがラーヤの方に手を向ける。嫌な予感がする。トトには叫ぶことしか出来なかった。
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
ドンという空気の衝撃が起こり、ヒティアの前にいたラーヤが消え、地面に黒い跡が残った。
「あ、また異能を使っちゃったわぁ。圧縮まで使うつもりはなかったのだけれど。ふふっ」




