トランス・トリック
それはもう、本当に一瞬だった。瞬きをする間もなくヘカテーは目の前から消えた。ラーヤとトトは警戒態勢を取るが、ヘカテーは消えたまま姿を現さない。
「どうやら、元の世界に行ったようだな。」
ラーヤはそう言いながら作られた世界の作られた街のサイラルの建物に飛び移る。どんどん高い建物に飛び移って行き、ついに街全体を見渡せるほど高い建物に登る。その建物の外側にはハシゴがついてあり、トトと登ることができた。
そして気付く。世界のおかしな点に。素晴らしいほどに精密な街並み。植物や店屋の商品までもが完璧に作られている。しかし、この世界はおかしかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーこの世界には、この街しか存在しなかったーーーーーーーーーーーーーーー
いや、実際にはこの街の外の森や道などは見える。しかし、よく見れば分かるのだが、絵のような、何か作られた立体感のようで、そこに外が実在するとは思えなかった。
事実、街から出ようとしたトトとラーヤは何か外へ行くのを遮る透明な何かによって出ることはできなかった。そしてその何かに近寄れば近寄るほど、その先の外が絵、的な何かだということもわかった。
「外に出たところでどうしようもないのにね」
クスクスという笑い声の先にいたのはヘカテーだった。ラーヤはここに来る途中で武器屋から拝借した剣を向ける。トトも同様に剣を手に自己強化の異能バルバラールを使う。
「あらあらあら、絶対に勝てるわけがないことは百も承知で挑むのね。なら……もう一つだけ見せてあげましょう。」
不敵な笑みを浮かべながら両腕を広げる。
「ちぇーんじっふふっ」
は?と思わず声に出るような言葉を放ち、その身体は黒に包まれる。まるで影になったかのような漆黒。そしてその影は少しずつ形を変え、どこか見覚えがある形へと変化していく。その変化が止まり、色がゆっくりと付いていくが、2人には色が付き終わる前にそれがなんなのか理解できていた。
まるで本物。瓜二つのその姿。
「……ヒティア…?」
トトは思考が混乱した。急にいなくなり、急に牙を向けてきたヒティアとそっくりなヒティアがそこにいるのだ。
「異能、トランス・トリック」
完全に姿形が一致した。3つ目の異能、変身を見せたヘカテーはヒティアの姿で剣を抜く。
「おい、トト、あいつはヒティアじゃない。油断するな。そしてあの異能が、俺が知っているものと同じなら変身した対象と全く同じ状態……異能を使ってくるぞ」
「同じって事は……」
「肉体強化だけじゃない、俺達がまだ知らない異能もだ。」
ヘカテーが剣を構える。本当にヒティアではないのかと疑うほどそっくりなのだ。
「少しは楽しませてネ?」
声までも。




