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屍人と異能と  作者: ばーたのん
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もう一つ

女性の声。ゆっくりしたような、早いような口調。斬れたはすはずの身体は無傷どころか、当たっていないのではないか。服にすらそんな痕を残していない。ラーヤは敵対心を抱いて警戒したまま。と言っても2度目の攻撃はしない。


そういえば、人がいない。宿から出た時には数えるのが面倒臭いほどいた人間がすっかりいなくなっていた。

辺りを見渡すが、街から人がいなくなったように無である。風だけが静かに街中を走る。


「これが、あの噂に聞く異能……なのか……?」


人気の無さに気づき、何かを知っているであろうラーヤがポツリと呟く。


「よくご存知で。そう。その噂が合っているとしたら、これはワタシの異能。元の世界と同じ世界を創り出す事が出来る。クールタイムになればこの世界は消えてしまうし、人は創り出せないけれど。ふふっ。」


「世界を……創り出す?」


「まだ理解できないのかしら?まだ若いものね……少しづつ理解させてあげるわ……」


2人に緊張が走る。


「消えた……?」


目の前から急に女は消えた。高速で移動した訳では無いようだ。


「まさか元の世界に戻ったのか?」


「ラーヤは元の世界への戻り方は……」


「知らないぞ」


まさか置いていかれたという疑念を抱いた直後、女は別の場所から姿を現した。


「ごきげんよう」


突如の出現。状況も状況で、全く理解できないトトに対し、ラーヤは仕組みに気付いているようだ。


「トト。まだ理解出来ていないようだな。奴は元の世界と創り出した世界を瞬時に行き来できる異能。しかも世界を移動する際にいた場所にそのまま移動する。だから今奴は元の世界に戻り、今アイツの立っているところまで行きこちらの世界に来たというわけだ。」


「なるほど……」


わかったようなわからないような。この時トトはまだこの異能の恐ろしさは知る由もなかった。


攻撃が当たらなかったのは……剣を見ればわかる事だった。

錆。

剣が錆びて剣とは呼べないただの柄になっていた。そして数秒の間でトトは気付く。あの女に渡された異能道具。あれは彼女自身の異能を入れていた物だったのだ。


「錆と世界の創造。あの女は神隠しの魔女ヘカテー・スピア。最悪な女だ……」


「わざわざ紹介ありがとう。その通り、ワタシはヘカテー・スピア。神隠しの魔女ヘカテー・スピア……。ワタシの噂があるという事は、殺し損ねた奴が少なからずいるという事かしら?それとも感知の異能なのかしら?それとも他の異能なのかしら?まぁいいけれど。」


「おいトト。世界を創り出すなんて馬鹿げた異能、せいぜい持って1時間だろう。それまで耐えるしかない。死ぬなよ。」


「わ……わかった……。」


「あらら?もしかして闘う気なの?ワタシはそれでも全然構わないけれど?アナタ達もそれでいいのかしら?」


「……目的はなんだ?」


「本当はわかっているんじゃなくて?そちらの……トト君を貰いに来たのよ。」


貰いに来た?自分が狙われている事に気付き、急に冷や汗が出始める。何故?異能か?異能を持ってしまったから?それとも他に……。考えるだけ考えて、トトに狙われる理由が異能にしかない事に気付く。

自分で与えるようなことをしておいて、奪うのか?何のために?そもそも異能は奪えるのか?


色んな事を頭の中で考え、整理しようとするが、全く理解が追いつかない。そしてそれは肩に手を置いたラーヤによって中断された。


「今は考えるより耐えろ」


そうだ。こちらにはこちらの異能がある。この世界の異能を模倣すれば帰れるかもしれない。と考えた瞬間それは否定された。


「言っておくけれど、アナタ達のスピードじゃアタシには追いつけないわ。」


「さぁ、どうだろうな。俺にも異能はある。」


自信満々に言うラーヤ。ハッタリなのか事実なのか、それは一瞬でわかる事だった。

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