英雄と狂人と
重大な選択。何が間違っていて、何が正解なのか。ダギヌスには分からない。勝ち目はないからといって、そう簡単に撤退はできない。心臓が止まるまで王に尽くし、闘え。これがゲルバナティス兵達の心構えなのだから。
ソーマはダギヌスやクノンとは違う。どこかから連れてこられ、ゲルバナティスで育った彼。あえて、どこから来たのかは聞かなかったが、どうして来たのかは知ってしまった。ゲルバナティスの王の側近である男とソーマがその事を話している所に偶然居合わせたのだ。
「ここに来る前にも言ったが、ソーマ。お前の親の病を治すには、莫大な金と技術が必要なんだ。お前には金はなくとも戦闘の才能がある。ここで戦闘を学び、戦争で金を集める。」
「金さえあれば…本当に……」
「当然だ。ゲルバナティスは今の領地こそは小さいが、力はある。お前の力があれば、さらに領地を拡大できる。それでも医療技術が足りなければ、金で雇えばいい。」
そういって王の側近の男は、ソーマの肩を叩く。
「俺は…母さんを……救える……。」
「そうだ。お前の力で、救えるんだ。」
ダギヌスは息を殺し、その会話が聞こえる部屋の前を後にした。
そんなソーマを見殺しにする事なんて、いくら何でも過酷だ。これまでの厳しい訓練を人1倍こなしていたソーマ。しかし、ダギヌスの独断の判断で、兵を撤収させてしまっては、王に合わせる顔がない。それどころか、王に会う前に首が飛ぶ。
葛藤するダギヌスの頭を、懐かしい声が過ぎる。
心臓が止まるまで王に尽くし、闘え。ーーーーーーーしかし、人ならざる者にはなるな。人でなくってしまったらもう人には戻れない。
その言葉は、ダギヌスを人に留めた。そして、叫ぶ。
「ゲルバナティス兵、自軍の怪我人を介護しつつ、撤ーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」
鋭い目つきで叫んだダギヌスの言葉だったが、極端に変化する気温と心臓が凍るような殺気で言いかけて終わる。
ダギヌスへ殺気を向けた男が、ダギヌスの後ろから歩いてくる。
「ちょっとぉ……ダギヌスぅ。今なんて言おうとしたんだい?」
「ーーーーーーー」
ダギヌスは、再び言葉を失う。
「君、幹部だよねーぇ。てゆーか、幹部ごときがそんな命令、していいんだっけ?」
「……状況に応じて……と言われています…。」
「この状況が撤退を余儀なくしてしまったとぉ?」
「……はい。英雄が戦争を止めに入ってしまい、我々だけではどうにも……」
「あー、そこにいるのガルエールかぁ、どーっかで見た事あるなぁと思っていたんだよ。で、そこで簡単にやられてしまったソーマが倒れてるわけかぁ。」
「……申し訳ありません。バイフィール様。」
バイフィールと呼ばれる赤い髪の15歳くらいの男はダギヌスの横を通り過ぎ、ガルエールの目の前まで近寄る。そしてソーマ腕を掴み、強引にダギヌスの方へ投げる。ダギヌスは投げ飛ばされたソーマへ負荷がかからないように掴み、そっと地面に座らせる。
「英雄ガルエールぅ。これは僕らの戦争なんだよぉ。邪魔しないでくれるかなぁ?」
「この戦争はきっと大きな戦争へと繋がる。ここで止める必要がある。」
「……えぇ。困るよぉ。僕これでも結構偉い方だから、ここに来た以上は簡単に撤退させると王に怒られちゃうしぃ。」
「どいてくれ。君のような若く才能に溢れる命を無駄にしたくない。」
「若いってぇ?もしかして10代に見えてる?あーあー困るなぁこれでも僕は20歳だよ?」
「ならばその命の重みを知れ。この戦争でどれだけの命が……」
ガルエールの説得に、面倒くさそうな顔をして言うバイフィールの言葉が重なる。
「そんなの弱い奴が悪いんだよぉ。強者が生きて、弱者が死ぬ。それってぇ、当たり前の事だろぉ?」
「その論が正しいと言うなら、今から犠牲になる君は何も文句は言えない。」
「言うねぇ!あの戦争にいた人だけがこの世界の戦力だと思ったら大間違いだよ!!」
どんどん声が大きくなり、笑を浮かべるバイフィールにトトは恐怖を抱いていた。
「あいつ、頭おかしいだろ……」
「でも……強いよきっと……。」
ヒティアはバイフィールから目を離さずにそう言う。
「その狂った考え、1度命を犠牲にして考え直すといい。」
「英雄を殺したら、きっと王からご褒美が貰えるよ!!ハハッ!!」
英雄と狂人。2人の戦闘はこの戦争で最大の戦闘になる。




