圧倒的な
自分のためーーーーーーー。まるでこの戦争の何かに関わっているかのような英雄の言葉に疑問を持つ。これはサイアリアとゲルバナティスの戦争で、英雄が関わっているようには思えない。しかしそれを口にできない。してはいけない気がする。
クノンがスキだと判断し、今にも斬りかかりそうになった時、ソーマが肩を掴む。そして問う。
「英雄・ガルエール。アンタの目的はなんだ。本当に通 たまたま通りかかったわけじゃないだろう。」
「……たまたま通りかかっただけだよ。ただ、あの時の戦争みたいな周りを巻き込む大きな戦争にしたくない。だからここで止めるだけさ。」
「英雄……アンタは強い。でもそれは結果だ。実際に闘っている所を見た事も無ければ、こうして話すのも初めてだ。強さってのは結果だけじゃねぇ。過程を知らない俺には、抑止力にはならない。」
「…………何が言いたい。」
「ここでアンタを殺せば名誉が手に入る。元々戦争、命を懸けて来てるんだ。戦争で死ねるのなら本望。俺に失うものはない。」
「なるほど、それで?」
冷静に答える英雄は、身構えること無く、ただ1歩ずつ近寄ってくるソーマに対して少しの笑を浮かべている。
「実力行使で構わねぇって事だよ!!!!!」
ソーマは腰に身につけていた銃を持ち瞬時に英雄を狙う。発砲された銃弾3発を軽々と剣で弾く。しかしその銃弾には砂の異能が込められていた。銃弾が小さいせいか、少量の砂がガルエールの周囲に小さく広がる。
目くらまし。単純かつ効率の良い作戦。砂が広がる直前にソーマは既に走り出していた。人の腕程の長さの剣を右手に持ち、次の行動に邪魔だと判断したソーマは銃を捨てる。そして気づく。想定外の砂の量に。
相手の視界と注意を一瞬だけ逸らす量のはずなのに。
ガルエールは気付いていた。意味の無い銃弾を打つのは自分から注意を逸らすという事。銃を撃った直後に走り出そうとしていたのを見ると、その程度のフェイクなわけが無い。さらにもう一段階何かがあると。
ここまで予測していたガルエールにとって、それから何が起きようとなんら問題はなかった。そして銃弾を弾いた直後に砂が吹き出すのを確認し、
その砂を、利用したのだ。
ギリギリまで相手に攻撃を悟られない方法。それはカウンター。相手の技を利用する事だ。砂と判断したガルエールは風の異能で自然の砂を巻き上げる。
元々巻き上がるような質の土では無かったのだが、ゲルバナティスの軍が荒らしたせいで、このような土になってしまった。
ソーマが攻撃を回避しようとした時にはもう遅かった。風を纏った剣は貫通力を上げてソーマの左肩を貫く。痛みに声を上げるが、次の痛みがソーマを襲う。
貫いた剣を抜くという手順を無駄にしないために、ガルエールはソーマは蹴り飛ばしたのだ。その勢いでソーマは軽く飛ばされ、剣が抜ける。呻き声を上げ、背中から地面に落ちたソーマは恐怖を覚える。そして既に風の斬撃を飛ばされていることに気付き、死を感じる。
そしてその斬撃は男の体を斬り刻む。決して深くはないが、浅くもない。しかしソーマには痛くも痒くもなかった。ソーマが受けるはずの斬撃を、ダギヌスが受けていた。
風の異能を使うダギヌス。しかしそれはガルエールが使う風とは別の物。ガルエールの風は範囲は狭いが、鋭い。ダギヌスの風は範囲は広いが、鋭くはない。どちらとも使い道が全く違うためらどちらが強い弱いを決めることは難しいが、戦闘において必要なのは、ガルエールの方だろう。しかしダギヌスは天才型でこそないが、強靭な肉体と努力の末に軍の幹部を務めている。
決してダギヌスは弱くない。しかし、それを無視するかのようにガルエールの斬撃はダギヌスが風で体を纏おうとする前に体を斬り刻む。
「無駄な戦闘は避けたいんだ。どいてくれ。それとも、その実力の差を知った彼と共に帰ってくれるのかい?」
「ーーーーーーー。」
ダギヌスは何も言わない。何も言えない。きっと司令塔の人間はこの状況を見ても闘えと言うだろう。しかし、これ以上一方的に血を流すソーマに勝ち目はない。これはダギヌスには判断出来ない事だった。
「……これでも忙しい身でね。あまり時間をかけたくない。返事をくれないというのは非常に困るんだ。」
「…………」
ダギヌスには絶対に判断できない。ソーマの私情を知っているダギヌスには、どうしようもできない。




