全滅と2人
一瞬だった。瞬き一つしていないのに視界から消えたクノンは瓦礫から立ち上がる餓狼の首を宙へ飛ばしていた。
ーーーーーーーーー速すぎる。いくらなんでも。
完全に自分の異能を熟知しているクノンは圧倒的な実力を見せた。この状況を見ていた周りの兵は全く動こうとせず、ただただ自分の無力さとクノンの強さに恐れていた。
クノンはまるで獲物を睨むかのような目つきで千虎を見る。
「千虎、避けーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
その言葉が伝わる前に千虎は自分の命がここまでだと理解した。それは餓狼も同じだった。千虎の胸には既に1本のナイフが刺さっていた。衝撃波で飛ばしたナイフの命中力は恐ろしいものだった。確実に千虎の心臓に刺さり、そこからは赤い血が染み出ている。フラっと倒れる千虎の意識は既になかった。
クノンへ立ち向かうサイラルやサイアリアの兵はことごとく殺されるのを餓狼はただ見ている事しか出来なかった。膝をつき、全てを悟っていた。絶対に敵わない……と。兵達の攻撃はクノンに当たるはずもなく、彼女は無傷、最小限の力のみで戦闘している。その瞬間、蒼い閃光がクノンの頬に当たり、クノンは吹き飛ぶ。
クノンは油断していたのか、物凄いスピードで近寄る2人に気付かなかった。
閃光の正体は1人の少女だった。少し遅れて後ろから来た少年が言う。
「どうしてそんなに速く走れるんだヒティア」
「元々の身体能力が違うから、8倍になってる分その差も8倍になってるのよ」
油断していたとはいえ、あのクノンに重い一撃を浴びせたヒティアに、餓狼は驚きを隠さなかった。そしてヒティアはクノンの強さと能力を知らなかった。あまりにも突然の出来事で、餓狼は吹き飛ばされたクノンの姿がそこには無いことに気付くのが遅れた。餓狼は走る。餓狼には分かっていた。どんな攻撃かではなく、攻撃は前から。ヒティアの急所を狙ってくると。だから餓狼にはこうするしかなかった。ヒティアの前に立つことしかなかった。
ヒティアとトトは彼の行動の意味がわからなかったが、声をかけようとした瞬間に倒れた餓狼を見てようやく理解した。餓狼の胸と脇腹に刺さった2本のナイフ。
戸惑う2人に餓狼は言う。
「あいつの異能は衝撃波。俺のギルド、虎狼は全滅。これ以上あいつらを進ませるな……」
微かに出るその声をきいたヒティアはすぐにナイフが刺さった角度からクノンのいる方向を見る。ヒティアは戦闘時に高速で動くゆえに衝撃波で移動するクノンを捉えることができた。クノンは既にヒティア達に近づいていた。ヒティアはギリギリでクノンのナイフを弾く。弾かれたのが意外だったのか、口から血を流すクノンは立ち止まった。彼女は自分の顔を傷つけられ、怒りに満ちていた。
「すぐに前線に出てきて良かった…。トト、下がってて。まだトトには荷が重すぎる。」
虎狼の強さを知っていたヒティアは精神を研ぎ澄ませていた。そして、今の状態で勝てないという事も理解していた。




