赤い果実。
もうすっかり日は落ちてしまっていた。見渡す限りの商店街はほとんどが閉まっていて、警備兵やら騎士やらで一般人はほとんどいない。俺はこうしてヒティアの帰りを待つことしか出来ない。戦う力もない。そんな事を考えながら街をフラフラとさ迷っていた。
「命を落としてしまってからではもう遅い。だってアナタは死人を愛せるの?」
急に後ろから話しかけられて思わず変な声でうわぁと驚く。振り向くとそこには大人っぽい雰囲気の長い黒髪の女性が立っていた。
「別に…ただ知り合いの心配をしていただけです。」
口にはしたものの、本当にそうなのだろうか。知り合い。俺とヒティアは知り合いなのか。友達、というのも何かまだ壁が邪魔しているような気もする。
「アナタ…守る力が欲しいんじゃない?」
うふふとまるで美味しそうなご馳走を前にしているような目つきで笑みを浮かべている。でも、欲しいと願っても手には入らなーーーーーーーーーー。
「この街にあるE地区の3番道路。少し古い時計屋とパン屋の間の細道を進んで2つめのマンホール。降りたら水の流れている方へ進みなさい。すぐに右側に扉が見えてくる。その扉を開けると、そのにはあなたの欲するものが必ずあるわ」
こいつ、何言ってるんだ?欲するもの?話の流れ的に守る力……武器か何かなのか?そもそも知らない人の言うことを鵜呑みにしていいのだろうか。でも、守りたいものは確かに自分で守るべきだ。幸い、死んでもたぶん死なない。残りの回数とか…そんなものがあったら、それがもし次なら…。色々な事が頭を駆け巡る。でも確かなものが1つある。俺はヒティアを守りたい。その一心で俺は言われた通りの道を進んだ。
マンホールには厳重に釘が打たれていた。まだ新しいようだ。それは大人っぽい女性の人がくれた異能道具でどうにかなった。異能道具とは、異能者が一定の異能力を物に入れることにより、その物を使って他の人も異能を使えるという便利な道具だ。その異能が入った物は、使い終わると同時に使えなくなってしまう。持ち運びできる異能といったところか。俺が貰ったのは10センチばかりの鉄の棒。これを釘に当て、強く念じることによりその異能は発動する。
釘は徐々に茶色く、脆くなっていきすぐに崩れ落ちた。錆か。同時に鉄の棒も少しずつ錆始める。釘は後3本。あの女性は釘の数も把握しているようで、4本錆びさせると、鉄の棒も錆びて崩れ落ちてしまった。
そこからは簡単だった。マンホールは少し重かったが、はしごをおりたら下水の流れていく方に走る。少し下り坂のような感じだった。その後すぐに右に道が見え、その先には扉があった。しかし扉の前には何故か2人の護衛兵の干からびた死体があった。気持ち悪かったが、踏まないように扉へ近づく。扉には鍵もなく、普通に開いた。入口にあった電気のスイッチを入れると、部屋がパッと明るくなる。広い。一部屋しか無いのだが、その部屋はあまりにも広すぎた。20m程はあるのではないだろうか。高さも5mはあるそして少し寒い。古くなった紙くずやゴミがたくさん落ちていた。
部屋の中心辺りに生える1本の木。高さはもう天井に付いてしまって、枝が横に大きく広がって、気の周りの天井は葉っぱで生い茂っていた。ふとその木に右手を当てる。その瞬間、自分の過去がまるで巻き戻されるかのように頭の中をぐるぐると走る。気持ち悪くなって手を離した。少し息が荒くなっているが、他に体に異変はない。
「何だ……これ……。」
体に異変はない。しかし、木は変わっていた。さっきはまではただ普通の葉っぱが生えてるだけの普通の木だったのに、気づけば赤い果実がなっている。15、いや20、それ以上も。なんの果実だ。枝が下に垂れて、その先に果実がある。その果実を手に取る。手に丁度収まるくらいの大きさだ。食べ頃なのだろうか。見ただけで美味しそうだ。いや、美味しい。
そういえば今日は全然何も食べていなかった。そんな理由なのだろうか。それだけの理由なのだろうか。ふと気付いた時には赤い果実をかじっていた。




