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第63話 蒼き命脈は誇りを繋ぐ・4

カリナのドラゴン態ビジュアルはゴジ〇みたいな太い足と尻尾にクソデカい猛禽類の上半身を持った水晶の龍……みたいなニュアンス。

……金ピカネク◯ズマ?


ドラゴンはほとんどS級魔獣。

一般的なランク付けされている魔獣の等級は、「推奨ランクのパーティー向け」ですが、S級だけは「Sランクを当てるしかない」という意味です。

Sランクでも「同格の魔獣との戦闘」になるのでリスクがあります。

「一定以上の強さ」なので、S級といってもピンからキリまでありますが。

【Side サレ冒険者】



 俺とカリナの攻防は続いていた。

 接近戦は危険だと判断したらしく、カリナは魔法を遠くからブッパしてくる立ち回りに変わった。


「氷よ!」

「そんな脆い柱で大丈夫かァ!? 街で売られてる氷菓子(ビンズバー)の方が硬いぞ!」


 何十本もの氷柱が飛んでくる……が、片っ端から斬り落としながら煽りを飛ばす。


「人間の菓子に負けるとか、ドラゴンの名が廃るな!」

「ふざけるな!」


 まあ、流石に「アイスの方が硬い」は盛ったけども。体感だが、硬度は氷柱の方が少し上だ。……いやなんで攻撃魔法に比肩する硬さなんだよ、あのアイス。いい加減食べ物の硬さじゃないぞ。


「っと、呆れてる場合じゃないよな……っ!」


 雨あられと降ってくる氷柱を斬りつつ、気を取り直す。

 たまに反撃しても、すぐに治されてしまう。このままじゃ向こうの攻撃が激化する一方だ。


「そんなに遠くから引き撃ちなんて、クリム婆の孫は臆病者かよ?」

「ぐぅぅ……そう言って、アタシをおびき寄せるつもりでしょう」


 おっと、我慢したか。

 やっぱり気付かれてるな。見下してるくせに敵をよく見てやがる。クリム婆の孫ってのも伊達じゃない。


「さっきから、遠くを斬ってくるのは水と風だけ。その赤いのは、遠くを斬れないんでしょう」

「――ちっ」


 その通りだ。

 実は俺の手札の中で、ヒードライズは遠距離に攻撃を届かせる手段をほとんど持たない。

 そして、穿風剣と蒼氷剣の攻撃力は深手を与えられない。


「本当に痛いのはその赤い奴だけ! 御婆様の力もその緑の棒切れも、アタシにはほとんど痛くない! それだけに気を付ければいいのよ!」


 故にカリナが近づいてくることはない。


「このまま削り倒してやるわ……!」


 キツいな。

 俺は《剣士》とは思えないほどに遠距離攻撃手段を持ち合わせているけど、やっぱり得意は近距離だ。

 ため息をつく俺に、後ろで魔力制御に集中しているクリム婆が声をかけてきた。


『大丈夫かいアベル坊、依頼達成できるかい? ウチの孫は強いだろう』

「この場合は()んなるけどね、クリム婆。心配も自慢も後でやってくれ」


 ドラゴンのくせに分析力もあるもんな。あんたの孫、バトルセンス豊富すぎるだろう。羨ましいものだ。


『カリナも強くなったねぇ。祖母としては鼻が高いよ』

「御婆様……はい! こんな人間程度、薄皮一枚ほどの傷しか負いませんとも!」


 孫かわいさに褒めるのやめてくれ。士気上がっちゃう。


「こんな虫ケラ、すぐにでも!」

「……おお、デカいなぁ」


 上空にいるカリナが腕を振り上げれば、そこら辺の山よりも巨大な氷が、空を覆っていった。

 大質量を叩きつけて、一気に押しつぶすつもりだな?


「はは、隕石みたいだ」


 周囲一帯の大地を破壊し尽くす滅びの権化。それに似ている。

 彼女にとっての虫ケラを押し潰そうと降ってくる氷の巨塊。それに対して俺は――


「――『黒刀クロノワール』」


 黒い刀を、この戦いで初めて抜いた。

 左後ろ腰に佩いていた魔剣は漆黒の刀身を持ち、先端は両刃となった切っ先諸刃造りの刀。


「……? そんな細い棒切れ一本で、何ができるのよ!」


 カリナの声を無視して刀に魔力を食わせると、黒いオーラが湧き出した。

 昼間だというのに、夜よりも暗い……そんな闇を纏ったクロノワールを、まさに俺を潰そうとしている氷塊に向かって静かに突き出す。

 それだけで氷塊は――氷の粒となって()()()()


「……っ!?」

「ふぅ……」


 息をつくと、驚愕に目を見開くカリナが見据えながら刀を下ろす。


「今の、何が……」

「驚いただろ、初めて見ただろうしな。魔法が()()()のは」


 今起こったのは、これまでの『迎撃』や『相殺』じゃなかった。

 ――魔法の『消失』。魔力が維持できず、解けてしまったように。


「オマエ、一体何を……」

「この剣の力だよ」


 困惑するカリナを見えるよう、黒刀を頭上に掲げた。

 それを注視する若い龍は――すぐに驚愕に顔を染める。


「何、その剣――なんで、『瘴気』が溢れ出ているの……!?」

「はは、ドラゴンでも瘴気にはビビるか」


 この世には、魔力とも違う謎のエネルギーがある。

 一例を除いて人どころか魔獣すら、利用もできない穢れた力。それが『瘴気』。

 生きとし生ける者の負の感情。とくに死者の怨念や恨み辛み。それらが生み出す世界の淀み。

 周囲の自然や生命からも魔力を奪い、やがては生命力すらも奪う災いの一つだ。


「かつて魔王との戦いで、数万人に至る人間が非業の死を迎えた地、『死の谷・エンドノアバレー』。コイツはそこで拾った、いわくつきの魔剣さ」


 大陸北部に位置する、常人が立ち入ればあっという間に死に至る呪われた谷。そんなところの奥底に、この刀は転がっていた。

 長年瘴気に晒され続けて魔剣と化した、ただの古い刀。それがクロノワールの正体だ。

 コイツは、魔力を吸わせるほど瘴気を生み出す。四本の中で一番凶悪な一本である。


「瘴気を操る……? 龍ですら、瘴気には蝕まれかねないのよ!? 矮小な人間なんかが扱えるわけが――」

「俺は使える。これまでも使いこなしている」


 これが剣だからか。俺には他の魔剣と同じように使い熟せる。……たまに瘴気が漏れ出てネガティブになったりするけど。

 それでも使う価値がある。

 活性化させた瘴気を内包した黒い刃は、魔力を霧散させる。つまり――


「クロノワールで斬った魔法は、魔力を奪われ霧散する。それがさっきのタネだ」

「なっ……!?」


 どんな魔法でも、魔力を奪われれば現象を維持できない。

 そしてそれは、防御だけに言えるものでもない。


「《風突走(ヴァリアスラスト)》!!!」

「っ!?」


 クロノワールを納刀し、穿風剣が耐えられるギリギリまで魔力を注ぎ込んで、突風で身体を射出する。


「なっ、氷よ――」

「遅い」


 咄嗟に魔法を撃とうとしたカリナに向けて、炎を纏った魔剣を投げつけた。


「これは……!?」


 その投擲は避けたものの、彼女はそれに目を取られる。

 ヒードライズ……自らが危険だと警戒していた赤い魔剣。飛んできたそれを避けた――危機は去ったという一瞬の油断。

 

「こういう駆け引きは、未熟だよな」

「オ、オマエ……!?」


 その一瞬で、既にカリナの懐でクロノワールに手を掛けていた。


「黒刀居合――《明絶(みょうぜつ)》」

「か……っ!」


 瘴気は魔力を取り込み霧散させる。

 クロノワールは魔法を斬り裂き、魔力による防御を無効化する無二の剣。

 引き絞り放たれた黒い刃は、ドラゴンの魔力による防御を、紙のように切り裂き彼女の腹を掻っ捌いた。


「薄皮一枚、突破したな」

「かはっ、……〜〜〜っ!」


 腹を斬られて墜落したカリナは、蹲って血を吐きながら腹を押さえている。

 俺はその首元にクロノワールを突きつけていた。


「クロノワールに、魔力的な防御は意味を為さない。ドラゴンの防御にもな」


 魔力を流すことで装甲を強化しているドラゴンには特効だ。

 少しでも動けば、黒刀が首の皮を裂く。硬くしても意味がない。

 さながら死神の鎌が首にかけられている状況。ドラゴンにとってはプライドを折られかけているだろう。


「もう勝ち負けは決まった。クリム婆の魔力は諦めろ」


 頼む。諦めてくれ。これで終わりにしてくれ。

 そんな祈りを悟らせないように、冷酷な声をかける。


「えぇ、そうね……」


 下を向いて顔色を伺えないカリナだったが、俺の言葉に同意するような言葉を発する。

 僅かな期待が顔を覗かせる……が。


「オマエは強い、認めるわ。……けれど」


 その瞬間、圧倒的な魔力がカリナを中心に放たれ、周りの気温が零度以下にまで落ちきった。


「――――っ!!」

『それでもワタシ()には遠く及ばない』


 急な寒さで体が震える、が――今からでも、クロノワールなら冷気を掻き斬って、首は斬れた。

 だが……世話になったクリム婆の前で、孫娘の首は斬れなかった。

 やむなく、放たれる魔力の流れに乗ってカリナの傍から離脱する。


「はぁ……ダメか」


 正直なところ、彼女とは最後まで戦う気はなかった。

 カリナは人間を舐めていた。

 最初は本来の姿では戦わないだろうと踏んで、その状態でボコってプライドを叩き折り、諦めさせるつもりだった。

 ――俺の魔剣技は、本気のドラゴンにほとんど通用しないのだから。


「随分と、でっかくなったじゃないか」


 吹き飛ばされた先で着地し、元いた場所を見据えれば。


『本気だもの。本気で、アナタを殺してやる』


 龍が、いた。

 上半身はまるで巨大な猛禽。大きな氷の翼を持ち、クリム婆よりも太い下半身には巨大な足と、長い尾が伸びている。

 鳥のクチバシのようなものを備えた頭部は威厳と美しさを兼ね備え……胸の中央にはクリム婆にも迫るサイズの『龍玉』が嵌っていた。

 ――龍種、『氷晶龍(クリスタリアドラゴン)』。


「とんでもない、プレッシャーだな。つくづく龍ってのは嫌になる」


 とにかく存在感が違う。対峙するだけで直接、格上の捕食者に睨まれたかのような緊張が襲ってくる。

 ――ふと、カリナが口を開けた。


「が……っっっア!?!?」


 ――次の瞬間には、俺の身体は弾き飛んでいた。

 ブレス……いや、そのなり損ない! 吐き出した氷が音よりも早くぶつかってきた!

 咄嗟に両腕で防御したものの、ガードを粉砕されて吹き飛ばされた。どんだけの魔力で氷を射出してんだ……!

 痛みに呻きながらも折れた腕を治しつつ、追ってきたドラゴンに対して空中でクロノワールを構える。


「こんの……っ!」


 カリナのクチバシに、防御不可の黒刀を振りかぶる。が――


「硬っ、てぇ……ッ!」


 その刃は通らない。

 魔力関係なしに、そもそもの硬さが足場のない場所で斬れるもんじゃない!

 頭を振って弾かれ、カリナは大きな翼を向けてくる。

 翼に生え揃うキラキラと光る羽毛は、その一本一本が鋭利な短剣のように鋭く見えた。


『死になさい……っ!』

「ふざっけんな――!?」


 空中で、回避も防御もできるわけもなく。

 人類最高レベルの身体硬化である《金剛身》すら容易く斬り裂かれ……俺は血を撒き散らしながら、遥か彼方の氷に叩きつけられた。



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