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第51話 龍神の孫娘


「まだ恩も返してないのに受け取れないって!」

「もう十分だっつってんだよ! アタシゃそれくらいアンタのことを可愛く思ってんだからねぇ!」


 俺とクリム婆の言い合いは簡単には終わらず、他のメンバーはそんな様子を呆れたように眺めていた。


「もう収集つかないよぉ!」

「あっくんって頑固だもの。恩にはうるさいし、納得できない」

「まぁねー。それにしても今回は特に強情だけどね……?」

「そんな不器用なところも可愛いんだがな」


 俺たちが不毛な会話を応酬している時だった。


「「――っ?」」

「「「――ッ!?」」」


 その瞬間……遠くから強大な魔力が近づいてくるのを感じた。三人は竦み上がり、俺とレイナーレは海がある方向に目を向けた。


「これは……」

「ほう? なかなかだな」


 鈍感でなければ、強い魔力というのは探知することができる。冒険者なんかはこの魔力から相手の強さを察することも多い。

 ――ちなみにこの魔力は魔力出力によって強弱は変わるから、もしかしたら俺が舐められがちなのは発する魔力がないからなのかもしれない。


「なに、っこれ……!」

「……ぅ、くっ!」

「〜〜、ッ!?」


 だけど遠距離からこれほどまでに強い魔力を感じるなんて、まるで俺やレイナーレ――そしてクリム婆が、魔力を制御せずに垂れ流しにしているみたいだ。

 エルミーたちに至ってはわずかな声しか出さずに警戒させられるほどだ。彼女たちには重圧に感じるだろう。

 特に魔法力が強いマリアにはキツいだろうな。顔を青くしている。


「これは……あの子かい。まったく、まだまだだねぇ」

「クリム婆……知ってるのか?」

「まあね。出迎えてやろう、表に出るよ」


 そう言ってエプロンを外し、クリム婆は外へ歩いていった。



 ・ ・ ・ ・ ・



 それは空から舞い降りた。

 その(あお)は深く、氷のような透明感を輝かせ、肌は白くきらめいており、その風貌にはどこか恩人の龍を感じることができた――つまり。


「御婆様ーーーッッッ!!!」

「アンタだったか、久しぶりだねぇ」

「お久しぶりです! 」


 強大な何者かの正体は、クリム婆の同族(ドラゴン)だったらしい。

 外に出ると同時くらいに光が放たれて、先に歩いて行ったクリム婆の前に空から少女が降りてきた。

 その娘はクリム婆と同じ透き通ったクリアブルーの髪をくるくると巻いて、白いドレスを身に纏っていた。


「御婆様……ってことは、孫か?」

「アイツにあんな孫がいたとはな。ずいぶんと懐かれているな」


 レイナーレの言葉通り、少女は輝くような笑顔を見せてクリム婆も苦笑しつつもその手を握りあっている。

 見た目はどこかのご令嬢と見間違えるようなツインテ縦ロールのお嬢様だ。スレンダーで容姿も整っている。

 クリム婆が若かった頃はあんな感じだったのかもしれない。


「元気だったかい? カリナ」

「えぇ! またお会いすることができて嬉しく思います! 御婆様!」


 カリナ、と呼ばれた龍種だと思われる彼女はクリムに優しく抱きついた。クリム婆も微笑みながらその背中に手を回していた。


「な、なんか、プレッシャーの割には普通……? だね、アベル。挨拶とかした方がいいかな……?」


 おずおずといった様子でコートを引っ張りながら、エルミーが聞いてくる。

 見かけはそうかもしれないけどなぁ……と、俺が注意するまでもなく、クリムの孫娘が口を開いた。


「御婆様に追いつくために、龍種以外の有象無象の魔力を我が物としてきました! ワタシ、とても強くなったのですよ、御婆様!」

「はぁ……まったくアンタって娘は。少しはアタシの話を聞きなっての――魔力は増えてるみたいだけどね」


「えへへ……」と目を細める女性に対して、背後のエルミーはキュッ……と口を噤んだ。


「高位の魔獣なんて知能はあっても自分より弱い奴らは見下してるのがデフォルトだぞ? ドラゴンなんて奴らは特に高慢ちきばかりだ」

「勉強になるなぁ……」

「エルミー、マリアちゃん、お口チャックしましょうね~」

「そうだね~……」


 レイナーレの解説にドン引きの三人だ。

 俺が遭遇した他のドラゴンも、似たり寄ったりだった。会話はできるけど根本的に他者を見下している。

 人間の文化に絆されたクリム婆は相当のレアケースだ。


「ところで……なぜここに人間がいるのですか? 人間如きが御婆様の住まいに……!」


 ――その証拠に、こちらを見る孫娘さんの視線には、冷たいものが混じっていた。


「アンタの他種嫌いも相変わらずだねぇ。この子たちは客だよ、アタシのね。……この子はカリナシャリオ。アタシの孫娘さ」


 呆れたように首を横に振っていたクリム婆がようやく紹介してくれた。

 ――本人(本龍)はまったく意に介していないけど。


「きゃ、客……!? ワタシでも御婆様のご自宅にはあまり招かれないというのに……!」

「アンタは可愛い孫だけど、家を壊したりするじゃないか。せめてもう少しお淑やかになっておくれよ」

「それは、御婆様が人間如きのマネをするからではありませんか! こんなちっぽけな穴倉などを作ってお住まいになるなんて……! 御婆様にはもっと相応しい場所があります!」


 どう反応すればいいのかわからない俺たちを無視して、カリナが声を上げる。

 なんだろう、この……理想を押し付けてる感じは。

 いやまあ、本人としてはクリム婆のことを本当に尊敬しているんだろうけど、それを通り越して崇拝に近いナニカになってる気がする……。


「なんだか……ちょっとだけシエルさんを思い出しちゃったんだけど」

「あ〜、そうねぇ。聖女様、ああなる素質はあるかも」

「えっ、なにが?」


 あの、少し腹黒なところがありそうな《聖女》だったけど、どこに思い出す要素があったんだ?


「アタシは気に入ってるんだけどねぇ。カリナはドラゴンってことにご執心だねぇ」

「あたりまえです! ワタシたちは偉大なる龍! 誇りがございます! それが人間の真似事などと……!」

「こんな感じで、思い込みが激しい子でねぇ。なかなかこっちに誘えないから、アンタが来てくれてたのは余計に嬉しかったのさ」


 二人の言い合い、いいや一方的な意見は続く。

 ドラゴン以外見下しているタイプの孫娘カリナにとって、こんな生活を送るのが理解できないから呼べなかったと。


「ぐぬぬぬ……!!! 御婆様を誑すなんて! だから人間は嫌いなのよ!」

「いや誑かしてなんかないけど……」


 クリム婆に話すときとはのは打って変わって、俺たちには尊大な態度だ。


「ふんっ! 羽虫の如き人間などいてもいなくても変わりません……御婆様!」

「酷い言い草だな……」


 (羽虫)の言葉は無視されて、カリナは再びクリム婆の手を取った。


「ご挨拶に伺ったのは他でもありません!最近のご不調、ワタシも感じ取っておりました! 思うに御婆様、もうそろそろお亡くなりになるのではないかと思いまして」


 耳を疑うほどストレートな発言に驚く……だが、次の言葉はさらに思ってもみないものだった。


「御婆様がいなくなってしまうのは悲しいですが……ですがお亡くなりになられたあと、その魔力を我が物とし、みごと御婆様のようになってみせますわ!」



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