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第46話 《始祖》の戦い


「フッ、そろそろ巻き返すか。ちょうど()()()()()囲んでくれたことだしな――《血糸鋼線(ワイヤーブラッド)》」


 レイナーレが頭上に腕を振り上げる。

 掌を向かい合わせて、指先を動かしていた手を勢いよく振り下ろす。

 その瞬間――彼女を包囲していた周りのタコ足が全て輪切りにされていた。


「……は?」

「全部斬れてるっ! すごい……アベル、何あれ!?」

「いや、俺も知らない。前に戦ったときは、剣を使っていたから」


 レイドレークは《血魔法》で形成した剣を大剣から双剣まで様々に形状を変えて高い技量で繰り出し、魔法を織り交ぜて戦うスタイルだった。


「《視覚強化》――!」


《身体強化》のように、目だけに魔力を集中させる《無属性魔法》。それで強化した視力でよくよく見れば……レイナーレの周囲を赤いキラキラしたものが舞っていた。


「粉……いや、糸か!」

「そのとおり! 今は女の体だからな! 柔軟性が優れている分、合ったものを使わなければ!」


 戦っているレイナーレが俺の呟きを遠くから拾って、大声で返してくる。

 そんな彼女の手元からは、極細の糸が体にところどころ絡みながら伸びていた。


「糸による斬撃! 超極細のワイヤーを高速で振るい、摩擦によって斬り刻む技だ! ……女体の柔軟さは、時に男の筋力よりも優れた利点があるんだよ。こんな風に……なっ!」


 レイナーレがクラーケンに向けてムチのように腕を振るう。たったそれだけで、タコ足がバターのようにスパスパ斬られていく。


「これが出来る奴はなかなか少ないぞ?」

「だろうなぁ……」


 簡単にやっているように見えるけど、絶対に一筋縄ではいかない技術だ。

 手首のスナップや体のしなりを糸に伝えて加速、履いているヒールや脚に糸をかけたりして引くことで、尋常じゃない速度を糸に伝えている。

 一歩間違えば自分も斬り飛ばしかねない高等技術だ。……《変身》で治せるレイナーレには、問題にならないだろうけど。


「クラーケンは魔力を元に再生する生態だろう? 簡単には仕留めないさ、限界までタコ足を刈り取らせてもらおうか!」


 タコ足をたくさん確保してくれようとしてるのか、助かる。手土産はあればあるほどいいからな。

 クラーケンは斬られた足を即座に再生し、レイナーレを狙う。が、そのタコ足は再生した端から斬り飛ばされていった。


「糸にかかる物理的な作用に加えて、魔法の作用もありそうだな……」


 魔法で形成したものはある程度操作できる。それによって糸の先端部の速度を更に上げているんだろう。

 吸血鬼の血を媒介とした魔法は出来ることが多い。

 血の槍を飛ばす攻撃魔法から今やってるような武装の形成、果ては身体能力の強化まで。

 しかもレイナーレの、吸血鬼固有の魔法やスキルは、普通の吸血鬼とは一線を画す。


「A級魔獣が相手にもなってないじゃない。どんな技量があればあんな糸で……想像もつかないわ」

「それだけじゃないよ、魔法の操作が自然すぎる。発動から操作まで、まるで血の糸を自分の手足の延長みたいに……!」


 純粋な技で武器を扱うフレイが技量に、もはや魔法オタクとなったマリアが魔法に、それぞれ驚いている。

 だが、それが《始祖》だ。

 レイナーレは1000年以上生きている。その永い生で、どれだけ研鑽に時間を費やしたのか。

 戦った俺が思うに、あの強さはその積み重ねた努力の厚さだ。

 いろいろな武器を扱えるほど技量を磨き、技を収めて。魔法を使っていた魔法力を伸ばした。魔力量では化け物化け物と言われている俺よりも多いくらいだ。

 レイナーレは〝不老〟であって()()()()()()

 ここまで生き永らえてきたのは、彼女の強さあってのことなんだから。


 ――と、レイナーレの蹂躙を眺めていたら、その様子に変化が起きる。


「んん? 魔力が少なくなって逃げ腰になったか?」


 何度もタコ足を斬り飛ばされ、それでもレイナーレに向かっていたクラーケンの姿は悲惨なことになっていた。

 あれだけ再生を繰り返した足も2、3本が半ばで再生が止まっていて、離れるように泳いでいく。


「前までなら逃がしてやっても良かったが……冒険者になったからには、きちんと討伐しなければならんのでな」


 逃げるクラーケンに手を向ける。


「《ブラッドエッジ》」


 赤い一条の閃光――とも見間違うような速度で、弧を描く形の刃が射出され、クラーケンの眉間付近に着弾する。

 途端にクラーケンから力強さが失われ、全身の色が濁ったような白に変わっていく。


「えぇ……魔法でクラーケン絞めちゃったよ」


 クラーケンはタコから進化した魔獣だ。

 その名残は色濃く残っており、脳付近を切り離せば絞めることが出来る。


「はぁ……やっぱり強いわねぇ。あっくんもSランクだし、ちょっと自信無くしちゃいそう」

「そんなに気にしなくてもいいのに。フレイだってパワーは一級品じゃないか。一個でも強みがあればいいって」


 少し肩を落とすフレイを慰める。昔の俺は強みが一つも無かったからCランクだった。

 今だって攻撃力や速度だってほとんど魔剣頼りだ。魔力出力ゼロという弱みを、魔剣と魔力量だけで補っている。

 素の俺はちょっと硬くて、ちょっと強いくらいでしかないんだから。

 ただフレイにそう言う裏で、ひっそりと思うことがあった。

 ――あいつ、使ったのは種族固有の能力と技術だけで、ジョブのスキル使ってないよな?


「そう? じゃ〜あ、お姉ちゃんがもっと強くなれるように手取り足取り鍛えてほし――」

「おいアベル! 仕留めたクラーケンはどうする?」


 ゆっくりと距離を詰めてきたフレイが手を伸ばしてくる寸前、レイナーレが飛んだまま大声で聞いてきた。


「じゃあ解体頼めるか? 足を輪切りにして胴体と別にしてくれ、こっちで収納するから!」

「人遣いが荒い奴め。お前の頼みだから聞いてやるんだからな!」

「……もうっ」


 レイナーレが解体と運搬を始め、陸ではフレイがいつもの大人らしさを捨てて可愛く頬を膨らませた時だった。


 ――ザバァァアアアンッッッ!


 さっき見たばかりのことが、湾の入口で起こった。

 海面が弾け、またしても吹き飛ぶ水のカーテンから姿を現したのは――。


「なに!? でっかい……クジラ!?」

「『フォルトレスホエール』だな。奴はクラーケンが好物だ。大方匂いを嗅ぎつけて追ってきたか」


 近くに退避してきたレイナーレの解説。

 巨大なクジラ、頭部に城塞のような分厚い装甲を持つA級魔獣、フォルトレスホエールだ。全長三十メートルの巨体を誇るくせに、氷の壁を飛び越えてきやがった。

 クラーケンの亡骸を見つけると飛び上がった勢いのままこちらに飛んでくる。

 

「海洋生物でしょ!? なんであんなに滞空時間長いの!」

「奴は風魔法を操るぞ。全身は硬く厚い甲殻に覆われている。特に頭部はオレでも抜けん(貫けない)

「大きくて硬い、魔法も使うなんて……気をつけて! 攻撃魔法の気配がす――」



「お、クジラ肉も追加だな」



 斬ッッッ……と。

 その巨体は俺が左腰にあった蒼氷剣グランシャリオを振り上げると同時に、真っ二つになった。


「クジラ肉は好きだっけ、あの婆さん……まあいっか、持ってきゃどうにかするでしょ。料理趣味だし」


湖斬(こぎ)り》で縦に分かたれたクジラが着水して水飛沫が広がる。

 よし、手土産が増えた!


「……そろそろ慣れてきたかと思ったけど、そう思ったらすぐに更新されるよ」

「それはそうだ、これがSランクだぞ。アベルと、その同類の奴らの底が知れるようなことが、そうあってたまるか」

「レイナーレも同じレベルじゃん」


 降りてきたレイナーレが三人に向かってなんか喋ってた。聞こえない、聞こえない。

 とりあえず運搬はしてほしい、解体と冷凍と収納はやるから。 

 結局、クラーケンに加えてクジラ肉まで増え、その解体と港の修繕に時間がかかった。

 魔剣をくれた婆さんのところへ行くのは翌日になった。



 ・ ・ ・ ・ ・



 ――その頃。

 エステナより北、大陸中央部のとある巨大な都市にて。


「どうして……どうしてこうなったのよぉ……!」


 ベッドの上で座り込み、泣きべそをかいている女が、一人居た。





・レイナーレ初登場時、初っ端の一撃に含まれる万感の想い。


「なんで気付いてくれないんだ、寂しいぞ!」

「やっと会えた! 嬉しいヒャッハー!」

「賢者だけならまだしも、なぜ他の女と一緒にいるんだ……?」


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