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キャブオーバー型ワンボックスカー 二

「っ……な、なんだ!?」


「ちょっ、おぉぉおっ!?」


 男たちの動揺する声が聞こえてくる。


 屋外から風が吹き込んで大きく揺れるカーテン。その一端を掴んで力任せに引っ張る。バチバチと小気味よい音を立てて、カーテンレールに取り付けられていた金具が弾け飛んだ。ついでにレールも落っこちてきた。


 宅内の様子が露わとなる。


 どうやらリビングのようだ。


 よかった、ちゃんとニート予備軍さんの姿が見られる。


 ここまでやって人違いだったら目も当てられない。


 車上から運び出された姿のまま、床上に寝かされてる。


「んうぅううううう!?」


 視界に女児を捉えて彼女の表情に変化が見られた。


 驚愕に目を見開いている。


 他方、男たちはベランダに女児の姿を眺めて狼狽。


「な、なんだよ、この子供は……」


「コイツ、どこの家のガキだ!?」


 尋ねられたとあらば、応えない訳にはいかないな。


 ベランダから宅内に躍り出る。


 軽くジャンプとかしちゃったりして、洋ロリ参上。


「吾妻アグダ、ヒーローさ!」


 シュタッと着地しつつのポージング。


 なんちゃら戦隊みたいな感じ。


 せっかくなので決め台詞付き。


「……吾妻? そんなやつ知るかよ」


「オ、オレの知り合いでもねぇよ!」


 互いに顔を見合わせた男たち。


 困惑の表情を浮かべて止まない。


「人目を憚り悪事を為さんとする不埒者たちめ。このアグダの目が黒いうちは如何様な不道徳もまかり通らん。お天道さまに顔を向けて歩けないような輩は、この場で閻魔様に代わって裁きを与えてくれよう」


 野次馬とか集まってきたら面倒だ。


 サクッと鎮圧してしまおう。


「ふざけんな、このクソガキ!」


 男の片割れがこちらに向かい手を伸ばす。


 手加減することを忘れてはいけない。


 土建屋さんとのお仕事で確認した限り、人体相手に遠慮なく四肢を振るった場合、触れた箇所が炸裂する可能性が高い。頭から血肉を被るような真似は御免なので、極力手を抜きつつの先手必勝。


 女児は男に向けてローキック。


「とぅ!」


「んぎぃぃっ……!」


 男の口から珍妙な悲鳴を上がった。


 足の甲に何かを砕いた感触。


 見れば相手の膝が真横に曲がっている。


 どうやら関節を粉砕してしまったようだ。皮膚を突き破り、白いものが剥き出しになっている。かなりグロい。命には別状がないけれど、見た目にとても痛いタイプのダメージを与えてしまった。後遺症も免れないだろう。


 手加減してこれかい。


「あ、足がっ、俺の足が……」


 男はその場に崩れ落ちた。


 床に身体を横たえて、負傷した膝を抱えるように背を丸める。その注目は正面に立った女児へ向かう。威勢がよろしかったのも束の間のこと。愕然とした表情を浮かべて、負傷した膝とこちらを交互に見つめる。


 その顎を軽く足の爪先で小突くと、白目を剥いて卒倒した。


 アグダちゃん強い。


「このガキ、ふざけんな!」


 時を同じくして、男の片割れが襲いかかってくる。


 手には大振りのナイフが握られているぞ。


 それを女児の頭部に向けて振り下ろさんとする。


「っ……!」


 スーパーマン仕様の女児ボディーでも刃物は怖い。


 腕の進行方向から逃れるように横っ飛び。


 男の攻撃は空を切った。


 いいや、ワンテンポ遅れて付いてきたブロンドヘアーがちょっとだけ切られて空中に散る。ほんの一瞬の出来事ながら、室内照明に照らされてキラキラと煌めく光景が、妙にゆっくりとしたものとして視界に映る。


「んぅぅうう! んんぅううう!」


 我が身を心配してくれているのだろうか、ニート予備軍さんから声が上がる。


 勢い任せに攻撃した為か、男は自らの腕に引っ張られて軽くたたらを踏んだ。


 その隙を逃すような女児ではない。


「せいやっ!」


 股間に向けて右足を蹴りつける。


 ヤクザキックだ。


 足の裏に何かを潰すような感触が。


「んぎぃぃぃいいい!」


 男の口から絶叫が上がった。


 そのまま泡を吹いて倒れる。


「金的大成功。中国語だとキムさん大活躍ですわぁ!」


 しばらく様子を窺ってみるも、ピクリとも動かない。


 流石はキムさん、いい仕事をしてくれる。


 からの、倒れたニート予備軍さんのもとへ駆け寄る。


 大急ぎで拘束を外す。


 猿轡は結び目を解くとすぐに取れた。手足に巻かれたガムテープのようなものは、男が振り回していたナイフを利用して切断。かなりきつく巻かれていたようで、手足首から先は紫色に変色していた。


「ニート予備軍さん、大丈夫ですか?」


「あ、ありがとう。もう駄目かと思ってた……」


 目元には涙が浮かんでいる。


 それでも声を上げて泣き出すようなことはなかった。とても強い娘さんだ。口調もしっかりとお礼まで言える。自身が同じ目に遭ったのなら気が動転してしまい、それどころではなかったろうな。


「すみませんでした。ニート予備軍さん」


「どうしてアグダちゃんが私に謝るの?」


「私なんかに付き合ったせいで、大変な目に遭わせてしまいました」


「ううん、そんなことはないと思う」


「だってこれ、公園に落ちてましたよ? 貴方の持ち物ですよね?」


 手にした旅行カバンを差し出して言う。


 すると彼女から続けられたのは、犯人たちが犯行に及んだ動機。


「この人たち前々から私のことを狙ってたみたいなの」


「そうなんですか?」


「車内で会話を聞いていた感じ、私のパパと仕事で揉めてたらしいの。それで大損こいて、腹いせに私のことを拐ったみたい。だから、アグダちゃんと待ち合わせで外出していなくても、いずれは拐われてたと思う」


「なるほど」


「むしろ、アグダちゃんとの待ち合わせのタイミングで拐われたからこそ、こうして助けてもらえたの。そうして考えると、命の恩人と言っても差し支えないよね。危ないところを助けてくれて、本当にありがとう」


「そう言ってもらえると、こちらとしても気が楽ですわね」


「それとごめんなさい、私のせいで髪を切られてしまって」


「え? あ、いや、それは全然構わないッスよ」


「こんなに綺麗なブロンドが不揃になってしまって……」


 背中に垂れていた頭髪にニート予備軍さんの手が伸びた。


 改めて床に目を向けると、かなりバッサリと切られていたようで、かなりの量の頭髪が散らばっている。自然と自身の注目も彼女の手元に向かう。けれど、それらしい切り口は見つけられない。


 ニート予備軍さんの口からも疑問の声が漏れた。


「……なんでかな、切られた部分が見つからない」


「以前の怪我と同じように再生したのかもですわ」


「交通事故のライブ配信、アレも本当だったんだね」


「信じてもらえたようで幸いですわ」


「中身がオジサンなのも、やっぱり本当なんだよね?」


「ええまぁ、その通りですとしか……」


 心のどこかでは、洋ロリ=オッサン説を疑っていたのかも。


 それが本日の騒動により確定してしまったという。


「ねぇ、アグダちゃん。これからどうしよう」


「この人たちッスか?」


「放っておいたら繰り返して狙われそうだし、できれば警察にしっかりと捕まえてもらって、牢屋に突っ込んで欲しいんだよね。もしかしたら今度はパパやママのことを狙ったりするかもしれないし」


「たしかにその可能性は高そうですわね」


「あと、以前からアグダちゃんの口調が安定しないの、どうしても気になる」


「碌に面識のない女子中学生とサシで会話とか、中年男性的にハードルが高いんで、メンタルが安定しないの分かってもらえませんこと? どうしても距離感が掴めなくて、今も試行錯誤しているおりますの」


「豪快に暴れてた割に妙なところで小心者だなぁ」


「世の中のオッサン、だいたいこんな感じだと思いますわ」


 オッサン口調だと不快感があるだろうし、かといって女児を装っても気色悪い。ライブ配信のノリでどうにかやり過ごせないかと、こちらも一生懸命なのだ。その努力だけでも伝わっていたら嬉しい。


「警察への通報とか、その辺りはニート予備軍さんにお任せしますわね」


「いいの?」


「ただ、できれば自分のことは内緒にしてもらえると嬉しいです」


「私が気づいたときにはこの状況だった、ということにしておく? 犯人たちは色々と言うと思うけど、小さな女の子から一方的にボコボコにされたとか、警察も信じないと思うんだよね」


 床に倒れ伏した男たちを眺めてニート予備軍さんは言った。


 大変ありがたいご提案だ。


「是非ともお願いしたいッス」


「任せておいて! これでもお芝居は得意なの」


「そういえばご職業、声優さんでしたわね」


「深夜アニメの端役しか任せてもらえないけどね」


 彼女の口から声優というワードが漏れたことで、ふと意識が他所に向かう。それは部屋を訪れてからずっと気になっていたブツである。リビングの中程、ソファーの脇に配置された三脚と、その天辺に取り付けられたカメラ。


 なかなか本格的な撮影機材である。


 一眼レフとかいうやつじゃなかろうか。


「そっちにあるカメラとか、回収したほうがよくないッスか?」


「え? あ、うん」


 歩み寄ってカメラを確認する。


 ステータスは撮影状態。


 思いっきりRECっていた。


 本来であれば、彼女のスナッフムービーを制作する為に用意されたのだろう。ニート予備軍さんは三脚からカメラを外すと、本体から垂れていたショルダーストラップを自身の肩にかけた。本体ごとネコババする腹づもりのようだ。


「それとこのバッグなんッスけど……」


「アグダちゃんにプレゼントするつもりで持ってきたから、そのまま引き取ってくれないかな? 以前の衣類と同じように、今の私にはちょっと幼すぎるから処分に困っていたの。もちろん無理にとは言わないけどね」


「ういっス。ありがたく頂戴します」


 やはりカバンの持ち主は彼女だった。


 女児用の小物類をゲットだぜ。


 髪留めとかちょうど欲しかったのでありがたい。女児に化けてからというもの、頭髪が邪魔で仕方がない。ちょっと前かがみになると、すぐにバサッと頭髪が顔全体を覆ってくれるの完全に罰ゲーム。


「ねぇ、そっちのビニール袋はどうしたの?」


「夕飯の買い出しに出ていたもんで」


「大立ち回りしていたけど、中身とか大丈夫?」


「えっと、あ……、大丈夫っぽいですわ。卵も割れておりませんの」


「そ、それはそれで凄いよね」


 ということで、ニート予備軍さんは警察に通報。


 自身はポリスメンの到着と入れ替わりで現場から撤収。


 事後のあれこれは彼女にお任せして、一足先に帰宅することにした。


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