キャブオーバー型ワンボックスカー 一
当面の稼ぎ口と衣類が確保された。
住まいは自宅アパートで問題なく暮らせているので、洋ロリの生活にも晴れて衣食住が揃った。こうなると日々の暮らしにも余裕が出てきたりして、動画投稿サイトでのライブ配信もおざなりになる。
ニート予備軍さんから衣類を頂戴した翌日。積んでいたゲームに夢中になり配信を休んだところ、視聴者三名から配信はしないのかと催促があった。たった一日休んだだけで、わざわざメッセージを送ってきたのである。
仕方なく翌日はライブ配信。
チャンネルを立ち上げると、すぐに視聴者が入ってきた。
三名ともほぼ同時刻にやってくるのだから驚いた。
「貴方たち、どんだけ暇にしているのかしら」
:私がプレゼントした服、ちゃんと着てくれてるんだね
:急に休むからニート予備軍さんと何かあったのかと思った。
:なんだい、アグダさんに服を貢いでやったのかい
:悪い?
:悪いとは言ってないだろうに。よく似合ってるよ
配信は自販機漁り以降、ずっとパスワード付きの限定配信。
交通事故の件があるので、当面はこのスタイルの予定。
「こんな素人の配信、眺めていて楽しいですの?」
:楽しくはないけど、その見た目は眺めていて目に優しい
:こうして意味のないことを駄弁っている感じが悪くない。
:まぁ、仕事の合間のいい息抜きになるような気はする
「貴方たちが満足してるなら、まぁ、それでいいですけれど」
しかし、ずっとこうして駄弁っている訳にもいくまい。
なにかしら企画的なことをやらないと間が持たない。
こちとら視聴者とは違ってカメラが向いているのだから。
「それじゃあ本日は、昼食の調理風景でもお届けしますわ」
:必死に背伸びをしてシンクに向かう姿が微笑ましい
:絶対に狙ってやってるでしょ、アグダちゃん
:もうちょっとスカートが短いといい感じだった。
パソコンのスピーカーから延々と視聴者たちのコメントが聞こえてくる。これに台所で手を動かしながら応える。その感覚は大学生の頃、意味もなく友達の家に集まって駄弁っていたときのような感じ。
ちょっとモラトリアムとか感じてしまう。
視聴者たちもそんな気分なのかもしれない。
:私、そろそろ仕事だから落ちる
しばらくしてニート予備軍さんが配信から出ていった。
それから数分ほどで昼食が完成。
合わせてライブ配信を終了した。
配信終了後、食事を取りながら動画投稿サイトを眺めていると、通知が入っているのに気付いた。なんでも未読のメッセージがあるとのこと。確認したところ、ニート予備軍さんから新着のメッセージが入っていた。
曰く、帽子や靴を発掘したから、それも取りに来い、とのこと。
衣類のみならず、他にも色々と恵んでくれるみたいだ。
申し訳ないとは思いつつ、素直にお頼み申し上げることにした。
待ち合わせの時刻は本日の午後八時、以前と同じ公園が指定されていた。
以降は日が暮れるまでゲームなどして過ごす。
夜になったところで隣町のスーパーまで買い物へ。
「さて、夕飯は何にしよう」
モフモフ星人さんに仕事を紹介してもらったおかげで、懐には多少余裕がある。しかし、中長期的な見通しが立っている訳ではないので、決して無駄遣いはできない。なるべく食費は押さえていきたい。
「麻婆豆腐にするか」
カートをガラガラと押しながら店内を見て回る。
野菜売り場でセールの文字に踊らされる。
「いや、待てよ。茄子が安い。やっぱり麻婆茄子にしよう」
稀によくある、麻婆チェンジ。
売り場に戻される豆腐。
野菜コーナーに並んだ茄子の具合をチェック。
すると、後ろから声をかけられた。
「お嬢ちゃん、一人でお買い物?」
「え? あ、はい」
カートを押したお婆さんだ。
ニコニコと人の良さそうな笑顔で語りかけてくる。
「小さいのにしっかりしていて偉いわねぇ」
「どうもです」
「茄子は葉っぱの部分の下が白いのを選ぶといいのよ?」
「そうなんですね。これとかでしょうか?」
「そうそう、今手に取ったのなんていい感じ」
「ありがとうございます」
何事かと思ったけど、通りすがりのいい人だった。
過去に経験のないイベントだったから、ちょっと驚いたぜ。見た目が女児っていると、こういうことも起こり得るのだな。正直、交流に心が温まる以上に、他人を騙しているようで申し訳ない気持ちになるぞ。
他者の目を盗むようにして、商品をカゴに放り込む。
逃げるようにフロアを移動。
セルフレジで会計を済ませてスーパーを出た。
そして、買い物袋を下げたまま公園に向かう。
本日、ニート予備軍さんとの待ち合わせに指定された場所だ。買い物袋を置きに一度自宅に戻ろうかと思った。ただ、手に荷物を下げていたほうが、なにかと理由を付けて早めに切り上げられそうだったから、そのまま向かうことに。
未成年と夜の公園でお喋りとか、世間体的に考えてちょっとどうかと思うし。
そうして訪れた先でのこと。
公園に面した路上がなにやら騒がしい。
まず目に付いたのは、道路脇に止められた業務用で有名なワゴン車だ。色は黒。ナンバーは県外。フロントや運転席、助手席以外の窓にはスモークが張られており、車内の様子はまったく窺えない。
車上から人の言い合うような声が聞こえる。
喧嘩でもしているのだろうか。
ただ、自動車はすぐに走り出してしまう。
「……なんだ?」
これを見送ったところで、公園に足を向ける。
すると、入ってすぐのところに何か落ちている。
ちょっと大きめの旅行カバンだ。
中身を確認してみると、帽子や靴、アクセサリーなどが沢山収まっていた。
奇しくも自身がニート予備軍さんから貸与されんとしていた品々と同様だ。
「えっ……」
これってまさか――
いや、悩んでいる余裕なんてない。
「ちょっとそこなワゴン車!」
旅行カバンを手に取り、大慌てで公園を飛び出した。
ワゴン車の走り去った方向に向かい駆け出す。
途中、路上に通行人の姿を確認したところで、意を決してジャンプ。道路沿いに立ち並んだ家屋の屋根に飛び上がる。すると、人間離れした健脚は数メートルという距離を一息に跳躍。見事に屋根の上に降り立つことができた。
味を占めた女児は、家屋の屋根を足場にしてワゴン車の行方を追う。
闇夜に紛れながらの追跡は忍者さながら。
アクションゲームの主人公にでもなったかのような気分。
しばらくすると向かう先に、見覚えのある県外ナンバーを補足した。
大きな通りとの十字路で信号に引っかかっている。
「どうすっぺ」
スーパーマンさながらの身体能力を思えば、真正面から突撃しても差し支えはないように思う。トラックに轢かれても無事だったのだ。ワゴン車程度は物の数に入るまい。また、仮に怪我をしても秒で完治してしまう。
ただ、車内でニート予備軍さんがエロいことをされている可能性は大。最近だと臓器目的の犯行も増えたというが。いやでも彼女の場合、実家がお金持ちだから、身代金目当てという線もあるのか。
同時に思うのはご本人のお仕事。
声優さんが変態に誘拐とか、世間に知れたらマイナスイメージは免れない。
可及的速やかに、尚且つ極秘裏にニート予備軍さんを救出しなければ。
「……こうして考えると、難易度がエグい」
そうこうしていると信号が変わり、ワゴン車が走り始めた。
大きな通りに合流して、追い越し車線を走っていく。
女児はアレコレと悩みながら追跡。
大通通り沿いに建ち並んだ建物の屋根や背の高い看板、路上標識などを足場にして、ワゴン車を追いかける。すると、自身が判断に躊躇している間にも、ワゴン車の進行方向に変化が見られた。
大通りから外れて細い路地に入ったのだ。
おやっと思ったのも束の間。
しばらく進んだところでハザードが灯る。
住宅街の一角、戸建ての駐車場にバックで車庫入れだ。
高級住宅街とは呼ばれる界隈でも下町の姿を残すエリア。築古の小さな木造住宅が並んでいるような地区。ワゴン車が止まったのは、そんな区画に立った家屋だった。一階が駐車スペース兼ガレージの三階建て。
近所の建物の屋根上から様子を窺う。
すると自動車から人が下りてきた。
運転席から一人と後部座席から一人。
そして、両名に脇を担がれる形でニート予備軍さん。
「んんぅぅうう! んんぅううううう!」
彼女は口元に猿ぐつわを噛まされており、両手両足をガムテープのようなもので縛られていた。身を捩ったり何をしたり必至に抵抗する素振りが見られる。けれど、満足に身動きを取ることも叶わないようである。
誘拐犯たちは彼女を両脇に抱えて戸建てに入っていった。
「これもう突撃しかないですわね」
躊躇している余裕はなさそうだ。
なにより自身の為に公園まで外出した結果、こうして拐われてしまったという経緯がよろしくない。責任の一端を担ってしまった女児としては、是が非でも彼女のことを救出しなければという気持ちになる。
しばらく待つと、男たちとニート予備軍さんが宅内に収まった。
少し遅れて二階の一室に明かりが灯る。既に日も落ちて久しい時間帯。カーテンが閉められているけれど、隙間からこぼれる僅かな明かりが目に付いた。一方で他の部屋には変化が見られない。
「あの部屋か……」
ニート予備軍さんの所在を確認した女児は移動を開始。
明かりの灯った部屋に向かう。
路上から一息にジャンプ。
二階のベランダに侵入した。
「…………」
窓ガラスに耳を当てて室内の様子を伺う。
すると、男たちの声が聞こえてきた。
「まさかこんなに上手くいくとは思わなかったな」
「このクソ暑い中、日中から見張ってた甲斐があるってもんだ」
「目にもの見せてやろうじゃないか、あのクソ野郎に」
「あぁ、全身の肉という肉、生きたまま剥ぎ落としてやる」
「最後は目ん玉を引っこ抜いて、そのまま死ぬまで放置だな」
これまた物騒なやり取りが聞こえてきた。
どんだけ恨み買ったらそうなるの。
おかげで同室にニート予備軍さんの存在を確信できた。クソ野郎というワードから察するに、彼女の知り合いと男たちの間で何かしら怨恨が発生。そのしわ寄せが彼女に向けられたのではなかろうか。
聞いた感じニート予備軍さんの生命は風前の灯火。
「……よし」
事態は火急を要する。
女児は真正面から突撃である。
「そぉーい!」
とりあえず、ヤクザキック。
ベランダに面した掃き出し窓を蹴りつける。
柔軟性に富んだ女児に股関節は、自身が想像した以上に高いところまで脚部を押し上げた。なんと爪先が頭部の辺りまで伸びたから驚いた。足裏はクレセントの取り付けられた召合わせ框の辺りに見事ヒット。
ガラスを木っ端微塵に粉砕しつつ、窓をサッシごと窓枠から宅内に吹っ飛ばした。




