バグじゃありません、仕様です
日に日に短くなる日照時間に冬の訪れを意識し始めた十一月も中頃。
プリンセス☆ステージのゲームアプリがリリースを向かえた。
昨日まではカウントダウンイベントと称して、連日にわたりソーシャルメディアを騒がしていた。おかげさまで事前登録者数は最終的に六十五万人を突破。この手のゲームの事前プロモとしては大成功と称しても過言ではない。
普段なら女性向けアイドルやVTuber、野球中継などに占拠されているソーシャルメディアのランキングが、軒並み本作のタイトルやキャラ名などによって埋め尽くされていた。一矢報いた感じがちょっといい気分だった。
「いよいよだね、アグダちゃん」
「ええ、そうですわね」
ゲームアプリのリリース日は休日
お互いに仕事が入っていなかったことも手伝い、普光院さんに誘われて、彼女の自宅近所の公園に集合した。曰く、せっかくだし一緒に遊ぼうよ、とのこと。何度も断ったのだけれど、それ以上に繰り返して誘われた為、仕方なく応じた次第。
ベンチに並び腰を落ち着けて、各々スマホを眺めている。
「あっ、はじまった!」
「こちらもログインできましたの」
「それじゃあプレイしようか」
「承知しましたわぁ」
タイミングを合わせてスタートボタンを押下。
スマホから軽快なサウンドが流れ始めた。
しばらくするとオープニング映像が再生される。
ひとしきり見終えるとチュートリアルが開始。
画面の案内に従ってゲームのプレイスタイルを学んでいく。ゲームシステムは典型的なアイドル育成モノ。プレイヤーはアイドル事務所のプロデューサーとなり、所属するヒロインたちをトップアイドルに導いていくというもの。
ゲームは日常会話を主体としたアドベンチャーパートの他、育成を行うシミュレーションパート、育成の成果を問われるライブ&イベントパート、それらの業務内容を抽象的に表現した各種ミニゲームによって構成されている。
あぁん? おかしいなぁ。
プロデューサーの仕事といえば、スポンサーや利権屋さんとの交渉、制作会社との調整、イベント企画やマーケティングの統括などがメインタスクでは? けれど、そういう仕事は存在しないらしい。
きっとプレイヤーの知らない間にササッと終えているのだろう。
また、各々のヒロインには専用のシナリオが用意されている。これを眺めてニヤニヤするのがプレイヤー的には楽しいのだろう。そうした気持ちは分からないでもない。要は一昔前のギャルゲである。
「自分の声がスマホから聞こえてくるの、なかなか慣れないよね」
「そうですわねぇ」
十分ほどでチュートリアルを完了。
ゲーム本編を楽しむことに。
「アグダちゃんのスマホ、ファンがめちゃくちゃ回ってない?」
「ご指摘の通りやたらと熱々で今にも燃えてしまいそうですの」
「前々から思ってたんだけど、かなり古い機種を使ってるよね」
「最近のスマホは高いから機種変更をするのも億劫ですわぁ」
「フラグシップモデルとか本当に高くなったよねぇ。なかなか手が出ないよ」
「そんなこと言いつつ、普光院さんのモデル最新型じゃないのですの」
「こ、これは、ほら、その。プリステの役が決まったお祝いにって……」
そうこうしていると画面がフリーズ。
いよいよ熱暴走だろうか。
「言っている傍から、ゲームがフリーズしてしまいましたの」
「あっ、私も止まっちゃった!」
「見たところ同じ場面で止まっていますわね」
普光院さんの手元を確認すると、ちょうど自身と同じ画面。
だとすると、熱暴走は関係ないと思われる。
ネットワークやプログラム的な問題ではなかろうか。
そして、しばらく待ってみても動き出す様子は見られない。
「アグダちゃん、どうしよう?」
「再起動するしかありませんわね」
アプリを落として、ゲームを強制的に再起動。
すると、また最初からスタート。
データが上手くセーブされていなかったようで、もう一回チュートリアルをプレイする羽目になった。またフリーズしたらどうしよう。そんなことを考えながら、画面を指でポチポチとやっていく。
すると今度はフリーズせずに画面が進捗。
「よかった、今度はうまく行ったよ」
「今日がリリース当日、それもサービス開始直後となりますから、ユーザーのアクセスが集中してサーバが一時的にパンクしたのかもしれませんわね。一昔前のネトゲではよくあったことですわぁ」
「そうなの?」
「半日分の経験値とドロップアイテムがロールバックとか、日常茶飯事でしたの」
「お客さんは怒らなかったのかな?」
「それはもう怒り心頭だったのですけれど、ゲームの出来栄えがよかったものですから、なんだかんだと悪態をつきながらもプレイしていましたわね。今にして思えば、あの頃こそ人類のゲーム史における頂点であったのかもしれません」
今となってはガチャだの課金だの、ゲームなんて二の次、三の次。
本当に悲しい時代になってしまった。
定額課金オンリーのネトゲは我々氷河期世代、安住の地であった。
「こういう話を耳にすると、アグダちゃんの中身がおじさんだって思い出すよ」
「常日頃から意識してもらえると、こちらとしては助かるのですけれど」
「そうは言っても、見た目は非の打ち所がない美少女だからなぁ」
雑談を交わしながらゲームを進める。
すると今度は立ち絵が崩れ始めた。
シーンはアドベンチャーパート。主人公の前でキャッキャと動き回っていた、ヒロインたちのアニメ調な立体モデル。それがポーズを組み替えるのに際して、人体の骨格を無視した奇っ怪な形に変形してしまった。
しかも待てど暮せど元に戻る気配がない。
「どうしよう、アグダちゃんの顎が地面に突き刺さってる!」
「こっちでは普光院さんの腕が壁を突き破っておりますわぁ」
それでもフリーズしなかったのは幸い。
仕方がないのでそのままゲームをプレイ。
平然と会話をする様子はとてもシュール。
なんならそのままモーションを実行したり。
「よかった、次のシーンでは元に戻ったよ」
「戻らなかったら一大事だと思いますの」
先程のフリーズ現象は、サーバの負荷が原因かもしれない。それなら設備の増強で容易に対応できるだろう。けれど、これは絶対にバグだ。プログラムがバグっている以外に考えようがない。
そうかと思えば、今度はライブパートで異常発生。
本作のライブ&イベントパートには、シミュレーションパートで育成したアイドルたちでユニットを編成して臨む。システムは、いわゆるデッキ構築系のローグライク。カードを揃えてライブを成功に導こう、みたいな感じ。
デッキを構成するカードはシミュレーションパートやアドベンチャーパートの行動次第で手に入るようになっている。また、効果が高いカードは基本的にガチャ。ゲーム攻略に課金要素がガッツリと入っている。
「序盤はテンポ良くプレイできていいね!」
「でないとユーザーが離脱してしまいますから」
「あれ? 山札がなくなってもカードが引ける」
「チート機能搭載ですわね」
「ゲームが苦手なユーザーの救済措置かな?」
「そんな訳ないと思いますけれど……」
そんな感じで一時間ほどの間に不具合が連発。
しまいには又しても画面がフリーズ。
ゲームを再起動する羽目になる。
しかもオートセーブが機能していなかったのか、何故か最初からゲームをやり直す羽目になった。この手のソシャゲはユーザーがセーブデータを触ることができない。なのでこうなると打つ手もなし。
アプリを起動すると、オープニングの映像が流れる。
そして、チュートリアルが表示されるのだ。
何度か再起動を繰り返しても、画面には変化がない。
黙ってさっさとチュートリアルをプレイしろ、と。
ここで普光院さんがギブアップ。
「うわぁぁぁぁ、また最初からだよっ!」
「こっちも見事にリセマラ状態ですの」
「アグダちゃん、なんかこれってさぁ……」
「控えめに申し上げてクソゲーですわぁ」
ふと気になってSNSに目を向ける。
タイトル名で検索――する必要もなかった。
トレンド欄にその名前が上がっている。
クリックして確認すると、想像通りのコメントが並ぶ。
“プリステの新作、バグり過ぎ”“これテストプレイしてなくない?”“強制リセマラ勘弁”“ヒロインの顎がカメラ突き刺したんだけど”“ペットの犬が空中浮遊する”“課金アイテムが消えたんだけど?”“フリーズ連発ヤバすぎ”“そもそもゲームが起動しないっていうwww”
思いっきり炎上しちゃってるじゃないの。
それはもうメラメラとよく燃えている。
同じような光景を普光院さんも見たようだ。
自身のスマホを眺めながら困ったように言う。
「ネットの反応が大変なことになってるよぉ」
「盛大に燃え上がっておりますわね」
「これって大丈夫なのかな?」
「絶対に大丈夫じゃないと思いますの」
西表島でのグラビア撮影を思い起こす。アプリの売上がよければ、旅費なんて一日で回収できますよね、とは高嶺先輩の問いかけ。対してテレビ局の偉い人が口を濁していた理由はコレだったのか。
彼はゲームアプリの出来栄えを知っていたのだ。
◇◆◇
見たくはないと思っても、気になってしまうのがネット上の評判。
作品のスマホゲーム板を直接覗く勇気は、自身にはなかった。
代わりに少し距離を設けて、自身の個人スレを眺めてみることに。
【アグダちゃん Part15(923)】
0892 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:45:03.73
バグがエグい、三回目の強制リセマラ
0893 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:45:44.10
五回目で挫けた
0894 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:46:08.93
オートセーブが死んでるとか意味不明
0895 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:47:10.33
アグダちゃんの担当ルート、シナリオは面白い
0896 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:47:42.87
それ思った。コミカライズしてほしい
0897 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:48:23.32
シナリオはよかった、マジよかった
0898 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:48:54.21
早くシナリオ見たいのに、強制リセマラ三回目
0899 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:50:13.66
小浜島から成り上がっていくのいいよね
0900 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:51:45.63
石垣島が大都会扱いで草生えた
0901 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:53:01.76
那覇が世界都市とか言ってたな
0902 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:53:34.42
バグで東京未実装なの笑ったwww
0903 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:54:59.10
ここで小浜島生まれ参上。石垣島はマジ大都会
0904 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:55:01.47
石垣島生まれからすると、那覇はふつうに世界都市
0905 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:56:33.28
小浜島ってどこ?
0906 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:58:19.99
石垣島からフェリーで三十分くらい
0907 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:59:03:56
そもそも石垣島ってどう行くのよ?
0908 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 20:59:23.01
羽田から飛行機で行けるよ
0909 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:00:29.78
一日二便しかないけどね
0910 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:01:58.68
那覇を経由すればそれなりに便がある
0911 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:03:34.45
東京からだとフェリーの時間がシビアなんだよな
0912 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:03:45.54
あぁぁぁぁ、またフリーズしたぁあああああ!
0913 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:04:30.43
なんなのこのクソゲー
0914 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:05:53.67
シナリオが読みたいだけなのに!
0915 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:07:13.30
ゲームいらんからシナリオだけくれ
0916 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:07:51.44
プレイ動画探してみたら?
0917 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:09:10.54
まだ出回ってないっぽい
0918 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:10:52.58
強制リセマラの動画ばっかり検索に引っかかる
0919 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:11:43.54
アプリが炎上してインフルエンサーの餌になってる
0920 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:12:21.90
開発元どこだよ?
0921 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:12:33.32
それが前作と同じところなんだよなぁ
0922 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:13:37.25
アグダちゃん、せっかくヒロイン役をゲットしたのにね
0923 名無しさん@お腹いっぱい 20xx/xx/xx() 21:14:49.42
次の作品に期待かなぁ
ゲームのバグに対する恨み辛みが多数。
一方でアグダ氏が担当したキャラクターのシナリオについては、かなり評判がいいっぽい。少なくとも否定の書き込みは一つも見られなかった。自身はバグに阻まれて、まだ全然プレイできていないけれど。
正直、チュートリアルからやり直す気力は湧いてこない。
きっとこのままお蔵入りなんだろうな、などと思う。
本作はカクヨムで「先行連載」を行っております。
「アグダちゃん」で検索、もしくは以下のURLからどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/2912051596661307013




