それでも私はやってない
翌日は予定通り、異世界での食事風景を配信することにした。
「本日は皆さんに異世界のグルメをご紹介ですわぁ」
冒頭から飲食店内の風景を映す。
店内に設置されたテーブルの上、自撮り棒を変形させて三足の卓上スタンドとして配置している。椅子に付いた自身と店内の風景とを同時に映すことができる。当然ながら手元に置かれた料理もバッチリと映っております。
「まず最初はサラダから。こちらは町の近所で取れたという根野菜と葉っぱのサラダですわぁ。上にかかっているソースは正直よく分かりませんけれど、やたらと香辛料の効いたフレンチドレッシングのような感じですわぁ」
:なんと適当な食レポだろうか
:お喋りから食ってるものが想像できない
:というか、食べるのに夢中な予感
:腹ペコか
:カメラに映ってる食材も謎なんですが
:見たことない野菜が入っとる
:色合いに不安を覚える
:店員さん、めっちゃこっち見てる
:異世界には自撮り文化がないっぽい
「食材は異世界産とのことで、わたくしも初めて目にするものばかりですの」
開店直後と思しき早めの時間を狙った為か、店内に人は疎らである。おかげで落ち着いて食事を楽しむことができそうだ。カメラに向かってブツブツと言っている女児に、店員は訝しげな表情を向けているけれど。
「次いで副菜、見たところ魚介類を利用したクリーム煮込みのようですわぁ。小粒のエビやイカの切り身っぽいのが沢山放り込まれておりますの。付け合せのバゲットをソースに付けていただくといい感じですわぁ」
:待望の食事シーンなのに生成AIがガバらない
:コメント読みしてるってことはリアルタイム?
:恐ろしいことにリアル配信なんだよなぁ
:ファンタジー映画でも見てるようなんだが
:イケメンはどこ行っちゃったの?
:絶世のイケメンが見られると聞いてやって来ました
:イケメンはキンタマ潰されて退場しました
:ちょっと待って、どういうこと?
:イケメン出てこないの? イケメン見たいんだけど
:キンタマ潰されたイケメンでもいいので見たい
:前回の放送分を見てくるといい
本日も視聴者の喰い付きは上々。
ロリコンのことは知りません。
彼はレギュラー落ちしましたので。
「さて、メインディッシュがやって参りました。港町なだけあって、お魚料理がオススメとのことでした。白身魚のポワレって感じでしょうか。ソースはバターと柑橘系がベースですわね。そこに刻んだキノコや海藻が入っておりますの」
:だんだんお腹減ってきた
:アグダちゃん、美味しそうに食べるなぁ
:お上品な食レポとは違った良さがある
:躊躇なくガッツイていくスタイル
:どんだけお腹へってたの
:口の周りにソースついてるよ、ソース
:今日の晩御飯、魚料理にしようかな
:最近はお魚も値上がりしたよねぇ
:これって一人前どれくらいするんだろう?
「気になるお値段ですけれど、一人前で銅貨五十枚とのことですわぁ」
肝心のお味もそれなりに美味しい。
お残しをすることもない。
:銅貨五十枚って具体的にどんくらいなの?
:一枚十グラムと仮定すると、時価で八、九百円
:えっ、めっちゃ安い
:異世界ってかなり物価が安いんだね
:異世界では銅の価値が高い説
:自炊するなら二、三千円くらい?
:魚介類が高いからなぁ
:エビやイカは外国産でも地味に値が張る
:ソース類もそれなりにかかりそう
:外食だと五、六千円くらいかな?
異国の料理というと、お腹を壊したらどうしようとか、得体の知れない病気になったら大変だとか、色々と思うところはある。けれど、それもこれもまとめて解決してくれるのがアグダ氏の健康優良児っぷり。
オートリジェネを信じてお腹いっぱい堪能。
そうして締めのデザートが出てきた辺りでのこと。
お店の出入り口が大きな音を立てて開かれた。
バァンって感じ。
屋外から現れたのは憲兵たちだ。
厳しい表情を浮かべながら店内に入り込む。
居合わせたお客さんはこれを驚いたように見つめている。そうした店内の反応に構うことなく、憲兵たちはキョロキョロと店内を見渡す。やがて、隅の方で自撮りしている女児と目があった。
「いたぞ、あそこだ!」
憲兵の一人がアグダ氏を指差した。
間髪を容れず駆け寄ってくる面々。
すぐにテーブルを包囲されてしまう。
「これは一体どうしたことかしらぁ?」
「お嬢さん、我々にご同行を願いたい」
有無を言わせない強い口調で問われた。
全員、かなり殺気立っている。
「理由をお伺いしたいのですけれど」
「尋ねますが、貴方は貴族であらせられるかな?」
「残念ながら、こう見えて平民の子供ですの」
「それなら構わない。しょっ引いていけ!」
数名いる憲兵の一人が声高らかに言った。
応じて残る面々が動き出す。
瞬く間に取り押さえられてしまうアグダ氏。
改めて店内に意識を向けると、遠巻きに我々の様子を伺う店員さんの姿が見られる。先方はこちらと目が合うと、すぐに厨房へ引っ込んでしまった。以降、しばらく待っても顔を見せることはない。
憲兵にチクったの、彼女だったりするのかも。
「オマエを反逆罪の容疑で捕縛する」
「そんなごむたいな。冤罪ですわぁ」
「連れて行け!」
なんてこった、逮捕されてしまったぞ。
卓上には手付かずのデザートが残っているというのに。
◇◆◇
結論から言うと、牢屋に突っ込まれてしまった。
「なんてこったですわぁ」
荷物も取り上げられてしまった。
当然ながら配信は一時停止。
世界を行き来する為の穴は咄嗟に塞いだ。その先に通じている自宅の存在がバレることはないだろう。ただ、カメラやスマホの扱いはどうなるか分からない。後者は自動的にロックがかかるので、彼らにしてみればただの金属板に過ぎないだろうが。
「…………」
ところで、牢屋内はそれなりに騒々しい。
というのも、絶えず呻き声が聞こえてくる。
ホラー映画みたい。
出所は他所の牢内。
怪我をしている人が多数収容されている。
自身の目が届く範囲であっても、対面やハス向こうの牢内に転がっている人たちは、例外なく身体を血に濡らしている。四肢が欠損しているような方々もチラホラと見られたりして、かなり痛々しい光景だ。
「…………」
まぁ、地球に通じている穴はどこからでも呼び出しが可能なので、その気になればすぐにでも自宅に逃げ戻ることができる。また、アグダ氏の剛腕にかかれば牢獄の格子とて、簡単にひん曲げて脱出することが可能だろう。
まだ慌てることはない。
それにこれはこれで美味しい状況。
撮れ高が見込まれる。
ということで、配信だ。
「……これで、よし」
穴を経由して自宅から予備のカメラを持ち込む。
こちらを利用して自宅のノートパソコンを経由しつつの配信。ちょっと長めのUSBケーブルを利用すれば、穴を通して有線で接続ができる。穴自体は自身の身体に隠して視聴者からは見えないようにする。
「皆さん、お待たせしてしまい大変申し訳ありませんでした。憲兵に囚われて、しょっぴかれてしまいましたの。ということで、これからは牢屋の中から配信を行っていきたいと思いますわぁ」
:こんなに待つとは思わなかった
:配信事故? 事故ちゃった?
:また背景がすごいことになってる
:相変わらず脚本がぶっ飛んでる
:めっちゃ牢屋っぽい
:ベッドがめちゃくちゃ汚い
:隣のツボってまさかトイレ?
:こんなところまで気合い入りすぎ
:何をして兵に囚われたのか
注意すべきは他所の牢に収まった重症者たち。
万が一にも写り込まないようにしないと。
その関係でカメラは格子の前に配置。
牢内を入口から奥に向かって捉えている。
これなら牢獄内とアグダ氏しか映らない。
「こちらは昨日にも話題に上がっていた、領主の屋敷にある牢獄なのですわぁ」
:牢屋からも配信可能というガバ設定
:背景がリアルすぎて怖い
:なんか呻き声とか聞こえてくる
:雰囲気が半端ないんだけど
:どうして牢屋に突っ込まれたのか
:脚本書いてるの誰だよ
:シナリオが突拍子もない
「皆さん、聞こえますかしら? 牢内では絶えず呻き声が聞こえてまいります」
配信が中断したものの、半分ほどの視聴者はチャンネルに残ってくれていた。飲食店でひっ捕らえられてから牢内に移動するまで、小一時間は放置していたというのに、よくぞ待ってくれていた。
おかげでちょっと感激。
「わたくしの収まっている以外の牢には、怪我をした方々が囚われているようですの。あまりにも惨たらしい光景が広がっているので、映像を流すことは控えておきます。スプラッター映画の流血シーンさながらですわぁ」
:どうやらゴリ押しで進めるらしい
:牢屋に突っ込まれた割にやたらと冷静なの草
:テーマパークのアトラクションの添乗員みたい
:声優やってるだけあって、お喋りはいい感じ
:これからどうするつもりなのか
:せっかくなので壺トイレ使って欲しい
:アグダちゃんの貴重な排泄シーン
しばらく配信していると、人の足音が聞こえてきた。
カツカツと固いもので石畳を規則的に打つ音。
段々と近づいてくる。
「人がやってきたので、しばらくは反応がなくなりますわぁ。お待たせしてばかりで申し訳ないのですけれど、サウンドオンリーでお楽しみいただけたら幸いですの。会話の内容はまた後で翻訳いたしますね」
カメラをベッドの陰に移動させる。
これで視聴者からは牢獄の壁しか見えない。
万が一の際は、穴を閉じれば配信は打ち切れる。
「……子供の割に落ち着いているな」
やってきたのは騎士っぽい格好の人物である。
先程の憲兵たちと比較しても偉そうな佇まい。
それが自身が収まった牢の前で立ち止まった。
「ノーブルはどこにいる?」
「ノーブル? はて、どちら様でしょう」
牢屋の格子越しのやり取り。
先方の口から漏れたのは初めて耳にするフレーズ。人名のようであるけれど、そのような人物に覚えはございません。こちらの町を訪れたのも、つい先日の出来事。誰か別人と勘違いしているのではなかろうか。
「昨日、オマエが町中で合っていた人物だ」
「それはもしや王立研究所の方かしらぁ?」
「あぁ、そうだ」
原因、ロリコンだった。
彼と話しているところを目撃、通報されたようだ。
本当にどうしようもないロリコンだよ、アイツは。
「彼がどうかしたのですか?」
「知らないのか? あの男がこの町でやらかしたことを」
「領主様と揉めているとは噂話を耳にしましたけれど」
「把握しているなら吐け。あの男は今どこにいるんだ?」
「そこまでは存じませんわぁ」
「隠し立てすると為にならんぞ?」
「本当に知りませんの。一方的にナンパされただけですから」
「……ナンパ?」
「知りませんの? 彼ってば筋金入りのロリコンですわよ?」
「…………」
騎士の人、黙ってしまったよ。
やはりというか、彼も思うところがあるらしい。
町で耳にした噂話は真実であったようだ。
伊達に領主の娘を父親の前で所望していないぜ。
名実ともにロリコン認定しておこう。
「だとすれば、居場所くらいは聞いているのではないか?」
「ああいうのはタイプではありませんの。知りませんわぁ」
「その言葉を素直に信じろと?」
「そうして下さると幸いですの」
「……まぁいい、すぐに判明することだ」
「どういうことですの?」
「他所の牢の様子が目に入らないか?」
「まさかとは思いますが、こちらに見られる方々は全員……」
「オマエのような子供が拷問に耐えられるとは思えないからな」
一方的に語って騎士っぽい人は去っていった。
領主の容態はかなり悪いのだろう。
余程のこと追い詰められていると思われる。
それでいて捕まっていないロリコンの身軽さには、色々と思うところがないでもない。平然と町中で買い物とかしていた。もしかしたら魔法的な何かを利用して、常日頃から身を隠しているのかもしれない。
:先日のロリコンが何か悪さしてた感じ?
:それっぽいやり取りが聞こえてきた
:っていうか、カメラを映して欲しい
:映像がないと何が何やらさっぱり
:GPUの課金切れか?
:割とその可能性が高そう
:イケメンが領主の娘をヤッちゃった?
:あまり変なことコメントするとBANされそう
:異世界ってあまり治安よくないのな
耳に嵌めたイヤホンからは視聴者から苦情の嵐。
放置プレイばかりしているから。
「大変お待たせいたしました。掻い摘んでご説明をしますと……」
監視の目が消えたところで、カメラを元の場所に戻した。
騎士っぽい人とのやり取りを視聴者の皆さんにもご説明。
面倒ではあるけれど、配信を行っている手前仕方がない。
我ながらよくまぁこんな状況でライブ配信していると思うよ。
「……と、いう訳ですわぁ」
:ロリコン本当にどうしようもないな
:イケメン無罪って言うじゃない
:巻き込まれた人たちが可愛そう
:拷問の内容に興味津々です
:アグダちゃん、マゾっぽいよね
:もしや自分から捕まった説
:段階落ちの気配を感じる
:マップの隅の方にスラム街
:ボタン連打で脱出可能=連打しない
:姫と書いて器と読む
:最近、女性主人公のゲームが減って悲しい
:マジそれな
:黒タイツ好きおじさんを信じろ!
諸々意見が上がってくる。
やはりというか、拷問なるワードが視聴者たちの気を引いたようだ。そこはかとなくアダルトな気配が漂っているのは、これ以上掘り下げるとチャンネルに悪影響が出てきそうでヒヤヒヤとする。
何か他に話題はないものか。
改めて牢内に意識を向ける。
自ずと意識が向かったのは他所の囚人。
牢内に見られる怪我人たちは、騎士の語っていた拷問によって生み出されたのだろう。なんとおぞましい行いもあったものか。自分なら爪を一枚剥がされただけで、あることないこと喚き散らす自信があるぞ。
先程のやり取りが事実なら、大半は冤罪のようなものではないか。
こちらの世界は上から下まで、総じて倫理観がユルユルのようだ。
自身の視線を追いかけて、視聴者たちの意識も他の囚人たちに向けられる。配信画面には映っていないけれど、彼らが発している苦悶の声は、今も絶えずマイクに拾われて配信先に届けられているから。
:呻き声がリアル過ぎて背筋が伸びる
:画面外に囚人がいるんだよね?
:めっちゃダメージ受けてそうなんだけど
:今にも死にそうなボイスがおっかない
:この声も生成AIなの?
:ここはアグダちゃんが活躍するシーンでは?
:バトルシーンで魔法を使ってたよね
:ロリコンに思いっくそファイアーしてた
:異世界って回復魔法とかないの?
:ヒールするしかないでしょ、常識的に考えて
「ご指摘の通り、回復魔法が使えたらよかったのですけれど……」
残念ながらそちらは未習得。
ここ最近は練習すら滞っていた。
他にやることが沢山あったから。
せめて挑戦くらいはしてみようか。
あまりにも可愛そうだから。
こちらに囚われている人たちが。
「回復魔法の行使に必要な詠唱は教えてもらったことがありますの」
幾度となく唱えていたので内容は暗記している。
カメラの前、正面の牢獄に向けて両腕を掲げる。
レッツ念仏。
逆ハーの姫から教えてもらった呪文を口にする。
「っ……!」
すると、これはどうしたことか。
両手の平が淡い光を放ち始めたぞ。
薄暗い牢内をじんわりと照らしている。
人体とか癒やしてくれそうな優しい煌きが。
:どう考えてもヒール確定の演出
:エフェクト入りましたな
:薄暗がりでぼんやり照らされたお顔がイイネ
:本人も存外のこと驚いておりますが
:アグダちゃん、俳優としてもやっていけそう
:たまに声優だってこと忘れそうになる
:やってることが完全に芸人なんだよなぁ
:小さいのに多芸な子だねぃ
:テレビとかで活躍できそうな子だよ
呪文の詠唱を終えると同時に、正面の牢内で変化が見られた。
ベッドに横になっていた人が、自身の手を覆っているのと同じ色合いの光に包まれて、ぼんやりと照らし上げられる。強張っていた全身が弛緩すると共に、その口から疑問の声が漏れて聞こえる。
「い、痛みが、消えていく……?」
より顕著な反応が見られたのは下半身。
失われていた右足がニョキニョキと生える。
「なっ……!」
これには本人も驚いたようだ。
目を見開いて自身の足を凝視。
どうやら土壇場で回復魔法が発動したようだ。
本物の負傷者が目の前に見られたからか。
過去になく強く回復魔法を求めたからか。
色々と理由は思いつく。
「回復魔法、成功しましたわぁ」
いずれにせよ、これ以上ない見せ場のシーン。
女児は大慌てで手元のカメラを正面に向ける。
ニョキニョキと生えていく囚人の右足を視聴者にお届け。骨が生えて筋や肉が付いて肌が張り巡らされていく様子は、見た目完全にエンタメ。グロさは消えてSF映画でも眺めているような光景である。
似たようなシーンを同一サイト上の映画予告で見たことあるからきっと大丈夫。
:お向かいさんの足がとんでもないことに
:これがアグダちゃんの回復魔法?
:人体ってこんなふうになってるんだなぁ
:周りに付着した血糊がめっちゃリアリティ
:どうやったらこんな映像が撮れるのよ
:最近の生成AIってヤバくない?
:生成AIっていうよりVFXだと思うんだ
:アグダちゃん、専属チーム囲んでない?
視聴者からの反応は上々だ。
彼らもまさか本当に人体が癒えているとは夢にも思わないことだろう。例によって生成AIやVFXを主張する声が大半を締めている。一度は減った同時視聴者数もじわじわと上昇を見せている。
しばらくすると対面の牢に収まっていた囚人から声がかけられた。
「お嬢ちゃん、まさかアンタが治してくれたのか?」
「要らない心配だったらかしら?」
「そんなまさか? 文字通り生き返った気分だぜ」
「それはなによりですわぁ」
「しかし、せっかく治してくれたところ申し訳ない。ここから出られないことには同じことの繰り返しなんだ。この町の領主も自身の生き死にが懸かっているから必死なんだろう。拷問は日に日に酷くなるばかりでな」
「そういうことでしたら、さっさとトンズラするとしましょう」
お向かいさんの言葉に応じて立ち上がる。
床に配置したカメラはそのままに格子の前へ。
金属製のそれを両手で握る。
そして、おもむろに左右へと引っ張ってみる。
格子は面白いくらい簡単に拉げた。
「んなっ……!」
目を見開いてこちらを見つめているお向かいさん。
そんな彼に女児は意気揚々とお伝えする。
「ここに囚われている方々の事情は、わたくしも聞き及んでいます」
「そ、それじゃあ、自分らも一緒に……」
「皆さんお誘い合わせの上、五体満足でプリズンブレイクですわぁ」
ということで、手始めにお向かいさんの格子をへし曲げる。
こちらも自身が収まっていた牢と同じく簡単に開放できた。
先方はパワフルな女児におっかなびっくり。
以降、同じことの繰り返し。
牢獄内を歩き回って、片っ端から回復魔法を行使。
合わせて牢屋の格子をひん曲げる。
囚われていた囚人たちを牢内から開放していく。
:アグダちゃん、めっちゃパワフル
:格子のひん曲がりっぷりにリアルを感じる
:囚人の人たちの血まみれっぷりもヤバい
:フロア全体の汚れ具合が雰囲気出てる
:下手なホラーゲームよりもおっかない
:床に垂れてる血の跡とかどんだけ・・・
:アグダちゃんの姿が背景から完全に浮いてる
:やっぱり主人公キャラクターは女児ッスね
数にして十数名。
手枷や足かせを嵌められていた方々については、これも力技で破壊。ものの試しに指先へ力を加えたところ、溶接により固着された重々しい金属固は、しかし、発泡スチロールでも砕くかのようにへし折れた。
数分ほどでフロア内の囚人をすべて治療の上、解放した。
その頃には異変に気付いた見張り番が駆けつけてくる。
「なっ……オマエたち、どうして外にっ……!」
そうした声は最後まで言葉にならない。
背後より近づいた囚人が、その後頭部を足枷の残骸で殴打する。直撃を受けた見張り番は悲鳴を上げる暇もなく卒倒した。しばらく待ってみても追加の人員はやってこない。我々はこれ幸いと檻の並んだ区画から脱出する。
投獄に当たり奪われてしまった荷物は、見張り番の待機所的な場所に放置されていた。バッグの中身にも変化は見られない。スマホの指紋認証に指を触れさせたところ、すんなりと起動してディスプレイに明かりが灯った。
土建屋さんからお借りしたアクションカメラもちゃんと電源が入るぜ。
「さて、それでは脱出しますわよぉ!」
荷支度を整えたところで宣言する。
囚人たちはすべてアグダ氏の見方だ。
「了解だ、お嬢ちゃん!」「こんなところ二度とごめんだぜ!」「兵に見つからないように注意しないとな」「屋敷の間取りだったら任せてくれ!」「お嬢ちゃんほどじゃないけど、こっちは攻撃魔法が使えるよ」
やたらと頼もしい声が連なった。
:盛り上がってまいりました
:荷物が無事でよかったね
:俺、アグダちゃんと同じスマホだ
:自分も同じのに機種変しようかな
:このまま領主に報復ですか?
:戦犯はロリコンだと思うんだけど
:領主もある意味では被害者
:アイツどこ行ったんだよ
:イケメンの出番? イケメンくる?
:イケメンはやく。待ちくたびれた
視聴者たちも気分を盛り上げて思われる。
脚本は当初予定していた異世界グルメからは外れてしまったけれど、これはこれで悪くない展開ではなかろうか。
なんたってとても異世界っぽい。
本作はカクヨムで10万文字以上の「先行連載」を行っております。
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