異世界ライブ配信 五
イケメンに案内されたのは町の中でも宿泊施設が並んだ界隈。
その一角で営業しているこじんまりとした宿屋だった。
なんでも彼らは他所の大陸からやってきた冒険者とのこと。イケメンと彼女さん以外に二人、宿屋にはパーティーメンバーの姿が見られた。共に男性。それも自身を助けてくれたイケメンに負けず劣らず、顔立ちが整っている。
うち一人は、ロン毛のマッチョ体系。
もう一人は、メガネのヒョロのっぽ。
王子様系のリオンと合わせて選り取り見取り。
傍目、完全に逆ハーである。
本人たちの言葉に従えば、彼らは冒険者として中堅。他方、アースドラゴンを狩ることができるのは、一部のつよつよパーティーだけらしい。鱗の調達も当初は現地の市場で探す予定であったとのこと。
しかし、最近はアースドラゴンを狩りに来る人たちが見られず、市場価格が高騰。彼らが顧客から託された予算では調達が行えずに困っていたそうな。そこでドラゴンの巣がある場所を調べ上げて、抜け落ちた鱗を収集しに向かったらしい。
けれど、残念ながらこれに失敗。
町にまで逃げ帰ったものの逃走中に仲間が負傷。
いよいよ困り果てていたのだとか。
なかなか肝の座った方々ではなかろうか。
以降は四人まとめて逆ハー特攻隊と呼称しよう。
「アグダちゃん、ありがとうございます」
「今から戻れば期日までには十分間に合うね」
「クライアントにもドヤされずに済みそうだ」
順番にコレットさん、メガネ、ロン毛。
三人とも嬉しそうにしている。
彼らの手にはドラゴンの鱗。
こちらの宿屋を訪れてすぐに、件の穴を経由して自宅から持ってきた。やり取りに際しては、近所の宿屋に部屋を取っておりますので云々、適当に言い訳を並べておいた。出会って間もない彼らに、穴を見せびらかすような真似は控えたかったから。
肝心の品も目当てのアースドラゴンで正解だった。
ただ、自身を路地裏で助けてくれた最初のイケメン、リオンだけはしょっぱい表情である。しばらく女児と仲間たちのやり取りを眺めていた彼は、けれど、改まった態度でこちらに向き直ると、神妙な面持ちで呟いた。
「アグダちゃん、やっぱりただでは受け取れないよ」
「リオンさんって頑固ですのね」
「せめて以前の市場価格で対価を受け取って欲しい」
「素直に申し上げますと、鱗はまだそこそこ手持ちがございますの」
「だとしても、僕らが一方的に施しを受ける理由にはならないよ」
:放置したドラゴンの死体から鱗を剥ぎ取りにいかない?
:若干一名、やたらと素材収拾に熱心な視聴者がいる件。
:現地までそれなりに距離があるから移動が大変そうだよね
:なによりアグダちゃんの部屋、もう採集物でギッチリじゃん。
:それなら私の家の庭とか使ってくれてもいいんだけど……
:親御さんが不気味がるでしょ。謎の牙とか角とか鱗とか
普光院さんからの採集圧が強い。
そして、取りに戻ったところで保存しておく場所がない。都内の手狭なアパートの収納事情はカツカツだ。鱗以外に牙や角など、目についたものを片っ端から回収しているものだから、これ以上は保管する場所がない。
収まり切らずに庭にも多少置かせてもらっている。
エアコンの室外機の隣とかにビニール袋に入れて。
これ以上は流石に大家さんから怒られそう。
「でしたら一つ、皆さんにお願いしたいことがありますの」
「うん、僕らに出来ることなら何でも言って欲しいな」
「もしよろしければ、回復魔法を教えてもらえませんか?」
:アグダちゃんが魔法使いにジョブチェンジの予感。
:火を出すくらいなら今までも普通に使えてるよね
:オートリジェネあるし回復魔法は必要なくない?
「先程、お仲間の怪我をコレットさんの回復魔法で治療されたと聞きました。差し支えなければ、私にもそちらの魔法の手解きを願えませんでしょうか? もしくは修練の行える場所を教えて頂くだけでも構いませんので」
この肉体を得てからというもの、自身のみならず周囲の方々に危害が及びかねない状況に度々見舞われた。それでも回復魔法が使えたのなら、万が一の場合にもすべてをなかったことにできる。
淡い期待を抱きつつのご提案。
すると、コレットさんから声が上がった。
「アグダちゃん、魔法は適正がないと使えないんです」
「火を出すくらいなら現時点でも行えますわぁ」
「炎属性の適正はあるんですね」
「はい、おそらくは」
「だとすると、聖属性の適性は厳しいと思います」
「そういうものなのですの?」
「残念な話ですが、複数の属性に適性を持っている人は、あまり多くないのです」
どうやら魔法使いにも色々と事情があるみたい。
首を傾げる女児に対してコレットさんは説明を続ける。
「回復魔法は聖属性の適正が必要になるのですが、聖属性の適性はかなり希少でなかなか発現しません。厳しい言い方になりますが、ただでさえハードルが高いし、その上で複数属性となると、あまり期待はできないと思うんです」
どうやら回復担当はレア職らしい。
少なくとも彼らの認識では。
「聖属性の適性があるか否か、どうやったら判断ができるのかしら?」
「それは簡単だよ」
コレットさんに代わり、リオンさんが声を上げた。
皆々の注目が彼に向けられる。
「求める適性のある術者と互いに魔力を送り合うんだ。同じ属性であれば大なり小なり共鳴が発生する。一定以上の反応が見られたのなら、その属性の魔法を習得できる可能性が高いと言われているよ」
ちなみに逆ハー特攻隊の回復担当はコレットさん。
自ずと彼女に視線が向かう。
「コレットさん、私に聖属性の適性があるか否か、ご確認を願えませんか?」
「ドラゴンの鱗を譲ってもらった恩義があるので、それは構いません。ただ、結果として適性がなかったとしても、我々としては貴方に何もしてあげられません。そちらは理解してもらえますか?」
「そのときはスッパリと諦めますわ」
「承知しました。こちらに手を触れて下さい」
そう呟いて彼女は、懐から石のようなものを取り出した。
深い紫色をした宝石のような結晶だ。
丸っこく削られたそれが、彼女の手に乗せられている。
「そちらは?」
「魔石ですが、何か?」
「え? あ、はい」
魔石ですか。
魔石ってあるんですね。
魔法や魔力があるから魔石もあるんでしょうね。
下手に突っ込みを入れると頭のおかしい子になりそうだ。
「利用する媒体は魔力を導通するモノならなんでもいいんだよ。魔石は比較的手に入り易いから一般的だね。人体同士でも不可能じゃないけど、何かあったときにダメージが入りかねないから、こうして安全策を取るのが普通なのさ」
「そうだったのですね」
すぐに補足を入れてくれるリオンってばイケメン。
先方の指示に従って、魔石に手を触れさせる。
ひんやりとした感触が手の平に伝わってくる。
反対側にはコレットさんの手が添えられている。
魔石を上下から互いの手で挟んでいるような感じ。
:なんか怪しい儀式が始まったぞい。
:マジで怪しい儀式だな
:アグダちゃん、なにやってるの?
視聴者三名は疑問も一入。
彼らのコメントは今も耳に嵌めたイヤホン越し、しっかりと聞こえている。けれど、こちらから話しかけては逆ハー特攻隊からヤバい人認定は免れない。耳元で一方的にキャッキャとされるばかり。
「それではアグダさん、こちらの魔石に向けて魔力を流して下さい」
「魔力、ですか」
「込め過ぎると魔石が弾け飛ぶかもなので、控えめでお願いします」
「承知しましたわ」
魔力を込めるという行為が理解不能、それどうやるの状態。ただ、こちらの世界では一般常識のようだ。自身のような女児にも当然のように求められるほどには。これまた下手に尋ねることも憚れる。
ということで、とりあえず魔石に触れた手に集中。
しようと思ったけれど、止めておいた。
放っておいても怪我が秒で完治するオートリジェネ付きのアグダボディーである。どう考えても魔力的な何かに満ち溢れていることだろう。だとすれば、下手に意識をすると魔石を砕きかねない。
まずは指先をちょっとワキワキさせるに留める。
ダメだったら改めて注力すればいいでしょう。
などと考えた矢先のこと。
これはどうしたことか。
すぐに魔石が淡い輝きを放ち始めた。
「コレット、この反応は……」
「驚きました。この子、聖属性の適性があります」
驚いたようにコレットさんが呟いた。
目を見開いて魔石を目にしている。
「つまりわたくしは回復魔法を行使できますの?」
「聖属性の適性があるのなら、呪文を詠唱して、自身の中で術のイメージを確立したのなら、回復魔法は使えるようになります。慣れてくれば呪文の詠唱を省略したり、イメージのみで行使することも可能です」
火の魔法が詠唱ゼロで出てきたのは、その辺りの都合だろうか。
それとも簡単な魔法だから、どなたも無詠唱で出しているのか。
「コレットさん、回復魔法の呪文をご教示願えませんでしょうか」
「約束ですからね。私が知っている魔法についてはお教えします」
「ありがとうございます、とても助かりますわ」
心の中でガッツポーズ。
これで万が一の場合も他所様の救護に回ることができる。
まぁ、そんな状況に陥らないことが大切なのだけれど。
そうした内面を見透かされたのか、リオンから問われた。
「知り合いが怪我をされていたりするのかな?」
「そういう訳ではないのですが、万が一に備えておきたいなと」
「ですが、リオン。我々の船は明後日にも出向予定なのですが」
女児とイケメンのやり取りを遮るようにコレットさんが言った。
どうやら他にスケジュールが押しているようだ。
「皆さんはこちらの大陸から、どこぞへ出発されるのですか?」
「依頼人にドラゴンの鱗を届けにいかないとならないからね」
「そうでなくとも失敗の報告を上げに向かう予定ではいました」
ちなみにコチラの大陸、なんでも九割九分が未開拓の上、生息しているモンスターは生半可な冒険者では太刀打ち不可能な高難易度フィールドとのこと。ネトゲ脳的に称するなら、やっぱりエンドコンテンツ。自身の想像は正しかった。
彼らが鱗を手に入れようとしていたアースドラゴンとやらも、高レベルの冒険者パーティー御用達のモンスターらしい。黄金に煌めくドラゴンに至っては、そんなの見たことも聞いたこともないよ、とのこと。
宿屋へ向かう道すがらリオンが語っていた。
こちらの町を出発してから、自身がトライアスロンしていた荒野を徒歩で二、三日程度、ほんの数十キロが人類の活動圏内だという。それより大陸の内部に足を踏み入れながら、五体満足で戻ってこられる人たちは、極々限られているのだとか。
他方、コレットさんたちが帰還予定となるのはユノグラシア大陸。
こちらは人類が数多入植しており、大小様々な国々が国境を接しながら存在しているとのこと。黄昏の大地と比較したのなら、遥かに安全だそうな。ただし、大陸間を隔てている海洋の横断には片道一ヶ月くらい要するらしい。
「でしたら私も、皆さんと一緒にユノグラシア大陸へ向かいますわ」
「えっ? アグダちゃん、ご家族は?」
「おりませんの」
「まさか君は一人でここにやって来たの?」
「ええまぁ、そんな感じですわ」
驚いたように女児を見つめるリオン。
彼は矢継ぎ早に疑問の声を上げた。
「失礼だけれど、どこの国のどういった家柄か尋ねてもいいかな?」
「わたくしのことを貴族だと考えているのなら、それは違いますわ」
「そ、そうなの? しかし、それにしては随分と整った格好を……」
「こう見えて孤児ですの」
:アグダちゃん、この人たちに付いていくの?
:この女児、決断力が半端ない。
:いやいや、中身オッサンだから
「まぁ、お礼を申し出たのは僕らだから、それは構わないけれど」
「やっぱり戻りたいと言われても、そう簡単には戻れませんよ?」
「ご快諾をありがとうございます、リオンさん、コレットさん」
ということで、逆ハー特攻隊と共に船旅へ出ることになった。
どうせ異世界を満喫するなら、こんなモンスターだらけの大陸より、もう少し人類が繁栄してる場所で楽しみたい。人里を訪れて速攻で拉致されるような治安も、ライブ配信をする上では褒められたものではないし。
:高難易度フィールドの採集物を売りさばいて金策だね!
:若干一名、異世界フィールドワークにモチベ高い人がいる
:最近の若い子ってみんなこんな感じなのかな?
:えっ? だって楽しみじゃない? ワクワクだよ!
ノリノリなのは、きっと普光院さん。
いわゆるアレだよ、ほら、最近流行りのドパガキってやつ。
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