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異世界ライブ配信 四


 翌日、前日のセーブポイントから冒険の続きをプレイ。


 女児は荒野を走り出す。


 朝食を食べ終えてすぐに走り出したので、胃の中がうっぷうっぷしている。以前の肉体であれば吐き出していたかもしれない。けれど、健康優良児なアグダ氏の肉体は、ほんの数分ほどで落ち着きを取り戻す。


 しばらくすると視聴者がやってきた。



:アグダちゃん、おはよう。今日もやってんね!

:連日朝から走ってるけど大丈夫? 疲れない?

:雪山装備から上下ジャージに戻ってるね。



 ご指摘の通り、装備はジャージとスニーカーに戻した。


 荒野は草原と比べても気候が温暖。


 それでいて若干乾燥している。


 アクションカメラは、ボディーバッグのベルトにクリップ状のマウンタで固定している。少しきつめに締め上げたのなら、なんとか支えることができた。当面はこちらで運用していこうと思う。


「そういう皆さんは学校や仕事に行かなくてよろしいのかしら?」



:朝ごはんを食べたら学校に行くよ

:アグダちゃんは学校に行かなくていいの?

:アグダさん、もしかして学校に行きたい?



「今更義務教育からやり直すような真似は勘弁して欲しいですわぁ」


 第一、中身オッサンが未成年に混じって学校に通っていたら犯罪だ。


 もし万が一にも中身バレするような日が訪れたら大変なことである。


 いいや、現時点で既にのっぴきならない状況にあるのだけれど。



:なら、その辺りは上手いことやっておくよ

:それってどういうこと?

:自治体は味方なんで、多分大丈夫だと思う

:ちょくちょく出てくるその物言いが恐ろしい。



 以降、黙々と荒野を走る。


 道中では何度かモンスターに襲われた。


 一口にモンスターといっても大変バラエティー豊かだ。自動車ほどもあるオオカミの群れであったり、その何倍もある翼の生えていないドラゴンだったり、更に大きな図体をした鳥類だったり。


 いずれも八割方は逃走で対応。


 下手にやり合うと相手の体液で汚れるので、なるべく喧嘩はしたくない。それでも執拗に狙われたときはスコップで対応。昨晩、近所のホームセンターで購入したものだ。これで頭部を殴りつければ大体なんとかなった。


 ただ、コスパはよくない。


 念の為に三本ほど購入したが、既に二本駄目にしてしまった。


 目玉や粘膜部位など、柔らかそうな場所を狙って攻撃してはいるけれど、それでも相手が動けば仕損じることもある。ドラゴンなどまぶたにまで硬い鱗が生えており、一本目の撃沈はそちら。


 もっと頑丈な武器が欲しい。


 視聴者からは都度素材の採集を求められたので、角だとか、鱗だとか、羽だとか、比較的手に取りやすいものを採集の上、穴越しに自宅へ放り込んでおく。ビニールに入れて庭先に置いておく分には差し支えないだろう。


 昼頃にはドローンを打ち上げて周辺の地理を確認。


 何故に昼頃かというと、視聴者の皆さんが大体揃うから。


 というか、主に普光院さんのお昼休みのご都合である。


 色々と世話になっている手前、蔑ろにはできない。


 ただ、残念ながら近隣一帯には人工物も皆無。


 それから午後も延々と荒野を突っ走ることに。


 以降の三日間、同じことの繰り返し。


 ただひたすらに走り続ける日々。


 その大半に付き合っていた視聴者たちの暇っぷりといったらない。普光院さんに限っては学校の授業の合間に顔を出していたようだけれど、残りの二名はほとんど張り付きで見ていたように思う。


 途中、ちょっとした山越えを何度か繰り返した。


 最初に経験した山脈地帯ほどではない。


 山の近くには河川が流れており、これを越えることもあった。


 際しては草原地帯で利用したゴムボートが再び活躍を見せた。


 その間にもモンスターとは何度か遭遇。基本的には逃走しつつ、それが困難な場合のみスコップで応戦。おかげで近所のホームセンターへ、毎日スコップをお買い求めに来る女児が発生してしまった。変なあだ名とか付けられてそう。


 壊れたスコップはモンスターの死骸と合わせて異世界に放置。都内で粗大ごみの回収を申し込むと、何週間も待たないといけないの、本当にどうにかならないものか。地方だと自分から即日で持ち込める場所があっていいよね。


 そうして訪れた四日目の昼頃。


 ドローンを打ち上げて周辺の地理を確認する。


 すると、これまでにはなかった変化が見られた。


「海、海ですわ! 遠方に海が見えますの!」



:本当だ、水平線のところがキラキラしてる!

:アグダちゃんのマラソンも終わりが見えてきた。

:なかなか感慨深いものがあるなぁ



 延々と続くかと思われた陸地に、遂に切れ目が見られた。


 かなり距離があるけれど、水面の煌めく様子が窺える。



:しかもなんか集落っぽいの見えない?

:あれって建物だよね? 密集してるやつ

:かなり遠いけど、それっぽいのあるね



 更に海岸線沿いには建物と思しき建築物が並ぶ。


 その角張ったシルエットは間違いなく人工物。


 俄然、やる気が出てきた。


「本日中に到着できるように頑張りますわぁ!」



:アグダちゃんが到着するまでに家に戻らないと!

:こういうとき自宅勤務でよかったと思うよ

:ずっと配信を見ていられるのはありがたいよね。



 ゴールが見えたことで、地を蹴りつける足にも力が入る。


 昼食を取ることさえ忘れて、集落の見えた方角に駆けた。


 そうして走り続けること、更に二、三時間ばかり。


 遂に目的地を肉眼で捉えた。


「町ですわ! 町が見えてきましたわ!」



:よかった、ギリギリ間に合ったよ!

:もう学校から戻ってきたの?

:授業が終わるの早くない?

:六時間目は腹痛で早退しました

:なんて悪い子だろうか

:その気持ちも分からないではない。



 現地まで残すところ数キロ。


 小高い丘の上から人里を眺める。


 パッと見た感じ港町って雰囲気。


 町の周りは海岸に面している場所以外、背の高い外壁に囲まれている。いくつか出入り口が設けられており、その各々から街道が伸びる。街道の先々には農耕地が広がっており、農作業に従事する人たちの姿が窺える。


「なかなか達成感がありますわぁ」



:海に桟橋とか伸びてる。港町なのかな?

:船舶もそれなりの数が停泊しているね

:人口はどのくらいだろう。

:町の規模からして、一万人は固い希ガス

:一万人っていうと、埼玉の秩父とか?

:秩父市は五万人くらい住んでなかったけ?

:一万人っていうと、青森県の六ヶ所村とか。

:その名前、社会の教科書で見た気がする



 視聴者三名も忙しなくコメントを交わし始めた。


 カメラ越しに町を眺めて色々と情報を届けてくれる。


「それでは早速ですが、町に突撃したいと思いますわ」



:現地の言葉は大丈夫だろうか?

:以前、エルフっ子とはお話できてたよね

:同じ世界の住人だと決まった訳ではないが

:最悪、ボディーランゲージでどうにか?

:モンスターの相手するよりはマシだよね



 原野から街道に合流して町を目指す。


 平坦な道は歩きやすくてありがたい。


 しばらくすると農作業に従事している人たちを視界に捉える。見たところ普通の人っぽい。モンゴロイドというよりはコーカソイド。若い頃であったのなら、さぞや新鮮味を抱いたことだろう。


 しかし、昨今は我が国もグローバリズムが極まっている。日雇いの職場でそっち系の人と一緒になることも少なくない。出身を聞いてみると、南米から東欧、中央アジアまで様々である。


 むしろ気になるのは出で立ち。手編みと思しき無骨なブーツや、麻っぽいワサワサ感満載のベスト。ヨレヨレの土色に汚れたシャツなど。ファンタジー映画の登場人物さながらの格好をしている。


 農作業もトラクターではなく牛さんが絶賛稼働中。


 唐鋤が現役で利用されている。


「放牧的な光景ですわぁ」



:アグダちゃん、めっちゃ見られてない?

:たしかにカメラ目線の人たち多いよね

:子ども一人で出歩いているのが問題とか?



 ご指摘の通り、視線を感じている。


 とはいえ、気にしても仕方がない。


 理由を尋ねて回る訳にもいかない。


 さっさと街道を歩いて町へ向かう。


 辿り着いた先は最寄りの出入り口。


 町を囲むように建てられた外壁の切れ目。


 しれっと内部に入り込もうとしたところ――


「おい、ちょっと待て!」


 そこで門番っぽい人に止められた。


 鎧兜を着用の上、手には槍を握っている。


 しかも険しい表情でこちらを睨んでいる。


 無視したらグサッと刺されてしまいそう。


「兵隊さん、わたくしにご用かしら?」


「どうして子供が町の外に出ているんだ」


「ちょっと近くを探検していましたの」


「探検? ったく、親は何をやっているんだ……」


「夕食の時間までに戻らないと怒られてしまいますわ」


「さっさと戻れ! もう二度と勝手に外に出るなよ?」


「ええ、分かりましたわ」



:アグダちゃんて息をするように嘘を吐くよね

:まったく悪びれた様子がないの完全に悪女。

:おかげで我々も安心して見ていられるという



 適当なこと並び立てたらスルッと町に入れた。


 兵隊さんに会釈をしつつ足を進める。



:門番っぽい人には魔王扱いされなかったね?

:知る人ぞ知る、みたいなポジションとか

:あのエルフっ子が魔王の関係者、みたいな

:二人の関係が気になりますな

:仲良しって雰囲気じゃなかったけどね



 外壁の内側には建物がズラッと並んでいる。


 限られた土地の中で暮らしている為か、建築物はかなり密集している。石造りで三階建てから四階建てくらいの建物が主流のようだ。通りは石畳で舗装されており、歩行者に混じって馬車の行き交う様子が見て取れる。


 出入り口に通じた大きな通りには商店がズラリと並ぶ。木箱に詰め込まれた野菜や果実、精肉されて天井から吊るされた枝肉といった食料品から、日用品、雑貨、更には武具と思しき刃物や鎧兜までもが販売されている。



:凄い! ファンタジー映画でも見てるみたいだよ

:行き交う人たち、一部にケモミミが生えてる件。

:ケモミミどころか、ケモノそのものな方々もおらん?



 ご指摘の通り、ファンタジー極まりない景観だ。


「エルフっぽいトンガリ耳もチラホラと見られますわぁ」



:これ配信したら、めっちゃイイネしてもらえそう。

:出処を疑われて炎上しそうな気もするけど

:ライブ配信せずにフィクション前提ならいける?

:不特定多数に配信するなら、そっちの方がよさそう。

:妙なモノを映したら声優業に差し障りが出そうな

:それは言えてるかも。ライブ配信は危険だね



「いずれにせよ治安は早めに確認した方がよさそうですわね」


 視聴者のご期待に応えて、大きな通りを歩いて回る。


 見たことのない食料品や、ゲームの装備さながらの武具など、自身も眺めていて目が楽しい。なんなら獣人っぽい通行人をウォチっているだけで気分が盛り上がる。グラフィックの綺麗さが売りのネトゲにでも入り込んだような気分。


 そうして小一時間ほど観光して回った辺りでのこと。


 不意に腕を引かれた。


 拉致られた。


「えっ……」


 足先が地面から浮かび上がる。


 そのまま引っ張られてしまう。


 大きな通りから一本入った細路地。


 その奥まった場所まであっという間に連れ去られている。抵抗しようと思えば、振り切ることもできた。ただ、下手に力を込めると相手を負傷させかねないのが、昨今のアグダ氏のわんぱく具合。


 結果、袋小路の壁際に追い詰められた。


 周囲には狙ったように人目がない。


 この手の行いに慣れを感じる。



:さっそく配信で映したらアウトっぽい展開が

:アグダちゃん、映像このままで大丈夫?

:モンスターと比べたらクソ雑魚の予感ですが。



「金を出せ。服も脱げ。持ってるモノはすべて寄越せ」


 壁ドン、からの脅迫。


 先方の手には刃物が握られている。


 銃刀法が徹底されている祖国では滅多に見られない、両刃の大型ナイフである。ファンタジー風に称するならダガー。木製の柄には得体のしれない染みが多数。相応に使い込まれた年季を感じさせる一品だ。


「どうやら現地の言葉は通じそうですの」



:こっちは相手が何を言っているのかさっぱり

:っていうか、ナイフ! ナイフだよ!?

:アグダちゃんなら大丈夫な気がしないでもない。

:どうしてもクソデカ狼の牙や爪と比べてしまう

:あれはガチでエグかったね。数も多かったし



 問題はこちらの言葉が先方に通じるか否か。


 ただ、その辺りも差し支えはなかった。


「あぁ? 言葉? いいから金を出せ!」


 自身の発言もしっかりと拉致犯に通じている。


 現地住民との意思疎通は問題なく行えそう。


「申し訳ありませんけれど、お金は持ち合わせがありませんの」


「なら着ているモノを寄越せ。その身体に巻いた荷物も全部だ」


「金を出せ。着ているモノや荷物も全部寄越せ、と言っていますの」



:想像した通りの台詞でワロタ

:笑ってる場合じゃないよ!

:本人に余裕あるし大丈夫じゃない?



「おい、オマエ。まさか自分が刺されないとでも思ってるのか?」


 視聴者に向けて拉致犯の台詞を翻訳するべく復唱したところ、先方から胸ぐらを締め上げられてしまった。小柄な女児ボディーは片腕で軽々と持ち上げられる。もう一方の手には顔面を狙うようにナイフがキラリと光る。


 いきなり刺殺されて奪われないだけ良心的な強盗かもしれない。


 もしくは金品を強奪した後にも色々と企んでいたりするのかも。


 などと考えていたら、どこからともなく氷柱が飛んできた。


 それは男が握っていたダガーに命中。


 見事に手元から弾き飛ばした。


 時を同じくして、袋小路の入口辺りから声が届けられる。


「子供から金品を奪うとは情けないやつもいたものだ」


「っ……!」


 女児に向いていた拉致犯が後ろを振り返る。


 自ずと自身の注目も声の聞こえてきた方へ。


 すると袋小路の入口辺りに人が見られる。


「怪我をしたくなければ、さっさと何処へとも行くといい」


「私としては、この場で処分してしまっても構いませんが」


 男性が一人。女性が一人。


 男性の周りには沢山の氷柱が浮かんでいる。


 その内の一つが今まさに飛んできたっぽい。


「畜生が、舐めやがって……」



:ストーリーに新キャラが登場した予感。

:新キャラっていうか、初キャラじゃね?

:めっちゃイケメンだね。王子様って感じ

:一緒にいる女の子もかなり可愛い子だね

:自分はアグダちゃん一筋だから安心してよ。



 悩む素振りを見せた誘拐犯。


 歯向かうべきか、逃げるべきか。


 数秒ほど躊躇したところで、彼は後者を選んだ。


「顔は覚えたからな? 夜道には精々気をつけろよ」


 胸ぐらを掴んでいた手が話される。


 足先に地面の感触が戻って来る。


 直後、捨て台詞を残して去っていく拉致犯。


 袋小路を形成していた三方向の建物。その壁面に生まれた僅かな凹凸に足先をかけて、ひょいひょいと高所まで登っていく。そのまま建物の屋根を伝いながら、どこへともなく逃げていった。


 ほんの数秒ほどで、その気配は感じられなくなる。


 こちらの世界では現地住民もモンスターと同じく、地球上の生物とは比較にならない身体能力を備えているみたいだ。見た目がしょぼいからと侮っていると、足元をすくわれかねないのは恐ろしい。


 ややあって男女が歩み寄ってきた。


 率先して声をかけてきたのは男性だ。


「君、大丈夫かい?」


「ありがとうございます、九死に一生を得ました」


「無事でよかった。怪我はしてないかな?」


「おかげさまでかすり傷一つ負っておりませんわ」


「それはなによりだ」


 視聴者のコメント通り、めっちゃイケメン。


 見たところ二十歳くらい。


 ニカッと浮かべられた笑みが眩しい。


 キラキラと輝いて見えるぞ。


「君がこの路地へ連れて行かれる様子が偶然目に入ってね」


「このような場所で子供のひとり歩きとは不用心ですよ?」


 同行していた女性からも言われてしまった。


 二人に連れられて袋小路から大通りに出る。


 子供が攫われるようなことは日常茶飯事なのか、それとも拉致に気づいていなかったのか。通りを行き交っている通行人たちに変わりは見られない。自身の生まれ故郷だったら、スマホを構えた人たちが輪になっていただろうな。


「それじゃあ、僕らはこれで失礼するよ」


「今後はちゃんと気をつけるのですよ」


 すぐに去っていこうとする男女。


 これを咄嗟に呼び止める。


「あ、あの、お礼をさせて頂きたいのですが……」


「気にしなくていいよ。そう大したことはしてないから」


「ですが、危ないところを救ってもらいましたので」


 町の出入り口に立っていた門番っぽい人のみならず、拉致犯や正義の味方二名についても、魔王様のボディーについては言及なし。視聴者三名が語っていた通り、そこまで世間に顔が売れている訳ではないみたい。


「人として当然のことをしたまでさ」


「でしたらお礼をするのも人として当然かなと思いまして」


「君はとてもいい子だね。そのまま真っ直ぐに育ってくれたら嬉しいな。そして、いつか君の前で誰かが困っていたら、同じように助けてあげて欲しい。それが僕らにとっては一番のお礼になる」


 なにこのイケメン。


 中身までイケメン。


 こういう場合、どうしたらいいんだろう。


 日本で普通に暮らしていたら、拉致犯から助けられるような機会ってレアケース。スマホで連絡を取り合うような真似も行えないから、この場でバイバイしたら、きっともう二度と会えない気がする。


 などと考えていたら、片割れの女性から声が上げられた。


「リオン。ちょっといいでしょうか?」


「なにかな? コレット」


 リオンというのがイケメンの名前だろう。


 そして、コレットは女性の名前。


 女児の面前、二人の間で言葉が交わされる。


「この子ですが、見たところ貴族だと思うのです」


「たしかに身なりはいいよね」


「だとしたら、力になってもらえるかもしれません」


「いや、流石にそれをこの子に相談するのは……」


「ですが我々も、余裕がある訳ではありません」


 何か困りごとを抱えているのだろうか。


 女性の発言を耳にしてイケメンの表情が曇る。


 ならばと自身からもお伺いを立ててみる。


「私に手伝えることがあれば、なんでも仰って下さいな」


 どうやらこちらの世界には貴族がいるらしい。


 地球上にもいるけれど、余程身近なところに。


 いずれにせよ社会のボトムズである女児には縁遠いお話。それでも勘違いされたのは、自身が身につけた衣類が理由だろう。人里へ入るのに当たって、普光院さんから譲り受けた中でも、比較的お上品な服に着替えているから。


 頭髪も軽く櫛を通してツインテールに結い上げている。


 なんなら破落戸に拉致られた理由もそれなのでは。


 ややあって、仕方がない、とでも言いたげな面持ちでイケメンは語り始めた。


「僕らはドラゴンの鱗を手に入れる為、この大陸を訪れたんだ」


「どういったドラゴンの鱗を探されているのですか?」


 一口にドラゴンといっても色々といる。


 こちらの大陸を駆け回ったことで、自分はそれを理解した。穴を抜けた当初に出会ったゴールデンなドラゴンであったり、荒野を走り回っていた翼のないドラゴンであったり、空の高いところを飛んでいる真っ黒なやつであったり。


 きっと他にも色々と生息していることだろう。


「ドラゴンならなんでもいいんだけど、ワイバーンのような亜種では駄目なんだ。だから、比較的倒しやすいといわれているアースドラゴンを求めて来たんだけど、僕らの力量では抜け落ちた鱗を盗み出すこともできなくてね」


 名前の聞こえがとても大地属性っぽい。


 空を飛べず、地面を走り回ってそうな雰囲気。


「噂には聞いていたけれど、黄昏の大地のことを舐めてたよ。並の冒険者じゃあ、この町から外に出ることすら儘ならないみたいだ。僕らのパーティーも地元だと、それなりに名前が売れていたんだけど」


「黄昏の大地、ですか?」


「この大陸のこと、現地の人たちはそう呼んでいないのかい?」


 どうやらこちらの大陸は、黄昏の大地と呼ばれているらしい。


 しかもイケメンの口ぶりからして、高難易度マップのような。


 もしやアグダ氏が走破したのはエンドコンテンツだったのか。


「アースドラゴンといいますと、この町を出てしばらく行ったところで、荒野の辺りを徘徊している翼のないドラゴンのことでしょうか? かなり大きくて、そこいらの建物より頭一つ抜けているような輩ですが」


「あぁ、その認識であってると思う」


 だとしたら、スコップの餌食であった。


 目玉を貫いてやった。


 頑張って押し込んでの脳みそ破壊。


 普光院さんに言われて素材も剥ぎ取っている。


 その中には彼らが求めている鱗も見られたような。


「そういうことでしたら、お力になれるかもしれませんの」


「えっ、本当かい?」


「鱗ですが、どの程度の量が必要なのですか?」


「二、三枚もあれば十分なんだけど」


 鱗は十数枚ほど剥ぎ取り、お風呂場で軽く水洗いをした上、自宅の庭で日陰干し。現在は押し入れに突っ込んである。一枚一枚がかなり大きくて、比較的小柄なやつでもパソコンのディスプレイほど。おかげで扱いに困っていた。


 早々に貰い手が現れたのは喜ばしい。



:納品クエスト、秒でクリアだね!

:納品物を所持状態でクエスト発生するの気持ちいい。

:それな。いちいち取りに行くの本当に面倒くさい



 アグダ氏の発言から状況を推察したっぽい視聴者三名。


 ドンピシャリなコメントが立て続けに流れてきた。


「そういうことでしたら、お礼にお譲りいたしますの」


「流石にそれは申し訳ない。ちょっと不埒者を追い払った程度じゃあ、その価値には到底見合わないよ。今の市場価格では無理だけど、高騰する以前の価格で買い取らせてもらえないかな?」


「リオンさん、それではお礼になりませんの」


「いや、しかし……」


「そもそも市場で出回っているような品であれば、わざわざ皆さんがドラゴン退治に向かう必要はなかったように思います。なにか理由があってこちらまでやってきたのではありませんこと?」


「君はこの地で暮らしていて、市場のことを知らないのかい?」


「申し訳ありませんが、こちらの町には到着したばかりですの」


「だとしたら、殊更に受け取る訳にはいかないよ」


 このイケメン、存外のことお人好しだ。


 なかなか使えるぞ。


 この機会を利用して、こちらの世界のことを聞き出せないだろうか。現地の常識はなるべく早めに仕入れておきたい。国どころか世界まで異なっているっぽい手前、どんなところに地雷が転がっているか分からないし。


「皆さんの抱えている事情を聞けたら嬉しいのですけれど」


「わかった。それなら僕らが宿泊している宿まで案内するよ」


「ありがとうございます。お手数をおかけしますわ」


 自身を先導するように歩き出したイケメン。


 その傍らを離れた女性がこちらに近づいた。


 どうしたのかと意識が向かった先、彼女がこちらの耳元に口を寄せる。


 そして、ボソリと小さな声で呟いた。


「彼、格好いいけど惚れちゃ駄目ですよ?」


「……え?」


「リオンは私の大切な人なのですから」


「あ、はい……」


 語りかける目がマジだった。


 声色もめっちゃ低かった。


 リオンさんに語りかけるのとは別人。


 イケメンも含めて、二人とは距離感を大切にしていこうと思う。


本作はカクヨムで10万文字以上の「先行連載」を行っております。


「アグダちゃん」で検索、もしくは以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/2912051596661307013

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