異世界ライブ配信 三
翌日、改めて草原地帯を走ることにした。
朝食を終えたタイミングで現地入り。
ライブ配信を開始すると共に走り始めた。
汚れてしまったジャージは自宅の浴室で手洗いの上、近所のコインランドリーで洗濯と乾燥を行ったところ、一晩で元通り綺麗になった。染みや臭いも移っていないので、着用にも差し支えない。
しばらくすると視聴者がやってくる。
:おいすー、アグダちゃん今日はもう走ってるんだね。
:自分らのこと待っててくれてもいいじゃないの
:そうだよ。昨日からずっと楽しみにしてたのにさぁ
先んじて走り始めていたことにクレームが入った。
いちいち細かなことを気にする人たちだ。
「向こう二、三時間は走りっぱなので、視聴開始が少し遅れたところで、誤差のようなものではありませんか? それに過去の放送分も含めて、振り返って視聴することも可能だと思うのですけれど」
:だってリアルタイムで一緒に楽しみたいじゃないの。
:そうだよ、昨日みたいに突発イベントあるかもだし
:アレが何度も起こったら大変なことだとは思うけど
:っていうか、昼のほうが目に付きやすいし危なくない?
:言われてみると、夜のほうが安全かもだよね……
自身のことを心配してくれるのは素直に嬉しい。
けれど、ドラゴンは既に脅威ではないとの判断。
「既に夜間襲われているのですから、気にせずに走らせてもらいますわぁ」
:本人がそう言うのなら止めはしないけどさ。
:ドラゴンはアグダちゃんの敵じゃないもんね!
:普通にワンパンで追い払ってたもんなぁ
以降、視聴者と言葉を交わしつつのランニング。
景観を楽しみながら、草原地帯を走った。
途中に流れていた河川は、事前に用意していたビニール製のボートで超えた。近所の総合スーパーで調達した品である。夏も終えられて久しい昨今、ワゴンに放られて捨て値で販売されていた。
川幅が小さい場合は、助走を付けて飛び越えることで対処。
十メートル程度であれば余裕で越えられる。
そうして三時間ほど走ったろうか。
昼過ぎには山脈の麓まで辿り着いた。
「ここで改めてドローンを飛ばしたいと思いますわ」
:はてさて、この先にはどんな光景が何が待っているのか。
:こっちは見ているだけなのにドキドキしてくるよ
:子どもの頃はいつもこんな感覚でゲームとかやってたなぁ
:言われてみると、そんな感じだったような気がしないでもない。
:大人になって忘れてしまった童心が蘇ってくるようだよ
:テレビゲームをやってるだけで、そんなドキドキするかなぁ?
:発売日に買った子の家に押しかけて、皆で一緒に眺めるの。
:そうそう、ああだこうだ言い合いながらプレイするの
:男の人ってよくわからないなぁ
コメント越しに戯れている視聴者三名。
そのやり取りを耳にしながら支度を整える。
既に二回目なので手慣れたものだ。
「皆さん、機体を空に上げますわよ」
スマホに向かい宣言して、コントローラーを操作する。
大型の筐体は、それでも軽快に空へ向かい舞っていく。
手元のディスプレイに目を落とすと、見る見るうちに遠ざかっていく自身が映っている。その姿が指先ほどの大きさになると、周辺の光景が次第に映像内へ入ってくる。うち半分はこれまでに走破した草原。
そして、残る半分が未開の地となる山脈地帯。
映像中では中央を境目としてハッキリと分かれている。
標高の低いところでは鬱蒼と木々が茂っている。ある程度登ると植生が変化して背の高い植物が消えていく。やがて岩肌が露出し始めて、その割合が増えていく。それよりも標高の高いところは雪が積もっている。
やがてドローンが限界高度に到達。
その時点で岩肌の域を出ない。
カメラを操作して上空に向けると、雪の積もっている山頂付近が映った。
「残念ながら相対高度は五百メートル以上あるっぽいですわ」
:上の方は雪で白くなってるし、越えるのは大変そうだよ
:めちゃくちゃ寒そう。これ以上は止めたほうがよくない?
:今の薄着で突撃したら、絶対に凍えると思うんだよね。
:もしも行くのなら、装備はちゃんと整えたほうがいいよ
:だけどアグダちゃん、登山用のウェアとか持ってなくない?
:私が送った衣類の中には、そういうのはなかったかなぁ……
「子供用の登山用具とか、そもそも販売されてますの?」
小さい子供が雪山で登山とか虐待である。
売られていたとしても精々、遠足用のウェアとかでしょ。
高機能性の登山グッズなんて絶対に存在しないと思う。
:スキーウェアなら子供用もそれなりにあるかも
:それだったら小さい頃に着てたのがあるよ!
:ソロだと何かあったときに助けられないよね。
:私たちの誰かがアグダちゃんに同行するとか
:モンスターとエンカウントしたら普通に死にそう
:ゲームだと勇者様ご一行はどうしてたっけ?
:全身フルプレートの鎧で固めて突撃してたよね。
:雪山登りながらバトルとか冷静に考えると自殺行為
:環境に適応したモンスターの強みを感じるなぁ。
いずれにせよ本日のところはお開きである。
ドローンを回収の上、穴を抜けて自宅に戻ることにした。
◇◆◇
翌日、またぞろアナザーワールドにやって来た。
雪山対策はバッチリだ。
内側に吸湿発熱繊維の下着を着用の上、ボア素材を重ね着、その上からスキーウェアをアウターとすることで上下ともに防水透湿を図る。足元は革製のブーツ。背中にはリュックサック。頭部にはニット帽を着用している。
下着は近所の衣料量販店で購入した。
それ以外は普光院さんが貸して下さった。
いずれも小学生の頃のお古だという。
お金持ちの家の子は、こんなに小さな頃から自前でウェアを揃えてスキーを楽しんでいるのかと、可愛らしいピンク色のウェアを眺めて感慨も一入。それを着用して姿見の前に立ったのなら、存外のこと似合っている事実になんとも言えない気持ちとなる。
いずれにせよ装備は整った。
「それでは山を登っていきますわ」
:昨日と比べて映像のブレが減ってない?
:リュックマウントでもそこそこイケるね
:その可愛らしいウェアはどうしたの?
「ウェアは普光院さん、カメラとマウントは土建屋さんの提供ですわ」
二人とも昨晩の内に声をかけてくれた。
前者とはいつもの公園で落ち合ってのやり取り。
後者はわざわざ自宅まで自動車でやって来た。
:僕ばかり何も協力できなくてごめんね。
:別に気にすることはないと思うけど
:私たちが勝手にやってることだし
:せめてもの応援に投げ銭しておくよ。
いきなり五万ポイントが振ってきた。
一ポイント一円なので、なんと五万円。
一回の上限額がそれくらいだったような。
「えっ、あの、そんなに無理をしていただかなくても……」
:アグダちゃん、相変わらず現金に弱いの草
:急にしおらしくなるのズルいと思うんだ
:せっかくだし、もうちょっと投げてもいい?
「こ、これ以上は結構ですわ。気持ちだけありがたく頂戴しておきますの」
五万円とかビビってしまう。
一ヶ月分の食費じゃないの。
半分は運営に持ってかれるけど、それでも二万五千円。
「皆さんのご期待に応えられるように、頑張って山頂まで登りますわ!」
:安全第一でお願いしたいところだけど
:何かあったらすぐに逃げてほしいな
:命を懸けてまでやることじゃないからね。
視聴者の温かなコメントに見守れつつの出発。
幸い現地は本日も快晴。
山岳部に足を踏み入れる。
道なき道を突き進むことに。
そして、数メートルほど進んで気付いた。
「スキーウェアは標高が上がるまで控えておきますの」
木々が覆い茂った山中をスキーウェアで歩き回っては、木の枝に引っ掛けて生地を破いてしまいそう。それにモコモコして身動きが取りにくいし、なによりも暑い。着用は標高が上がってからにするべきだった。
:絵面からしてめっちゃ熱が籠もってそう
:見た目は可愛らしくていいんだけどね。
:穴があれば着替えはいつでも大丈夫かな
「標高が上がったタイミングで改めて着替えますわ」
自宅に戻って軽量な装備に着替える。
少しくらい汚しても大丈夫な装備を、と考えたところで、当初自身が近所のスーパーで購入した女児スタイルに決定。これなら木の枝に引っ掛けて破いたところで、普光院さんの目を引くこともない。
交通事故で破いたところは、手持ちの裁縫セットで直した。
リュックはボディーバッグに戻して、靴はスニーカーへ変更。
:なんでそこで女児スタイルに戻る?
:もしかしてそういうのが趣味なの?
:これはこれで似合ってていいけど。
「地上をえっちらおっちら歩いていたのでは時間がかかりますから、忍者スタイルで一気に駆け上ろうと思いますの。ですから落下した場合に備えて、衣類はなるべく安物をチョイスした次第ですわ」
視聴者に弁明を述べつつ、いざ跳躍。
幹の太い樹木を選んで、その枝木を足場に高いところを目指す。
そこから他所の枝木に飛び移り、ジャンプを繰り返して上方へ。
枯れ木やツタで覆われた地表を踏みしめて歩くよりも、こちらの方が遥かに進行速度が早い。それもこれもアグダ氏の圧倒的な身体能力や動体視力の賜物だ。途中で何度か落っこちそうになったけれど、慣れてくるとヒヤリハットも減った。
そして、これが視聴者の方々には大好評。
:なにこれ凄い。リビングの大きなテレビで見たい
:洋画のアクションシーンさながらじゃないの
:こういうが得意な洋物のヒーローっていたよね。
おかげで自身も気分良くなってくる。
テンポ良く木々の合間を抜けていく。
まるで猿にでもなったような気分。
人が地上を走るより尚のこと早く、山を駆け上っていく。
そうして半刻ほどが経過しただろうか。
段々と樹木が数を減らして、岩場が目立つようになった。
そこからは地上に降りてのランニング。
すると植生も変化を見せて、背の低い雑草みたいな植物が目立つようになる。ここまで来ると樹木は一本も見られない。代わりに足元は砂利道のようになり、ところどころに大きな岩が顔を覗かせる。
「段々と涼しくなってきましたわ」
:そろそろお着替えタイムじゃまいか?
:気温はどのくらいなんだろう
:気温計も渡しておけばよかったよ
「自宅に戻って着替えてきますわね」
ボディーバッグから穴を取り出してサイズを拡大。
こいつの取り扱いにも慣れたものである。
自宅に戻ってスキーウェアに着替えた。
リュックを背負い、靴もブーツに変更である。
ニット帽を被ったのなら準備は万端。
:アグダちゃん、どうしてフライパン持ってるの?
:右手の装備だけアウェイ感が半端ないんだけど
:現地でキャンプ飯とか狙ってる感じ?
「モンスターに遭遇した場合に備えてみましたわ」
下手に素手で殴りつけると、衣類まで血みどろになりかねない。
衣類にもダメージが入るだろうし。
:もっと他に武器っぽいアイテムはなかったのか
:頑丈さでいうと、無難なチョイスだとは思うけど。
:土建屋さん、スコップとか持ってたりする?
:いくらでもあるから、今晩にでも持っていくよ
:アグダちゃんの腕力で振り回したらエグそう……。
「スコップなら近所のホームセンターでも扱っていると思いますので、明日の日中に自前で調達しますわ。せっかく投げ銭を頂戴したのですから、撮影の為に有効活用しようと考えておりますの」
:僕なんかに気を配ってくれてありがとうだよ。
:あっ、また投げ銭が……
:見た目は女児だけど、中身はオッサンだぞ?
:中身はオッサンだけど、見た目は女児だし。
「あの、で、ですから投げ銭はどうかご勘弁を!」
コメントと同時に五万ポイントが飛んできた。
その対価を自身はどう示せばいいのか。
とりあえず、改めて走り出す。
:見通しがいいと景色も気持ちがいいなぁ。
:なんか遠くの方で地面が空に浮いてない?
:それな。さっきからずっと気になってた
:浮遊大陸? みたいなの浮かんでるよね。
:大きなドローンならアグダちゃん飛ばせる?
:業務用ならやってやれないことはないけど
二つ並んだお月さまの次は浮遊大陸である。
なんて多様性に富んだ世界だろう。
おかげでただ走っているだけでも飽きない。
ややもすれば、モンスター警報。
視聴者から警告のコメントが上がった。
:アグダちゃん、横からなんか来てる!
:そんな大きくないけど早いよ!
:左右に避けるかジャンプで回避だ!
例によってコメントの自動読み上げ経由では遅延が発生。
振り返ったときには既に、すぐ目の前に迫っている。
目に入った直後は丸っこい塊状。
大きさはバランスボールくらい。
陽光を反射してキラキラと金属光沢を放つ。
それが目の前まで迫ったところで、投網さながらにブワッと広がり、こちらを包み込まんとしてきた。硬そうなボディーから察するに、体当たりされるものだとばかり考えていたので、これは想定外である。
どちらかというとスライムのような生態だ。
「この中心でキラキラしているのが弱点と見た!」
今回もコメントは不採用。
フライパンで思いっきり殴りつける。
狙いはボディー内部に見られたコアっぽい何か。
底の部分が真正面から対象を捉えた。
カーンという甲高い音が鳴る。
ハンドルに硬いものを砕く感触。
パキンと乾いた音を立てて、コアっぽい何かが砕け散る。
時を同じくして、女児を包み込もうとしていたモンスターの体組織に変化が見られた。間際まで液体のような性質を見せていたそれが、一瞬にしてカチンコチンに固まり、そのまま地面に落下していく。
都合、顔面でこれを受け止める羽目に。
「うぐっ……」
:アグダちゃん、大丈夫?
:悲鳴が可愛いのズルい
:中身はオッサンなのに。
「大丈夫ですわ。ちょっと鼻を打っただけですの」
自身に覆いかぶさるようにして固まったモンスター。
その体組織を軽く押して退ける。
すると対象は何の反発もなく地面に転がった。
どうやら自身が砕いたのは弱点で間違いなかったようだ。
しばらく眺めてみても再び動き出す気配は感じられない。
:今回も一撃だったね
:アグダちゃんさいつよ
:ぅゎょぅι゛ょっょぃ。
:え? それどうやって書き込むの?
:ぅゎょぅι゛ょっょぃ。
:やり方おしえてほしいな!
:ぅゎょぅι゛ょっょぃ。
:ぅゎょぅι゛ょっょぃ
:わたしだけ書き込めない・・・
「完全に固まってしまいましたわ。カチンコチンですの」
固まったモンスターの体組織を撫でてみる。
ひんやりとした感触はやっぱり金属っぽい。
:アグダちゃん、採集だよ! モンスターを倒したら採集!
:ゲームじゃないんだから、持ち帰っても意味なくない?
:変な病原菌とか付着してたらパンデミックしない?
:それはドラゴンの血肉が付いた服を自宅で洗った時点で……
:言われてみると、既に下水道がバイオハザってるかも。
「それじゃあ、少しだけ砕いて持っていきますわ」
薄く広がった部分を軽く殴ると、末端部分がパキンと割れた。スマホくらいの大きさの板状となった。これをいくつかビニールの小袋に入れて、リュックに放り込む。ゴミを持ち帰る為に用意したのだけれど、採集で利用してもいいでしょう。
:アグダさん、用意がいいじゃないの
:妙に手慣れてる感じが格好いい。
:いいねいいね、冒険者って感じがする
「それじゃあマラソンを再開しますわね」
周囲に気を配りながら山岳部を駆ける。
ただ、以降は何と出会うこともない。
段々と植生の減っていく岩場は、当然ながら登山道など整備されていない。ゴツゴツとした急斜面を、大きな岩を足場にしつつ飛び跳ねながら進む。富士山は吉田ルートの七合目から八合目って感じ。
更に進むと急斜面や断崖絶壁が出現。
本来ならアンカーを打ち込むような場面。
これをフリークライミングで登っていく。
:アグダちゃん、せめて命綱とか付けたほうがいいと思う
:もし仮に落っこちても、アグダさんならノーダメのような
:アンカー打ちながらだと、何日かかるか分からないよね。
事前に確認したところ、アグダ氏は指一本で自重を支えることができた。落下耐性についても、大型トラックに突っ込まれて損傷軽微だった時点で、差し支えはないとの判断だ。今回は進行速度を優先することにした。
そうして山肌を登ること小一時間ほど。
いよいよ積雪が見られ始めた。
それでも頂上までは、まだ少し距離がある。
サクサクと雪を踏みしめながら傾斜を駆け登っていく。
するとしばらく走ったところで、リュックを下ろして荷物を広げられそうな場所を発見した。中高の教室ほどの広さが、いい感じで平らになっている。キャンプを張るには持って来いのスペースではなかろうか。
その場で立ち止まり、カメラに向けて問いかける。
「土建屋さん、ドローンの利用温度って何度くらいですわ?」
:氷点下だとバッテリが冷えちゃって動かないかも
:ただ、自宅から持ってきてすぐなら問題ないと思う
すぐにコメントが返ってきた。
「でしたら、この場でドローンを飛ばそうと思いますわ」
:自分もそれがいいと思う。
:ここからなら山頂まで撮影できそうだね
:その先がどうなってるのか気になるなぁ。
視聴者たちからも賛成の声多数。
荷物を下ろして穴を取り出す。
拡大したそれを通じて自宅に戻る。
事前に用意していたドローンを持ってくる。
飛行中にモンスターに襲われたら大変なので、穴は小さくしてリュックに収納。周囲に広げていた荷物もすべてリュックに入れて背負う。ドローンのコントローラーを握りしめたのなら、いざ空に向けて飛翔だ。
「土方一号、離陸しますわ」
:なにその可愛くない名称
:用途的には正しいけど
:中身オッサンの感性だもんね。
土方一号、本日も絶好調。
見る見るうちに高度を上げていく。
雲がほとんどない日和であったのは幸い。
遠方まで下界を見渡すことができる。
「雄大な自然の景観に戸惑いを隠し得ませんわ」
:この高さから見下ろして何もないって相当だよね
:人の営みがこれっぽちも感じられないの凄いなぁ
:アグダちゃんのマラソンはまだまだ続く……。
山頂を越えて、その先が見えた。
延々と荒野が続いている。
地平線の彼方まで。
見通し距離、二百キロ以上はあると思うんだけど。
「仕方がありません。さっさと下山して走り始めますわぁ」
:えっ、本当に走り続けるつもりなの?
:いくらなんでも疲れてきたりしない?
:連日走りっぱなしだし、少しは休んだら?
「体力的にはまだまだ余裕ですの。筋肉や節々に痛みもありませんし」
自身が考えていた以上に、この小さな肉体はバイタリティに溢れていた。どこかで反動が訪れそうな恐ろしさもある。けれど、それを言い出したら手の平から炎を吹き出している時点で、もっと大変なことをしているし。
「それにここまで来たら、何かゴール的なところに辿り着きたいですわ」
:ゴール的なところって何オブ具体的に。
:人里を見てみたいという気持ちはあるね
:この世界の人たちって、どんな感じだろう?
「でしたら当面のゴールは人里としましょう」
周辺の地理を確認したところでドローンを下ろす。
穴を経由して自宅に戻す。
それから改めてトレイルランニングを再開。
当初の予定通り、山の一番高いところを目指す。
小一時間ほど走ると、頂きっぽい辺りまで登頂した。
「せっかくなので本日のランチはここで取ってみますの」
:景色はいいけど寒くない?
:吐く息がめっちゃ白いよね。
:まつ毛とか凍ってるんだけど
:マイナス二十度くらい?
:真冬の北海道並じゃないの
「おっしゃるとおりクソ寒いですわ。吐く息が白いの伊達じゃないッス。ただ、寒いには寒いのですが、手足がかじかんで動かなくなるような感覚はありませんの。そういった部分でもこの肉体はかなり強化されているっぽいですわ」
:半端ないね、アグダちゃんのお子様ボデイ。
:冬期のK2でも単独無酸素で登頂できそう
:スポンサー付けてそれで食べてけたりしない?
ランチを終えたのなら、すぐさま下山を開始。
足腰に定評のあるアグダ氏としては、上りよりも下りのほうがペースが早い。十メートルくらいなら軽く飛び降りることができる。断崖絶壁もなんのその。僅かな足場を利用してひょいひょいと下っていく。
クレパスにハマっても独力で脱出余裕。
一瞬ヒヤッとしたけど。
やがて樹木が茂り始めたのなら、こちらは上りと同じく、木々の枝を足場にしながら跳躍を繰り返しての忍者スタイル。途中、何度かモンスターにも遭遇した。こちらは基本スルーしつつ、状況によってはフライパンで対処。素材も可能な範囲で採集した。
そんなこんなで日が暮れる頃には山脈の麓まで辿り着いた。
この先には荒野が広がっている。
これより以降の道のりが長大なことは既にドローンで確認済み。
「今日のところはここでセーブして終了ですわね」
:アグダちゃん、本当に一日中ずっと走ってたね
:なんか箱根駅伝でも眺めてる気分だった
:途中でモンスターの出てくる箱根駅伝ワロス。
「最初から最後まで付き合っていた貴方たちも大概ですわよ」
リュックから穴を取り出して自宅に戻る。
ずっと体を動かしていた為か、その日は床に就くとすぐに寝入った。
本作はカクヨムで10万文字以上の「先行連載」を行っております。
「アグダちゃん」で検索、もしくは以下のURLからどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/2912051596661307013




