同情するなら金をくれ
さて、お金がない。
バイト先が夜逃げして職を失ったのが先週のこと。次のバイト先が見つかるまでの間に合せにキルミーを利用して、動物園で清掃員などやっていた。それをバックレた今、新たな収入源の確保は火急の用件。
差し当たって来月の家賃の引き落としまでに、まとまったお金が必要だ。
ということで、ネット配信をそのままにしてスレの住民に相談してみる。
「女児でも稼げる働き口とか、ご存知だったら教えてもらえません?」
:舞台劇の子役とか?
:声優なんてどうよ
:株取引なら子供でも可能。
割と現実的なコメントが返ってきた。
意外と稼ぐ手段ってあるんだね。
ただ、それって恵まれた家の子供限定じゃん。
「できれば日払い、最低でも週払いで考えておりますの。今月中にまとまったお金を稼がないと、家賃を滞納する羽目になりそうです。それと中身のオッサンは氷河期世代の貧困弱者男性なので、そこのところよろしく」
口調は意識高い系のままにしておこうか。
見た目お上品な美幼女だし、その方がウケそうだ。
:即金は流石に無理でしょ
:夜職以外はないよね。
:路上で空き缶集めとか?
:最近、アルミの値上がりヤバくない?
:子供がやってたら職質必至だよ。
:っていうか、アグダちゃん学校は?
「いや、アンタたちも仕事はどうしたんだよ」
思わず素で突っ込んでしまう。
本日は平日。
しかも今は真っ昼間だ。
:弊社はリモートワーク制度が充実しておりまして。
:自営業はいいぞオジサン「自営業はいいぞ」
:最近は自分が現場に出なくても仕事が回ってる
コイツら、勝ち組の匂いがするぞ。
昼間からネットに入り浸っているような輩は、自分のような負け組か、自身の時間を自由に使える勝ち組か、両極端なイメージ。ここぞとばかりに回りくどい言い回しをするのが、殊更に持てる者感を匂わせる。
「なんだよアンタたち、勝ち組なのかしら?」
:そういうアグダちゃんこそ、勝ち組なのでは?
:その容姿で負ける未来なんて一ミリも見えない
:アイドルのオーディションで無双できそう。
こっちは女児になったせいで生活保護の申請すら儘ならないというのに。
冷静に考えると、かなり危うい状況だ。
児童保護施設行きとか絶対に勘弁。
周りを子供に囲まれて何年間も集団生活とか、絶対に堪えられないって。
:将来有名な女優さんとかになりそうだよな
:ここでの活動とかある種の伝説になる?
:よっしゃ、未来の大女優に投資してあげよう。
「えっ……?」
急にギフトが送られてきた。
しかも、五千ポイントも。
こんな簡単に。
「……あの、本当にもらっていいんですか?」
:急にしおらしくなるの草
:反応がリアルに女児
:上目遣いに胸がキュンとした。
もう少し大人びた体型だったら、アダルトチャットで稼ぐ、みたいなこともできたろう。けれど、女児でそれを行った日には、自宅までお巡りさんがすっ飛んでくる。ネット回線の名義人である不動健一はきっと指名手配だ。
「が、頑張って芸をします。どうか恵まれない女児に施しをもらえませんか?」
:真に迫るものを感じるんだが
:まさか虐待とかされてない?
:もしかして不法移民だったり……。
:すぐにでも通報するべきでは?
:こういう場合って警察でいいの?
:それ以外だと、児相とか?
「虐待なんてされてません! だから、だから警察だけはご勘弁をっ……!」
繰り返して訴えたことで、通報だけは留まってもらえた。
あと、追加で五千ポイントのギフトをもらえた。
「やった、これであと五万円集めれば、来月の家賃が支払える!」
:このサイト、初回は翌々月支払いだったような
:それだと家賃の支払期日には間に合わないね
:他所の大手も支払いは翌月末だし、厳しくね?
「えっ……」
なにそれ知らない。
収益化なんて夢のまた夢だったから。
当然ながら申請も行った経験がない。
:それとポイントは半分運営に持ってかれる
:一万ポイントもらっても生主の収益額は五千円
:その部屋で家賃六万だと都内在住かな?
:不動前! 不動前!
:ふどん! ふどん!
「そ、そんな……」
しかも半分取られるのかよ。
集金の難易度が跳ね上がったぞ。
:そんなに悲しそうな顔しないで欲しいんだけど
:ガチで絶望感を感じる。演技力が半端ない
:俳優とか目指してる? その一環で配信とか?
ネット配信を利用した収益は諦めた方がよさそうだ。このまま配信を垂れ流していても、来月分の家賃はきっと貯まらない。もっと他に金策を巡らさなければ、家賃の引き落としに間に合わないぞ。
どうしよう。マジどうしよう。
そうしてカメラの前で焦燥に駆られていた時分のこと。
頭の上の方から、パキッという音が聞こえてきた。
同時にパラパラと粉のようなものが降ってくる。
:角! 角にヒビが入ってるよ!
:っていうか、折れちゃいそう
:素材が脆かったのかな?
「え? ……角?」
視聴者のコメントに促されて、咄嗟に頭に手を伸ばす。
同時に目の前を何かが落っこちてきた。
畳の上にドス、ドスっと立て続けに落下。
角である。
ヤギっぽい角が落ちてる。
自身の頭部から生えていたやつで間違いない。
配信画面を確認すると、カメラに映った女児ボディーの頭部から、角が消失していた。視聴者のコメントの通り、左右の角が二本とも根本から折れてしまっている。咄嗟に手を頭部に伸ばすと、断面の硬い感触が指先に伝わる。
「っ……!」
:中身ギッシリつまってる?
:接合部は髪で隠れて見えないね
:どうやってくっつけてるの?
:心と一緒に角まで砕けた系
:なんて分かりやすい感情表現
:本人の表情、真に迫るものがあるんだが
なにこれどうなってるの。
意味がわからない。
接合部とかこっちが知りたい。
得体のしれない恐怖を感じる。
このまま全身が砕けてしまうのではないかと。
「ちょ、ちょっと気分が優れないので、今日のところは休むことにします」
:また明日も配信するの?
:するなら時間を教えてよ
:定期配信とかやらないの?
こいつら暇人かよ。
まぁ、一万円分も投げ銭してくれた訳だし、少しくらいは愛想よくしておこうか。家賃には間に合わないけれど、今の自分にとっては貴重な収入である。頑張って媚びれば、もう数万円くらい投げてもらえるかも。
なんたって平日の昼間からネットに入り浸っているような勝ち組たちだ。
「明日も同じ時間に配信しますわ」
:待ってるよ、アグダちゃん
:それじゃあ自分も落ちるわ
:またね、アグダちゃん。
ということで、なにをするにも億劫だ。
その日は布団に包まってふて寝した。
今はなにも考えたくない。
折れてしまった角も部屋の隅にポイッと。
一晩寝て朝になれば、案外元に戻っているかもしれない。




