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小さくなった弱者男性

 オレは中高年パートタイマー、不動賢一。


 人生切り売り系労働力提供サービス『キルミー』を利用して、動物園の清掃員をしていたところ、全身白尽くめの頭がいかれた女たちに襲われて、得体の知れない儀式の生贄にされてしまった。


 お客さんは立入禁止のエリア。


 人気を憚るように描かれていた魔法陣。


 全身を縄のようなもので拘束されて、その上に寝かされる。魔法陣を囲んで訳のわからない念仏を唱える白尽くめの女たち。光り始めた肉体。全身が焼けるように痛む。意識はあっという間に失われた。


 御年、四十五歳。


 人生、碌なもんじゃなかった。


 そうした感慨を胸に抱いたのも束の間のこと。


 再び目が覚めたとき――


 中年の肉体は――


 なんと――


『ブロンド碧眼美少女』になってしまっていた!


「おっほぉ、なにこれマジやばい」


 右を見て、左を見て、我が身を見て。


 スマホの自撮りカメラで顔立ち確認。


 美少女、百点満点。


 あと、頭から角が生えている。


 ヤギみたいなやつ。


「……え? 角? なんでこんなの……」


 周囲に全身白尽くめの女たちは見られない。


 っていうか、誰もいない。


 現場は関係者以外立ち入り禁止のエリア。


 気を失ったときと変わりない。


 ただそこに一人、金髪ロリが存在する。


「…………」


 仕事をバックレて、自宅へ急いだ。


 無我夢中で社会的トライアスロン。


 ズボンや下着はサイズが合わずにワイシャツ一丁。靴も履くことができない。裸足のまま公共の交通機関を乗り継いだ。周囲からは奇異の眼差し。何度か声を掛けられたけれど、速攻で逃げた。逃げまくった。


 駅、電車内、道路、住宅街。


 駆け抜けていく。


 財布や自宅の鍵をパクられていなかったのが不幸中の幸い。


 警察に補導されずに済んだのは奇跡としか言いようがない。


 そして、すぐさまパソコンを起動して、2chにスレ立て。


 ネット上の有志に相談を持ちかける。




【TS】白尽くめの女たちに襲われて女児になったんだが【幼女】


1:名無しさん@はらぺこ ID:Z8msDF2z

どうすっぺ


2:名無しさん@はらぺこ ID:N2Sj9uEG

チャーハン食ってくる


3:名無しさん@はらぺこ ID:s1WN4xJt

本日のJSスレ。


4:名無しさん@はらぺこ ID:xTAfzMuI

最近JSおじさん増えたよな




 しばらく待ってみてもレスは三件。


 クソ、だいぶ過疎ってんな。


 切ないじゃないの。


 他所の板にスレを立て直すか。


 ちゃぶ台の上、ノートパソコンの画面を眺めて一考。




5:名無しさん@はらぺこ ID:N2Sj9uEG

自撮りは?


6:名無しさん@はらぺこ ID:xTAfzMuI

はらでい


7:名無しさん@はらぺこ ID:s1WN4xJt

パンツ何色?


8:名無しさん@はらぺこ ID:N2Sj9uEG

昨日も似たようなスレ立ててたよね?




 自撮り? 任せとけ。


 過去にゲーム配信で利用していた動画投稿サイトのアカウントにログインする。カメラはノートパソコン付属のでいいでしょう。インカム付きのヘッドホンを頭に装着。アプリを立ち上げて配信を開始する。


 そうして立ち上がったチャンネルのURLを掲示板に書き込んだ。


「ほらほら、どんなもんだい」


 動画投稿サイトの画面を確認する。


 するとすぐに視聴者数に増加が見られた。


 レスのID数と同様に三名。


 コメントが画面上を右から左に流れていく。



:ちょ、マジモンかよ

:本物じゃん

:洋ロリはおじさんも初めて。

:転載とかじゃなくて?

:裸ワイシャツ最高

:めっちゃ可愛くね?

:サラサラの金髪ヤバい。

:目の色彩薄すぎ

:まつ毛やたらと長い

:汚部屋との落差がひどい

:親は何をやっているのか

:金髪ロリは正義。



 コメントはアプリの自動読み上げ機能に拾われて、ヘッドフォンからも機械音声として流れてくる。抑揚の感じられないボイスに視聴者の感情は乗らない。ただ、矢継ぎ早に与えられるコメントからは先方の驚愕が窺える。


 なにこれ快感。


 得体のしれない満足感を覚える。


「これで信じてもらえたかしら?」


 ちょっと気取ってお喋りしてみる。


 座椅子に座ってカメラに向かう。


 あぐらでは座高が足りずに正座。


 反応はすぐに見られた。



:日本語お上手ですね

:どこの国の人?

:部屋掃除した方がよくない?

:頭の角はアクセサリー?

:人外っ子ハァハァ

:地獄の底からやって来た的な



 視聴者は三人。


 既存チャンネルのフォロワー数はゼロなので、生配信を開始したところで追加の視聴者が現れるようなことはない。今日日、素人の生放送など大量に行われているので、余程のことがなければ目に付いたりしないから。


「日本人ですわ。あと、部屋は後で掃除します」



:つまり、帰化した人ってこと?

:日本生まれで国籍取ったんじゃない?

:部屋と本人のギャップがヤバい

:敷きっぱなしの布団の存在感とか

:壁に貼ってあるポスター、ギャルゲでは?



「だから、TSで女児ってスレタイにも書いたじゃん。中身は小汚い中年のオッサンで、この部屋はオッサンの寝床なの。万年床の布団が見窄らしくてもいいし、ギャルゲのポスターが貼ってあってもいいの」


 部屋のことで虐めないでよ。


 弱者男性の自宅なんてこんなもんでしょ。



:パンツ見せてくれたら投げ銭する。

:いや、アウロリは駄目でしょ

:その発言自体がアウトじゃね?

:ここは末永く見守るスタイルで

:最近、コメントの規制エグいよな

:念の為に消しておくか……。



 ときを同じくして、玄関のチャイムが鳴った。


 ピンポーンと。


 どうしてこう来客っていうのは、立て込んでいるときにばかり訪れるのか。トイレ中とか、風呂に入っている間とか。思い返してみると、一昨日くらいにネット通販で色々と注文した気がする。それが到着したのだろう。


「はいはーい!」


 席を立って玄関に向かう。


 玄関はノートパソコンを配置したちゃぶ台のすぐ後ろだ。


 我が家に廊下は存在しない。


 居室に面したお台所、お台所に面した外壁、そこに玄関ドアが生えている。居室と台所の間には曇りガラスの張られた横開きのドアが設置されているけれど、一人暮らしなので常時開きっぱなし。


 昭和の頃にスタンダードだった1DK様式である。


 なにぶん築古の賃貸アパートにございまして。


 そちらに向かい歩みを向ける。


 その間もヘッドフォンからは、生配信に投稿されたコメントが流れてくる。



:今ちょっと太ももの辺りが見えた

:パンツさん、チラリともしなかった。

:まさかのノーパン説

:動画をシークできないんだけど。

:追っかけ再生はプレミア限定だ

:マジかよ、そっこう課金してくる。

:今の一瞬、月額500円の価値ある



 玄関ドアを開けると、予想通り宅配業者が立っていた。


 荷物のサイズからしてネット通販で間違いない。


「お荷物をお届けに上がりました」


「どうもです」


「お父さんかお母さん、いる?」


「いいえ、おりませんが」


「それじゃあえっと、お嬢ちゃん、お名前は?」


 先方は荷物に記載された宛先名と、目の前に立った洋モノ女児が一致せずに困惑しているのだろう。宛名は不動賢一となっている。しかもこちらのアパートは単身者向けのワンルーム。部屋を間違えたと思われても仕方がない。


「ふど……」


 名字を名乗りかけて、咄嗟に口を噤む。


 ヤバい、マイクを付けたままだ。


 ネット配信も止めていない。


 本名バレは回避しないと。


 ネットリテラシー。



:……ふど?

:ふどん?

:不動前とか

:それ住所やん



 さて、どうしたものか。


 自ずと目が泳ぐ。


 すると視界に入ったのは、部屋の隅に放置していた何冊かの紳士向けの書籍。部屋の本棚に入りきらなくなって、空いた場所に積んでいた少々年代物の二軍落ちした歴史書たち。繰り返しお世話になった手前、捨てようと思っても捨てられません。


 その著者名が自然と目に付いた。


「吾妻アグダ。生主さ!」


 口から出任せである。



:なんだそのどこかで聞いたような名前

:今足元に詰んでる本のこと見たよね。

:え、もしかして私だけネタ分からない系?

:どう考えても合体事故なのでは?

:とんでもないキメラが生まれてしまった。

:仲間外れよくないと思う。解説して欲しいな



「えっと……」


 配達員の顔に浮かべられたのは困惑の表情。


 しばらく考えるような素振り。


 ややあって、小さく愛想笑いを浮かべると言った。


「サインは結構ですので、これで失礼しますね」


「あ、はい」


 配達員はオレの相手をするのが面倒になったのだろう。


 手にしていた荷物を玄関入ってすぐのところに降ろす。


 そして、サインを得ることなく、すぐに去っていった。


 そんなことなら最初から両親がどうのとか言わないで欲しい。



:検索したら女真族とかいうオジサン出てきた

:っていうか、作者のチョイスが渋くない?

:中身オッサン設定の解像度がムダに高い。

:この頭にタオル巻いたチョビ髭のオジサン?

:それ以前に子供が読んでちゃ駄目だと思う

:そもそも子供にやらせるネタじゃないよ。

:ねえちょっと、私にも元ネタ教えてよー



 ヘッドフォンからはネットの住民たちの好き勝手な感想が流れてくる。


 咄嗟についた嘘なんだから、そこまで反応しなくてもいいじゃないか。


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