ネットに書いてあった情報です
問題のソシャゲの追加パッケージがリリースされた。
自身が声を当てたキャラの追加は、当初の開発計画にない出来事だ。しかし、ソシャゲのアップデートは以前からユーザに告知されていた。新規キャラを増やしたからといってスケジュールを遅らせる訳にはいかない。
アニメ監督曰く、開発チームは徹夜で作業に当たっていたらしい、とのこと。
そうした経緯も手伝い、担当キャラは異例のスピードでお披露目と相成った。自身がスタジオで収録を終えてから、僅か一週間の出来事である。作業は収録以前から走っていたとはいえ、とんでもない開発力である。
ということで、本日のライブ配信はゲーム実況。
さっそくスマホにインスコして遊んでみる
「お、おぉぉ、自分の声がゲームから聞こえてくる……」
:アグダちゃんの担当キャラ、イラストがめっちゃ可愛い
:担当してる絵師さん大御所じゃん。これエグくない?
:イラストもいいけど、キャラ性能もかなり恵まれてるね
声優デビューのお祝いに視聴者たちがギフトを送ってくれた。
こちらを利用してガチャを回したところ、五十回目くらいで担当キャラを引き当てることができた。気になるお値段は十連が四千円。僅か数分で二万円も溶かしてしまった。他人の金で回すガチャは最高である。
正直、食費に回したかったけれど。
「このキャラだけ台詞を聞いていると、違和感も甚だしいですわ」
スマホの画面で、ガチャから飛び出したキャラがお喋りをしている。
自分とまったく同じ声色で。
:最初はそうかもだけど、すぐに慣れるよ!
:ネットでキャラ名がトレンドに出てない?
:あ、本当だ。出てるっぽい。
コメントを目にして、自身も確認してみる。
たしかに話題に上がっている。
ガチャの排出スクショが大量に出てくるな。
:アグダさんの担当キャラ、人権化してる?
:一部の周回で推奨になって話題になったのか
:中の人を知る我々としては複雑な気分である。
:プレイしていると、本人の顔が脳裏に浮かぶ件
:キャラデザインもこれ絶対に本人を狙ってるよね
:中身オッサンなのに
:まぁ、外見は女児だから。
肝心のボイスに対する評価はどうだろう。
キャラ名で検索してみる。
すると概ね肯定的な意見が並んでいた。
少なくともディスられていたりはしない。
その事実にホッとため息を一つ。
「ちゃんとお役目を果たせたようで安心しましたわ」
:アグダちゃん、普通に上手くない? プロっぽいよ。
:配信でお喋りしてるときと変わらないのに不思議
:素がアニメ声だから、ボイトレ不要なのチートだよ
視聴者からもお褒めの言葉を頂戴した。
なんだかいい気分である。
っていうか、他者からこんな風にチヤホヤされた経験、生まれて初めてなんだけど。ネット上で不特定多数から褒めちぎられるの最高では? 配信を放りだして延々とエゴサしたい衝動に駆られる。
「声優ってウケると気分がいいですわね」
:小中学生のなりたい職業で上位常連だものね
:一昔前は日陰者の仕事だったのになぁ
:今だと倍率エグいらしいじゃん。うん百倍?
「だけど、意外と儲からない気がしますの」
自身の場合、一回の収録で多くて数万円。
その日暮らしのワープア層にとっては馬鹿にならない収入だ。しかし、これ一本で食べていくとなると、かなり心許ない。ソシャゲの担当キャラのアップデートなんて年に数回しか行われない。年収に換算すると子供のバイト以下である。
というか、生活保護の枠内だ。
「専業でやっていくような真似は不可能ですわ」
:アニメの収録だけだと、たしかに儲からないよね
:ゲームはそこそこだけど、台詞の数次第なところあるし
すぐさまコメントが流れてきた。
これきっと普光院さん。
「他に何かお仕事があるんッスか?」
:イベントやライブ、それにテレビ関係かな?
せっかくなので尋ねてみる。
するとすぐに返事があった。
つらつらと長文が流れてくる。
:チケットを売り捌くタイプのイベントあるでしょ? ライブとか
:そういうのに参加できるようになると、ガツンと跳ね上がるの
「そんなに儲かりますの?」
ライブとか演者が手弁当で苦労しているイメージが付いてくる。
以前読んだロックバンドの自叙伝にもそんなこと書いてあったし。
:チケットの売上の何パーセントかが登壇者のギャラになるの
:たとえば1万円のライブチケットが一万枚売れたとして、
:そこから十パーセントが声優のギャラになったとするよね
:イベントに参加した声優が五人だったら一人当たり二割
:そうなると年収は、二百万円プラス、みたいな感じ
:あとは事務所によって手数料とか経費とか、そういうの次第
「日給二百万円ですの?」
:事前に準備とかあるから安易には言えないけどね
:それと人によっては会場での物販も凄いらしいよ
マジですか。
めちゃくちゃ儲かるじゃん。
年二回やるだけで四百万円じゃん。
:グループじゃなくてワンマンライブだったら一千万の稼ぎか
:全国ツアーで何万枚も売れると、一億の大台越えてきそう。
:流石にそこまで売れる人はほとんどいないけど
:前にどこかの声優が年収一億とかで話題になっていたような
:小さなイベントでも回数を重ねれば二、三千万はいけそう。
普光院さん以外、残る視聴者二名からも寸感が漏れる。
たしかに最近はアニメ関係のイベントが増えたような気がする。
トークイベントなども含めると毎日全国どこかで催されている。
:あと、テレビ関係は桁がぜんぜん違うよ
:仕事の内容次第だけど、うん十万、うん百万
「そっちは芸能人とかが公に語っているので想像しやすいですわ」
アニメやゲームの主演キャラを担当していて、何件かイベントをこなしたのなら、収録のお仕事を含めて一千万は割と現実的っぽい。それに追加でテレビ局のお仕事を務めたのなら、二千万、三千万も見えてくる。
「そうなると収入の結構な割合がイベントとテレビ関係なのですね」
:だけど、イベントでお客さんを集めるには沢山のファンが必要だから
:アニメやゲームで売れっ子になるっていうのが、大前提なんだよね
:常にレギュラーを持ってるくらいじゃないと、人気を支えられないし
「なかなか上手いこと出来ているのですわね」
常にレギュラーとか、かなり大変なのでは?
まぁ、だからこその高給取りということか。
:だから、売れてる人たちはちゃんと稼げてる
:二十代の若手でもお給料は社長さんなんだYO
:YO! YO! 社長さんYO!
:英数わろた
:変換ミスだから!
「声優って夢のあるお仕事なんですね」
収録スタジオを訪れるのに当たって、自身も声優さんの収入については調べていた。ただ、アニメやゲームの収入しか把握していなかったので、かなり寂しい数字しか見られなかった。業界のトッププロでさえ、ちょっと裕福なサラリーマンという。
けれど、そうでもないらしい。
おかげで安心した。
「ちゃんと稼げているようでなによりッス」
:そういう訳だから、決して悲観することはないと思うよ!
:売れるのは大変かもだけど、当たれば大きいお仕事だから!
わざわざ自分の為に説明してくれたのか。
相変わらず気の利いた娘さんである。
:アグダさん、ちょっといい?
「なんですの?」
普光院さんとのやり取りが一段落したところで、別にコメントが流れてきた。
テキストの雰囲気から察するに、マウスをポチポチとやってハンドルネームを確認するまでもなく、土建屋さんだと判断する。三名の内この人だけ、自身を呼ぶときにさん付けで呼称してくるから。
ちなみに残り二人の視聴者の内、普光院さん以外のもう一人は、コメントの文末に句点を付けるクセがある。これらを合わせると発言者のIDを確認しなくとも、リアルタイムである程度見分けることが可能だ。
:夢のある話をしているところ申し訳ないんだけど
:こっちもアグダさんに斡旋したい仕事があるんだよ
:今晩あたりどうかな?
「本当ですか? 是非ともお願いしますわ!」
:アグダちゃん、変わり身が早い。
:相変わらず労働意欲に溢れてるなぁ
:詳しい話は以前と同じようにメッセージで
「承り!」
声優としてチヤホヤされるのは気持ちいい。
しかし、それで稼ぐような真似は現実的じゃない。普光院さんの説明で理解した。声優で食べていくにはライブやイベントが必須。何千、何万という観客の前でステージに立って熱唱とか、どんだけ度胸があればできるのか。
しかも本人の人気は参加したアニメの出来栄え次第の水物だ。
それよりもこちらの女児は土木作業で確実に稼いでいきたい。
:アグダちゃん、それって決め台詞?
:以前もそのポーズやってたよね。
:中身オッサンだと思うとイラッとする
「配信者にはこの手の決めポーズが必須だと聞きましたので」
とりあえず、それっぽいのを考えてみた。
かっこよくない?
駄目?
駄目ですか?
:普通に可愛いからこそイラッとする
:中身オッサンだと思うとちょっとなぁ
:世の中的に受けそうなのが業腹である。
「今後もレパートリーを増やしていかないといけませんわね」
肝心の視聴者は三人しかいないけどな。
だけど、いいじゃないの。
自分だって少しくらい配信に創意工夫の余地が欲しいんだ。
:泥臭い仕事なのに嬉しそうだよね、アグダちゃん
:声優になって稼いだほうが楽じゃない?
:よくない。よくないよ? 土木仕事を下に見るのは
「仕事は仕事ですわ。贅沢は言っていられませんの」
:妙なところでオッサン臭いの草。
:流石はアグダさん、よく分かってる
:選り好みしないのは割と好感が持てますな
「それに声優の仕事も決して楽ではないと思いますわ」
まだ碌に仕事をしていない身分で、こんなことを言うのはどうかと思う。けれど、なんとなくそんな予感がしている。というか、合わない人にはとことん合わない仕事なのではなかろうかと。
:それはそう。本当にそう
:外から見てると華やかで楽しそうだけど。
:どこの業界も中に入ったら大変なものさ
同日はそんな感じで過ぎていった。
日が暮れてからは、モフモフ星人さんに呼び出されての土建作業。自宅近所の駅前で待ち合わせして、彼が運転してきた自動車に揺られて現地入り。建て直しが決まった老朽化ビルの残置物の撤去が本日のお仕事。
エレベータが止まったビル内でひたすら階段を登り降りした。
普通なら一往復しただけで太ももがパンパンになりそうなところ、女児の足は重量物を手にしながら何十往復。それでもまったく疲労を感じない健脚には、本人も感動を越えて恐怖を覚えつつの作業と相成った。
これ一晩で収入は五万円。
っぱ、凡人がガッツリと稼ぐなら土建でしょ。




