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神殺しの真紅、絆が紡ぐ終焉の絶技

「あなたみたいな空っぽのバケモノに、愚かだなんて言わせないッ!!」


カノンの咆哮が、崩壊しゆく天上の神殿に木霊した。

背中に広がる漆黒の翼が、かつてないほど巨大に、そして禍々しく膨れ上がる。カノンの全身から噴き出す真紅の魔力は、もはや光ではなく、粘度を持った『本物の血』のように脈打ち、空間そのものを赤く染め上げていく。


「……吠えたところで、貴様は不完全な半端者だ。母の血に縛られ、下等種族との絆に縋る哀れな欠陥品に、完全なる私の光は届かないッ!」

傲慢の神が、白金の極光を纏った腕を振り下ろす。

それは、星一つを容易く消し飛ばすほどの超質量の光弾。絶対的な『裁き』が、逃げ場のない速度でカノンへと殺到する。


しかし、カノンは避けない。

「ええ。私は不完全よ。……だからこそ、他者の温もりが分かるの」

カノンの白い肌を光弾が掠め、深い裂傷を刻む。真紅の血が、純白の大理石の床へと、そして傲慢の神が展開する白金の絶対防壁へと、花びらのように飛び散った。


「血を流し、痛みに歪むか。やはり吸血鬼の肉体など、神には不要な――」

傲慢の神が嘲笑を浮かべようとした、その瞬間。


「『血晶展開・愛の浸食エロス・インフェクション』」


カノンの冷徹な囁きと共に、傲慢の神の白金のオーラに付着していたカノンの血が、まるで生き物のように蠢き始めた。

「なッ……なんだ、これは!?」

防壁をすり抜け、血液が微小な真紅の茨となって傲慢の神の肉体へと直接侵入していく。

母が己の血と命を代償に『封印』の術式を編み出したように、今のカノンは己の血と魔力を代償に、父の絶対的な神格を『書き換える』術式を編み出していた。


「あなたにとって、愛や悲しみは『不要なバグ』なのでしょう?」

カノンが大鎌を構えたまま、氷のように冷たい真紅の瞳で父を見据える。

「なら、教えてあげるわ。私の血に溶けた、家族たちからの重くて、甘くて、どうしようもないほどの『感情』を」


ドクンッ!!


傲慢の神の心臓が、異様な音を立てて跳ねた。

「が、あぁぁぁぁッ!?」

彼の体内に流れ込んだカノンの血は、物理的な破壊をもたらす猛毒ではない。それは、カノンが五人の家族から受け取ってきた『無償の愛』『誰かを喪う恐怖』『生きる悦び』という、あまりにも強烈な『感情の奔流』だった。


何万年もの間、一切の感情を排し、ただ己の完璧さだけを信じてきた無機質な神の器にとって、それは致死量の猛毒に他ならなかった。


「あ、ぁ……なんだ、これは。胸が……苦しい……。誰かを、愛おしいと……失いたくないと……やめろ、やめろォォッ!!」

傲慢の神が、初めて顔を醜く歪め、頭を抱えて絶叫した。

完璧だった白金のオーラが、感情のノイズによってドロドロに濁り、不規則な明滅を繰り返す。

「私を、私の完璧な精神を汚すなァァッ! この、下等な汚物どもがァァァァッ!!」


理解不能な感情に精神を破壊されかけた傲慢の神は、狂乱の中で、残されたすべての魔力を己の頭上へと収束させた。

それは、天上の神殿はおろか、眼下に広がる世界そのものを崩壊させるほどの、白金と漆黒が混ざり合った『終焉の疑似太陽』。


「共に消えろ、カノン!! 愛ごと、絆ごと、貴様のすべてを無に還してやる!!」

正気を失った父の最後の一撃が、空間を押し潰しながら落下してくる。


だが、カノンは静かに息を吐き、真紅の大鎌を右手に強く握り直した。

「……一人でケリをつけるって言ったけれど」

カノンの脳裏に、背後で自分を信じて祈る、五人の愛する少女たちの顔が浮かぶ。


「あなたたちの温もりが、私を一人になんてしてくれないのね」


カノンが地を蹴った瞬間。

彼女の体内を巡る五つの異なる血が、奇跡の『相乗効果シナジー』を生み出した。


『……マスター。敵の崩壊座標、誤差ゼロで特定完了。私の演算、すべて捧げます』

カノンの視界に、ノアの銀色のインターフェースが重なる。終焉の疑似太陽の最も脆い「核」の座標が、完璧にロックオンされた。


『カノン! あたしの特級の足さばき、持っていくアル!』

カノンの足元に、リンの闘気が光の軌跡を描く。圧倒的な質量の重力場を、カノンは羽のように軽く、空間そのものを階段にする特級の歩法で駆け上がっていく。


『私たちが、カノン様を護ります!』

『ええ、どんな熱にも、指一本触れさせないわ!』

疑似太陽から放たれる致死の熱線と光の矢。だが、カノンの周囲にセラフィの『絶対の聖盾』が幾重にも展開され、さらにミアの『影のヴェール』が光の屈折を歪めてすべての熱を完全に無効化する。


カノンは一切のダメージを受けることなく、神の防壁を抜け、疑似太陽の懐へと到達した。

「ば、馬鹿な……ッ! なぜその程度の有象無象の力で、私の世界を越えられる!?」

傲慢の神が血走った目で絶叫する。


「これが、あなたが下等だと切り捨てた『愛の重さ』よッ!!」


カノンは、大鎌を大きく振り被る。

その細腕に、かつてないほどの圧倒的な超質量が宿る。


『いっけぇぇぇぇッ!! カノン様ぁぁぁッ!!!』

レヴィアの、竜の極限の剛力。

五人の家族すべての力と想いが、吸血鬼の『血』を媒介にして、真の神殺しであるカノンのこの一振りに完璧に融合した。


「『特級神霊奥義・真紅の絶禍クリムゾン・エンド』!!!」


ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!


真紅の大鎌が、疑似太陽の核を正確に捉え、そのまま傲慢の神の巨体ごと、一文字に両断した。

音すらも消え去るような、究極の閃光。

世界を滅ぼすはずだった白金の光は、カノンの放った真紅の軌跡によって完全に中和され、無数の光の羽となって天上の神殿に降り注いでいく。


「……あ、ぁ……」

真っ二つに裂かれた傲慢の神の身体が、ゆっくりと崩壊を始める。

彼の瞳に映っていたのは、漆黒の翼を羽ばたかせ、黄金の光輪を背負いながら、あまりにも美しく、悲しい瞳で自分を見下ろす娘の姿だった。


「……これが、愛……。……確かに、狂おしいほど……重い、な……」


傲慢の神は最後に、自らが見下していた『感情』の温かさに微かに触れながら、一塊の光となって、完全に虚空へと消え去った。


……静寂が戻った天上の神殿。

カノンはふわりと床に舞い降りると、真紅の大鎌を魔力の粒子へと還した。

すべてが終わったのだ。

己の数奇な運命を狂わせた、すべての元凶との戦いが。


「……お母様。私、勝ったわ」

カノンが、光となって消えた父の跡地に向かって静かに呟いた、その時。


「カノン様ぁぁぁぁっ!!!」


弾かれたように駆け寄ってきた五人の少女たちが、カノンの細い身体に一斉に抱きついた。

「うわぁぁんっ、カノン様ぁっ! よかった、よかったよぉぉっ!」

「馬鹿……っ! 一人でなんて言うから、本当に死ぬかと思ったじゃない……っ!」

レヴィアが大泣きしながら腰にしがみつき、ミアが顔をクシャクシャにしてカノンの肩に顔を埋める。


「無事で……本当に、良かったです……っ」

「最高のフィニッシュだったアルよ、カノン……!」

「マスターのバイタル、完全正常。……ノアのこの胸のバグも、喜びでオーバーフローしそうです」

セラフィとリンも涙ぐみながら微笑み、ノアが安堵のオイルの涙を流してカノンの手をぎゅっと握った。


「……みんな」

カノンは、自分を取り囲んで泣き笑う五人の家族を見て、ふわりと、この世の何よりも美しい極上の微笑みを浮かべた。


「ありがとう。あなたたちが一緒に戦ってくれたから、私は『神様』になんてならずに済んだわ。……私は、あなたたちの愛する吸血鬼のままでいられる」


カノンは愛おしそうに五人をまとめて強く抱きしめ、天上の神殿に、少女たちの幸せに満ちた笑い声と泣き声が響き渡った。


傲慢なる神は討たれ、世界に真の夜明けが訪れる。

最強の吸血姫と、彼女を愛し抜いた五人の家族たちの、永遠に続く幸せな狂宴が、今、確かなものとなったのだ。

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