神話の激突、語られる愚かで愛しき真実
ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!
カノンの振るう真紅の大鎌と、傲慢の神が放つ白金の極光が交差した瞬間、天上の神殿の半分が音を立てて消滅した。
余波だけで眼下の雲海が真っ二つに割れ、遥か地上の海が割れ、山々が塵となって吹き飛んでいく。
まさに、神話に語られる天地創造と破壊の光景そのものだった。
「ハァァァァッ!!」
カノンは漆黒の翼を翻し、五人の家族から受け継いだ命の炎を燃やして、神速の連撃を叩き込む。空間そのものを切り裂く真紅の斬撃。
だが、傲慢の神は表情一つ変えず、片手でそのすべてを弾き返した。
「素晴らしい。その速さ、その重さ……これほど私を楽しませる存在が現れるとはな!」
ズバァァァァンッ!!
二人の力が再び正面から激突し、凄まじい衝撃波が神殿の残骸を吹き飛ばす。
互角。
最強の吸血姫として覚醒したカノンと、神々の頂点に君臨する傲慢の神。二人の力は完全に拮抗し、次元の狭間で火花を散らしていた。
激しい鍔迫り合いの中、至近距離でカノンの顔を見つめていた傲慢の神の瞳が、ふと懐かしむように細められた。
「……本当によく似ているな」
「何……?」
カノンが真紅の瞳を鋭く睨みつけると、傲慢の神は口元に薄く、だが確かな『愛慕』の笑みを浮かべた。
「その真紅の瞳、気高く美しい顔立ち。……お前は、私がこの世界で唯一愛した女――お前の母親に、そっくりだ」
「……ッ、あなたが、お母様を語るなッ!!」
カノンが大鎌に魔力を込めて押し込もうとするが、傲慢の神は微動だにせず、淡々と残酷な真実を語り始めた。
「愛していたさ。神である私の隣に立つにふさわしい、最高の女だった。……だが、産まれたばかりの赤ん坊だったお前には、神である私をも超える恐ろしい力の素養が秘められていたのだ」
「……!」
「『傲慢の神』であるこの私が、自分を超える存在を生かしておくわけにはいかない。それが愛する女との子供であろうとな。……だから私は、お前を始末しようとした」
傲慢の神の白金のオーラが、カノンの真紅の魔力をジリジリと押し返し始める。
「私の放った必殺の一撃を、あの女は身を挺して庇った。……そして瀕死の状態で、自身の血と命を代償にして、お前のその強大すぎる力の半分を封印したのだ」
カノンの脳裏に、精神世界で見た『茨の扉』がフラッシュバックする。
強大すぎる神の力で娘が自壊しないように、そして同時に、父親から命を狙われないように、母は自らの命と引き換えに絶対的なセーフティロックをかけたのだ。
「あの女は最後の力を振り絞り、転移魔法でお前をこの天上の神殿から逃がした。……まったく、いい女だったが、まさか自分の命を捨ててまであんな愚かな真似をするとはな」
傲慢の神は、理解できないとでも言うように、鼻で笑って肩をすくめた。
「たかが出来損ないの命一つのために、自らの完璧な生を投げ出すなど。……愛などという不確かなバグは、本当に神の美しさを損なう」
ギリッ……!
カノンの奥歯が、強く鳴った。
彼女の周囲で荒れ狂っていた真紅と黄金の魔力が、一瞬にして、不気味なほどの静寂へと変わる。
「……愚か、ですって?」
カノンは俯き、前髪で表情を隠したまま、氷のように冷たい声で呟いた。
「そうだ。無駄な死だ。どうせお前は今日、ここで私に吸収され、完璧な神の一部となるのだからな」
「……お母様が命を懸けて繋いでくれた、この命を。私が家族からもらった、この温かい絆を……っ!」
バチィィィィィンッ!!!!
カノンが顔を上げた瞬間、彼女の真紅の瞳から、これまでとは比較にならないほどの極限の殺意と、純度百パーセントの『冷酷な怒り』が爆発した。
「あなたみたいな空っぽのバケモノに、愚かだなんて言わせないッ!!」
カノンの背中に広がる漆黒の翼が、さらに巨大に、禍々しく膨れ上がる。
母の命を懸けた愛を侮辱されたこと。
それが、カノンの中に眠っていた『吸血鬼としての最も凶暴な本能』を完全に目覚めさせていた――。




