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真紅の女神と、狂信の街

憤怒の神を打ち倒し、次なる標的『憂鬱の神』の領地へと近づく道中。

カノンたちは情報収集と物資の補給のため、国境の巨大な交易都市『ルミナス』へと足を踏み入れた。

だが、街の様子がどうもおかしい。


「……ねえ、なんか視線を感じない? というか、街の装飾……」

フードを深く被ったミアが、周囲を警戒しながら小声で呟いた。

街の至る所に『真紅の薔薇』と『黒い羽』が飾られ、人々は皆、何かのシンボルマークが刻まれたペンダントを身につけている。


「カノン様! 見てください、あれ!」

レヴィアが目を輝かせて指差した先。街の中央広場には、大理石で彫られた巨大な彫像が建っていた。

漆黒の翼と黄金の光輪を持ち、大鎌を携えた気高く妖艶な女神。そして、その足元に侍る五人の乙女たちの像。

それは疑う余地もなく、カノンと眷属たちの姿だった。


「『おお、真紅の女神様……我らを偽りの神から救い給え……』」

「『聖なる影の刃よ、光の盾よ、竜の爪よ……今日も我らに恵みを……』」


広場の像に向かって、街の住人たちが涙を流しながら熱烈な祈りを捧げている。


「ちょ、ちょっと待って! あたしたち、いつの間に宗教になってるのよ!?」

ミアが顔を真っ赤にしてツッコミを入れた。

「無理もないわ。強欲の神を倒し、あの要塞ごと憤怒の神を消し飛ばしたのよ。生き残った信者や噂を聞いた人間たちが、私を新たな『神』として崇め始めたみたいね」

カノンはフードの奥で、困ったように、けれど優雅に微笑んだ。


「……マスター。広場の中央に設置された『お布施箱』の回収率を計算。……驚異的な利益率。マスター、これで一生遊んで暮らせる」

ノアが銀色の瞳をキラリと光らせて、ちゃっかりと計算を弾き出している。

「こらノア、不謹慎アルよ! でも……お供え物に、あたしの特製肉まんが置かれてるのはちょっと嬉しいアルね……」

「私は元々天使ですけど……まさか『真紅の女神の第一使徒』として拝まれる日が来るとは思いませんでした……」

リンとセラフィも、自分たちの像の前で拝む人々を見て、複雑な表情を浮かべている。

一方、レヴィアだけは「当然です! カノン様は世界で一番尊い神様なんですから!」と一人で誇らしげに胸を張っていた。


「でも、これじゃあ目立ってまともに情報収集できないわね……」

カノンがため息をついたその時、路地裏から一人の商人が声をかけてきた。


「ひぃぃっ! も、もしかして……本物の女神様ご一行!? お、お待ちしておりましたぁぁっ!」

商人はカノンたちの顔を見るなり、地面に平伏してガタガタと震え出した。

「静かにしなさい。……私たちを崇めるのは勝手だけれど、今はただの旅人よ。それより、『憂鬱の神』についての情報を渡しなさい」

カノンが真紅の瞳をわずかに光らせ、静かな威圧感を放つと、商人は涙目で頷きながら情報を口にした。


「は、はいぃっ! 憂鬱の神は、ここから西にある『底なしの霧の森』に引きこもっておられます! あの森に入った者は、皆『生きる気力』を奪われ、絶望の中で自ら命を絶ってしまう恐ろしい場所で……! 神様ご一行といえど、どうかお気をつけて……!」


「……精神干渉系の神。物理的なステータス異常ではなく、脳の報酬系や生存本能を直接破壊するフィールドを展開していると推測」

ノアが瞬時に情報を整理し、カノンを見上げた。


「生きる気力を奪う、ね。……私に救いを求めるこの熱狂的な信仰心すらも、その霧の中では絶望に変わるのかしら」

カノンは広場で祈る人々を一瞥し、妖艶に微笑んだ。

「いいわ。私が本当の『絶望』の底を、あの神に教えてあげる」


救世主から、神へと昇華したカノンたち。

強大な信仰という名のエールを背に受け、一行は次なる死地、生きる気力を奪う『霧の森』へと足を踏み入れるのだった。

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