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孤独の終わりと、真紅と黄金の抱擁

真紅の血の竜巻と、純白の空間を埋め尽くす黄金の法陣。

二つの究極の力が、精神世界を消滅させるほどの勢いで激突しようとした、まさにその瞬間だった。


(……え?)


カノンの脳裏に、水面の向こう側に立つ「神カノン」から、ある感覚が流れ込んできた。

冷徹で、無慈悲で、完全なはずの神の力。

しかし、その奥底にあったのは、ただ一つで在り続ける『孤独』と――幼い自分を守るために命を落とした、母の『愛』の残滓だった。


(……ああ、そうか。私たちは、争う必要なんてなかったのね)


激突の直前。カノンは手にした真紅の大鎌を、自らの意志で霧のように散らした。


「なッ……!? 何をしている。死を望むか!」

神カノンが驚愕に黄金の瞳を見開く。放たれた消滅の光が、無防備なカノンの身体を掠め、白い肌を切り裂いた。

だが、傷口から流れる温かい赤い血は、家族との絆の証。カノンは痛みに顔を歪めるどころか、優しく微笑みながら、ゆっくりと神カノンへと歩み寄った。


「あなたは私を『不完全』だと言ったけれど、それは違うわ」

カノンは、自分に死を告げようとする黄金の法陣の真下へと、迷いなく足を踏み入れる。

「お母様は、私がいつか『自分自身』を愛せるように、この力を封印して守ってくれた。……神としての私も、吸血鬼としての私も、どちらも私なのよ」


「……来るな。理解不能。……排除、排除する……ッ!」

神カノンの無機質な瞳が、初めて激しく揺らいだ。

これほどの力を見せつけても、なお恐れず歩み寄ってくる目の前の自分自身に、完全なる神の論理が崩れていく。


カノンは怯むことなく、神カノンの元へ辿り着くと、その華奢で冷たい身体を優しく、そして強く抱きしめた。


「お疲れ様。もう、一人で戦わなくていいのよ」

カノンは、自分の半身の耳元で甘く囁いた。

「家族を愛するように、私は、私の孤独さえも抱きしめてあげる」


その瞬間。

純白の空間を埋め尽くしていた無機質な黄金の法陣が、音を立てて真紅の花びらへと変わった。


「……あ……」

神カノンの黄金の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。強張っていた彼女の身体が、カノンの温もりに触れて、柔らかく溶けていく。

「……温かい。これが……『心』という、バグなのか……」

「ええ。最高に愛おしくて、最高に不自由なバグよ」


真紅と黄金。

相反する二つの魂が、抱擁によって完全に融和し、螺旋を描いて精神世界の天へと昇っていく。

吸血鬼としての渇望と、神としての万能。それが一つになり、限界を突破した『相乗効果』となって爆発する。


光が収まった後、そこに立っていたのは、究極の吸血鬼にして至高の神――『真の神殺し』へと覚醒したカノンの姿だった。

背中には夜を支配する漆黒の吸血鬼の翼が広がり、頭上には穢れを知らぬ黄金の光輪が輝いている。その姿は、天上の女神よりも神々しく、どんな悪魔よりも妖艶で美しかった。


「……マスター。魂の同期、完了。……完璧です」

精神世界を見守っていたノアの、祝福するような声が響く。

少し離れた花畑では、怠惰の神もまた「よくやったね」と満足げに微笑み、光となって消えていった。


「さあ……帰りましょう。私の可愛い家族たちが、待っているわ」


――現実世界。

紅蓮の要塞の跡地で、カノンの冷たい身体を取り囲み、涙を流しながら祈り続けていた五人の少女たちの前で。


カノンはゆっくりと、深みと輝きを増した真紅の瞳を開いた。

圧倒的な神のオーラと、吸血鬼の妖艶な香りを纏いながら、彼女は愛する家族たちに向けて、極上の微笑みを浮かべた。


「……ただいま、みんな」

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