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廃棄の少女と、甘く溶けるエラーコード

「紅蓮の要塞」へと続く荒野の道中。

マグマが煮えたぎる川のほとりに、要塞から排出された廃棄物が山のように積まれた『スクラップ場』があった。

そこで、異様な光景が繰り広げられていた。


「この欠陥品め! 『怒り』を持たぬ武器など、我が神の軍勢には不要だ! さっさとマグマに溶けて鉄屑になれ!」

憤怒の神の狂信者たちが、一人の少女を囲んで蹴り飛ばし、槍でその華奢な身体を突いていた。

少女は、感情を一切感じさせない無機質な銀色の瞳と、雪のように白い肌を持っていた。首元には『N-0A』という製造番号が刻印されている。彼女の身体はあちこちが破損し、赤い血ではなく、青白い魔力溶液を流していた。


「……ノアは戦闘用ホムンクルス、型番N-0A。しかし『憤怒』の感情出力が規定値の3%に満たないため、不良品と認定。……自身の廃棄処分に同意する」

ノアと呼ばれた少女は、痛みすら感じていないかのように淡々と告げ、自らマグマの川へと身を投げ出そうとした。


「――待ちなさい」


ノアの身体がマグマに触れる直前。

目にも留まらぬ神速で飛来した真紅の魔力が、ノアの身体をふわりと包み込み、引き戻した。

「な、何奴ッ!?」

信者たちが振り返るより早く、ミアの双剣とリンの包丁が閃き、瞬く間に彼らの首が宙を舞った。

「まったく、うるさい奴らね」

カノンがゆっくりと歩み寄り、冷たい石の上に倒れたノアを見下ろした。


「……対象の魔力数値を計測。測定不能。あなたは誰? ノアの廃棄プロセスを妨害する意図が不明」

ノアは感情のない声で尋ねた。

カノンはその無機質な銀色の瞳を見つめ、ふっと優しく微笑んだ。

「私はカノン。……あなた、怒りがないから捨てられたの?」

「肯定。ノアの創造主である憤怒の神は、狂乱と怒りによる戦闘力向上を至上とする。怒れないノアは、ただの出来損ないのガラクタ」

「そう。……感情に振り回されないあなたのその冷徹な瞳、私は嫌いじゃないわ」

カノンは自らの指先を軽く噛み切り、青白い血を流すノアの唇に、己の真紅の血を数滴だけ落とした。

「え……」

「安心して、ただの『治療』よ」

カノンの血がノアの体内に流れ込んだ瞬間、ホムンクルスであるノアの破損していたパーツが一瞬で修復され、青白かった彼女の血が、人間と同じ温かな赤色へと変わっていく。

ノアの瞳に、初めて「驚き」という微かな感情の色が宿った。

「……生体回路のアップデートを確認。出力、以前の800%増。……意味が分からない。なぜ、見ず知らずの不良品に、これほどのリソースを割くの?」

カノンが艶やかに微笑んでノアの頭を撫でた、その時だった。


「ちょっとカノン! またそうやって、すぐに新しい子を構うんだから!」

ミアが頬を膨らませてカノンの背中に抱きつき、その首筋にすりすりと頬を擦り寄せた。

「そうです、カノン様! 私というものがありながら……っ、でも、そんなカノン様も素敵です!」

レヴィアがカノンの腰に抱きつき、セラフィもまた、カノンの手を取って愛おしそうにキスを落とす。


その光景を見た瞬間。

ノアの胸の奥で、ジリッ、と。

今まで経験したことのない、正体不明の『熱』と『痛み』が走った。


「……ッ?」

ノアは自分の胸をギュッと掴み、眉をひそめた。

「どうしたの、ノア? まだどこか痛む?」

カノンが心配そうに覗き込むと、ノアはカノンと、彼女にべったりと張り付いているミアたちを交互に見て、真顔で言い放った。


「……ノアの胸部生体パーツに、原因不明のエラーが発生している。あなたが他の個体と過度な接触を図るのを見ると、胸がチクリと痛む。そして……あなたに、触れたくなる」

「あら」

「このバグは非常に不快。至急、あなたの魔力による詳細なメンテナンスを要求する」

真顔のまま、カノンの腕をぎゅっとホールドして離さないノア。

「「「バグじゃなくて嫉妬でしょ!!!」」」

ミア、セラフィ、リンの三人が、見事なシンクロ率で盛大なツッコミを入れた。


カノンはクスクスと笑い、ノアの銀色の髪を優しく撫でた。

「……ノア。そのエラーを直すには、ただの治療じゃダメなの。私の血を受け入れて、人間をやめ、私の『眷属かぞく』として永遠を共に生きる契約が必要よ。……強要はしないわ。あなたが選びなさい」

ノアは、胸の奥で高鳴る未知の鼓動と、カノンの温かい手の心地よさを天秤にかけた。答えは、すでに計算するまでもなかった。

「……同意する。ノアは、あなたのものになりたい」


「ええ。契約成立よ、私の可愛いお人形」

カノンは艶やかに微笑み、ノアの雪のように白い首筋へと顔を寄せ、その鋭い牙を深く突き立てた。


「あ……っ、ぁっ……!?」


牙が食い込んだ瞬間、ノアの華奢な身体が大きくビクンと跳ねた。

カノンの極上の魔力を帯びた血が、ノアの真新しい血管へと濁流のように流れ込んでいく。それは、感情を持たないはずのホムンクルスの脳を真っ白に焼き切るほどの、圧倒的な多幸感と快楽だった。

「あ、ぁあ……っ、なに、これ……熱い、からだが、溶けちゃう……っ」

無機質だった銀色の瞳が、かつてない快感にトロンと潤み、焦点が合わなくなる。ノアのしなやかな肢体がビクビクと痙攣し、口からは甘い喘ぎ声が止めどなく溢れ出した。

「ひゃああっ! あ、だめ、システムが……ショート、しそう……っ、ま……すたぁ……っ」

カノンが舌で傷口を舐め上げるたび、ノアはカノンの背中にしがみつき、まるで生まれたての赤ん坊のように泣きじゃくりながら、その快楽と愛情の波に溺れていった。


「……ふふ、可愛い声が出るようになったじゃない。もう、不良品なんかじゃないわね」

カノンが血に濡れた唇を離すと、ノアは快感の余韻にガクガクと震えながら、真っ赤な顔をしてカノンの胸にすり寄った。

「はぁっ、あぁ……ますたぁ……、ノア……マスターの、こと……すき……」

感情のなかった少女が初めて知った「愛」。

頼もしくも少し厄介なツッコミ役、第五の眷属『ノア』を迎え入れたカノンたちは、今度こそ万全の態勢で、マグマ煮えたぎる『紅蓮の要塞』へと足を踏み入れるのだった。

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