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異次元の血戦と、誇り高き渇き

ズガァァァァァァンッ!!!!


眩い黄金の都の最深部、玉座の間。その絢爛豪華な空間は、ただ二つの影が衝突する余波だけで、ガラス細工のように次々と粉砕されていた。

「アハハハッ! 素晴らしいよカノン! まさかこれほどまでとはね!」

強欲の神が歓喜の声を上げながら、黄金の魔力を帯びた血の長剣を振るう。

「黙りなさいッ!」

カノンは冷徹な声と共に、真紅の大鎌でその剣撃を真っ向から弾き返した。

常人には到底視認できない、音速を遥かに超えた神速の攻防。二人が一歩踏み込むたびに空間そのものが歪み、斬撃が交差するたびに衝撃波が黄金の柱をへし折っていく。

カノンが自らの血を空中に散らし、無数の真紅の刃に変えて雨のように降らせれば、強欲の神もまた黄金の血を槍に変えて迎撃する。

血を操り、魔力を物理的な破壊力へと変換する『吸血鬼の能力』同士の激突。まさに異次元のタイマンバトルだった。

神に成り上がった強欲の神の力は凄まじかったが、神を三柱も屠ってきたカノンの底知れぬ素質と戦闘センスは、その絶対的な力と完全に互角に渡り合っていた。


一方、その頃。

カノンを強制転移で奪われ、荒野に取り残された四人の眷属たちは、発狂寸前の焦燥感の中で必死に動いていた。

「吐きなさい! あの黄金の光はどこへ繋がっているの! カノン様はどこへ連れ去られたのよッ!!」

レヴィアが、この一帯を監視していた強欲の神の信者を捕らえ、その首ぐらを掴んで竜の炎で炙りながら尋問していた。

「ひぃぃッ! 知らねぇ! 我々も『黄金の都』の正確な場所など……ッ!」

「……そうアルか。じゃあ、これならどうアル?」

リンが信者の関節に特級の歩法で滑り込み、包丁の峰で容赦なく痛覚の秘孔を叩く。

「ギャァァァァッ!! 言う、言うからやめてくれェ!!」

悲鳴を上げる信者から『黄金の都』が存在する大まかな座標と、空間の裂け目の情報を強引に聞き出すと、ミアが血走った目で双剣を抜いた。

「……セラフィ! 座標は分かったわね!?」

「ええ! 私の天使の魔力と、ミアたちの力をすべて私の翼に回してちょうだい! 空間の壁をぶち破って、強引にカノンの元へ飛びます!」

セラフィの黒い片翼が、かつてないほどの神聖な魔力を帯びて巨大化する。

「待ってて、カノン。……絶対に、あたしたちが助けに行くから!」

愛する主を奪われた四人の少女たちの瞳には、強欲の神を八つ裂きにするという強烈な殺意だけが燃え盛っていた。


――だが。

ヒロインたちが必死で空間を駆け抜けようとしているその時、黄金の都での戦況は、徐々に、しかし確実に『傾き』始めていた。


「ハァッ……、ハァッ……!」

カノンの肩が、荒い呼吸で大きく上下している。

真紅の瞳で睨みつける先には、余裕の笑みを浮かべた強欲の神が立っていた。

(……どういうこと……?)

カノンは内心で戦慄していた。

互角だったはずの打ち合い。カノンの大鎌は確かに兄の身体を何度も捉え、深く斬り裂いている。だが、兄の傷は血を流す間すらなく、一瞬で、完全に塞がってしまうのだ。

対して、カノンの状態は絶望的だった。

強欲の神の剣が掠めた頬の傷が、まだ塞がっていない。吸血鬼の最大の武器であるはずの『超回復』の速度が、目に見えて遅くなり始めている。魔力の出力も落ち、大鎌の重さが先程とは比べ物にならないほど腕にのしかかっていた。


「……息が上がっているね、可愛い妹」

強欲の神は、自らの首筋についた浅い傷を指先でなぞりながら、ふっと嘲笑した。

「おかしいと思っていたんだ。君の素質は私をも凌駕するほどなのに、なぜこれほどまでに『底が浅い』のかと」

「……何を、言っているの」

「魔力の絶対量だよ」

強欲の神は、水鏡のように磨かれた黄金の床を歩き、カノンの周囲を悠然と回り始めた。

「吸血鬼の魔力の源は『血』だ。君は、人間の血をそれほど飲んでいないな? なぜだ?」

「……ッ」

図星を突かれ、カノンは奥歯を噛み締めた。

月に一度の吸血衝動。カノンは誇り高さゆえに、見ず知らずの人間の血を啜ることを良しとせず、泥水のような『獣の血』で渇きを凌いできた。彼女が口にした人間の血は、眷属たちと誓いを交わした時の、ごく僅かな量だけだ。

「ハッ、まさかくだらない矜持でも持っているのか? 愚かだな」

強欲の神は、大げさに肩をすくめて見せた。

「下等な人間どもなど、我々にとってはただの食料タンクだ。だが、あいつらの血だけは美味だ。魂の穢れも、絶望も、すべてが極上のスパイスになる。浴びるほど飲んで、数千、数万の命を自らの血肉に変えてこそ、我々吸血鬼は真の力を発揮するんだよ」

兄の背後にある黄金の柱に、無数の鎖で繋がれ、生かさず殺さず血を抜かれ続けている人間たちの『生きた血の貯蔵庫』が浮かび上がる。

底なしの回復力と魔力の理由は、これだった。彼は何万人もの人間の血を啜り、己の力として貯め込んでいるのだ。


「お前も、私と玉座を分かち合う神になるのなら、もっと力をつけなくてはならない」

強欲の神がパチンと指を鳴らすと、黄金の装飾が施された美しいクリスタルグラスが虚空から現れ、その中に極上の香りを放つ人間の血が注がれた。

「さあ、飲みなさい。お前が望むなら、いくらでも用意させてやろう」

甘い誘惑。血の匂いを嗅いだ瞬間、限界を迎えているカノンの肉体が、本能的にそのグラスを求めて激しく疼いた。

これを飲めば、傷は癒え、魔力は全快する。この兄を殺す力に手が届くかもしれない。


だが。

「……退きなさい」

カノンは震える手で大鎌を握り直し、兄が差し出したグラスを、冷酷な瞳で弾き飛ばした。

パリンッ!!という甲高い音と共に、極上の血が黄金の床にぶちまけられる。

「私の牙は……私が心から愛し、永遠を誓った者にしか立てないわ。……愛のない血を啜って得た力など、反吐が出るわね」

「……」

強欲の神の顔から、スッと表情が消え去った。

自らの恩情を無下にされたことへの、静かで冷酷な怒り。

「そうか。本当に……出来の悪いガラクタに毒されてしまったんだな。君には、痛みを伴う『教育』が必要らしい」


ズンッ!!!!


今までとは次元の違う、神と吸血鬼の力が完全に融合した圧倒的な殺意が、カノンを押し潰した。

「あ、ガ……ッ!?」

カノンが反応する間もなく、強欲の神の姿が掻き消え――背後から、無数の黄金の血の槍が、カノンの華奢な身体を四方八方から容赦なく串刺しにした。

「ぐぅ、あぁぁぁぁッ……!!」

「君が折れて私に服従するまで、何度でも傷つけて癒やしてあげよう。永遠にね」

カノンの意識が、絶望的な痛みと失血によって、深い闇へと引きずり込まれようとしていた――。

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