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真紅の断罪と、黄金の狂宴の幕開け

「オォォォォォォォォッ!!? 俺様の、俺様の極上の魔力がァァァッ!!」


怠惰の神の魂という最大のエネルギー源を目前で消滅させられた暴食の神が、狂乱の叫びを上げた。

脂肪と肉塊で構成された巨大な身体から、何千本もの悍ましい触手がムチのようにしなり、カノンを文字通りすり潰そうと全方位から襲いかかる。さらに、その無数の口からは、触れたものすべてをドロドロに溶かす致死の強酸が滝のように噴き出していた。

「死ね! 死ねェェ! 俺様の食事を邪魔した罪、お前の血肉をしゃぶり尽くして――」


「……私が許すまで、喚かないでちょうだい。耳障りよ」


カノンが、氷のように冷たい声で呟いた。

直後、彼女の足元から真紅のオーラが爆発的に広がり、塔の最上階の空間そのものを制圧した。

「ギィッ!?」

暴食の神の触手がカノンに届くより早く、彼女から放たれる『絶対的な魔力の重圧』だけで、何千本もの触手が空中でピタリと静止し、次々と内部から破裂して血肉の雨に変わっていく。

カノンに向かって降り注ぐ強酸の雨も、彼女の肌に触れるどころか、その数メートル手前で真紅の魔力に当てられ、シュウゥゥッ!と一瞬で蒸発してしまった。


「な、なんだ、この出鱈目な力は……ッ!?」

暴食の神の無数の瞳が、驚愕と恐怖に見開かれる。

「あなたのような豚には、理解できないでしょうね。……これは、私の怒りよ」

ヒュンッ。

カノンの姿がブレた。

次の瞬間には、彼女は暴食の神の巨大な顔の真正面、空中にふわりと浮かんでいた。

「ヒィィッ! く、喰らえェェッ!!『暴食のあぎと』!!」

神の巨体がパカッと真っ二つに割れ、空間そのものを噛み砕くほどの超巨大な口が、カノンを丸呑みにしようと迫る。

だが、カノンは表情一つ変えず、真紅の大鎌を片手で優雅に振り上げた。

「……あなたの胃袋には、もう何の価値もないわ」


ズバァァァァァァァァァッ!!!!!


真紅の閃光が、世界を縦に両断した。

「ア、ガ……ッ……?」

暴食の神の動きが完全に停止する。

迫り来ていた超巨大な顎から、塔の最上階の床、さらには天を覆っていた暗雲に至るまで――すべてが、カノンの放った一撃によって真っ二つに分断されていた。

「ブベ、ァ……俺様が、こんな……ッ!?」

「塵一つ残さず、消えなさい」

カノンが空中で手首を軽く返すと、両断された暴食の神の身体に刻まれた『真紅の軌跡』が、ドクンッ!と脈打ち、無数の刃となって内側から爆発した。

「ギャァァァァァァァァァァァッ!!!」

再生能力など、発揮する隙すら与えない。細胞の一つ、脂肪の一滴に至るまで、カノンの放った絶対零度の魔力刃が細切れに切り刻み、完全に『無』へと還元していく。

世界を食い尽くそうとした暴食の神は、自らの血を流すことすら許されず、文字通り『塵一つ残さず』消滅したのだ。


圧倒的すぎる、一方的な蹂躙。

暴食の神が消え去った後には、天井が吹き飛び、美しい青空が覗く塔の残骸だけが残されていた。

「……終わったわ。怠惰の神」

カノンはゆっくりと地上に舞い降り、大鎌を消散させた。

その瞬間、彼女の身体から凄まじい覇気が抜け落ち、張り詰めていた糸が切れたように、カノンの華奢な身体がぐらりと傾く。

「カノン様!!」

「カノン!!」

いち早く駆けつけたレヴィアとミアが、倒れそうになるカノンの身体を両側からしっかりと支えた。

遅れてセラフィとリンも駆け寄り、四人の眷属たちが、愛する主を包み込むように強く、優しく抱きしめる。

「……ごめんなさい、私……」

カノンの真紅の瞳から、再び大粒の涙が溢れ出した。

神殺しを成し遂げた最強の吸血鬼ではなく、ただ一人、大切な家族を失った少女としての涙。

「謝らないでください、カノン。あなたは……立派に、彼女の願いを叶えたのです」

セラフィが、カノンの背中をそっと撫でながら優しく囁く。

「そうアル。カノン様が彼女の魂を解放したから……あの神様は、最後に笑って逝けたアルよ」

リンの温かい言葉に、カノンは耐えきれず、ミアとレヴィアの胸に顔を埋めて声を上げて泣いた。四人の眷属たちは、何も言わずにその涙を受け止め、主の悲しみを共に分かち合う。

互いの温もりが、重い喪失感を少しずつ、確かに癒していくのを感じていた。

もう、あの気怠げな声を聞くことはできない。だが、彼女が命を懸けて教えてくれた真実と、この手に残された眷属たちとの絆だけが、カノンを前へと進ませるのだ。


「……ありがとう。もう、大丈夫よ」

しばらくして、カノンは涙を拭い、気高く美しい顔を上げた。

「暴食の神は討ったわ。残る神をすべて殺し……『傲慢の神』の玉座を、必ずこの手で引きずり下ろしてみせる」

カノンが決意を新たに、四人の眷属たちと頷き合った。

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