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淫靡なる絶対神と、母の死の真実

色欲の女神の居城『狂愛の宮』は、まるで巨大な生き物の胎内だった。

壁や床は妖しく脈打つ肉塊で構成され、足を踏み出すたびに甘ったるい吐息のような音が響く。最奥の玉座の間へと続く扉を蹴り破ったカノンたちを出迎えたのは、血の池の上に浮かぶ肉の玉座で、気怠げに足を組む色欲の女神だった。


「ンフフフ……よく来たわね、オヒメサマ。私の可愛いペットたちをあんなに真っ黒焦げにしちゃうなんて、ひどい子たち」


「あなたの悪趣味な茶番に付き合う気はないわ。その首を刎ねて、真実を吐かせてもらうわよ」

カノンが真紅の大鎌を顕現させた瞬間、彼女の背後から三つの影が疾風のごとく飛び出した。

「カノンに指一本触れさせないわよ!!」

先陣を切ったのはミアだ。吸血鬼の魔力で強化された神速の双剣が、女神の細い首を完璧な軌道で両断しにかかる。しかし。

ガキィッ!!

ミアの双剣は、女神が軽く持ち上げた一本の指によって、いとも容易く止められていた。

「なっ……!?」

「速いだけねぇ。愛撫にはもっとタメが必要よォ?」

女神がふっと息を吹きかけると、ミアの身体が目に見えない巨大なハンマーで殴られたように吹き飛んだ。

「ミア! ……『聖刃・天の裁き』!」

すかさずセラフィが宙へ舞い上がり、黒い片翼から無数の光の剣を雨のように降らせる。同時に、レヴィアが大きく息を吸い込み、城を消し飛ばすほどの『焦熱の息吹インフェルノ・ブレス』を正面から放った。

聖なる光と、すべてを溶かす古竜の炎。それが女神の身体を完全に包み込み、大爆発を起こす。

だが、煙が晴れた玉座には、傷一つない女神が艶然と微笑んでいた。


「……嘘、でしょ」

セラフィが絶望に目を見開く。

女神の肌は、炎に焼かれるどころか、むしろ熱を帯びて妖しい艶を増していた。

「ンフフ、いい熱さだったわぁ。でもね、私を傷つけたいならもっと『愛』を込めなさいな。……私の能力は『愛の暴走』だけだと思った? 私は『色欲』。あらゆる快感も、そして『痛み』すらも己の快楽と力に変換する、傲慢の神が最初に創り出した最高傑作の神よ!!」


ズズズズッ……!!

女神の背中から、無数の棘が生えた巨大な血と肉の鞭が六本、狂ったように蠢きながら生え出した。

「遊戯は終わりよォ。あなたたちのその生意気な顔、絶頂と絶望でぐちゃぐちゃに歪ませてあげる」

六本の鞭が、音速を超えて空間を薙ぎ払う。

「くっ……!」

カノンが大鎌で鞭を弾き飛ばすが、その一撃の重さは尋常ではなかった。カノンの腕が痺れ、床の肉塊が大きく抉れる。

鞭の直撃こそ避けたものの、その棘がわずかに眷属たちの肌を掠めた。

「あ……っ!? ぁ、あああッ……!?」

ミアとセラフィ、そしてレヴィアの三人が、突然崩れ落ちた。

鞭から注入されたのは毒ではない。神経を直接焼き切るほどの『致死量の快楽物質』だ。カノンの血の匂いで精神支配は防げても、物理的な攻撃による強制的な肉体の機能不全は防げない。

三人は激しい痙攣を起こし、武器を取り落として床に伏してしまう。

「あ……カノン、さま……身体、が……」

「やめなさい!!」

カノンが激昂し、大鎌を振るって女神の懐へと飛び込む。真紅の斬撃が女神の胴体を深々と斬り裂いた。

だが、傷口から血は出ない。代わりに桃色の光が溢れ、斬られた端から瞬時に肉が繋がり、再生していく。

「アハハハッ! イクッ! いいわ、もっと痛めつけてちょうだい!!」

狂ったように笑う女神は、再生と同時にカノンの死角へ回り込み、その鋭い爪でカノンの肩口を深く抉った。

「つぅ……ッ!」

「あらぁ、痛い? でも、あなたの母親の痛みに比べたら、こんなの蚊に刺されたようなものよォ」

女神はカノンの血を舐め取りながら、ねっとりと耳元で囁いた。

「教えてあげる。あなたの父親であるあの神が、どうやってあの泥棒猫を殺したか。……あの男はね、愛など微塵も込めることなく、ただ冷酷に、あの女の胸に腕を突き刺して、心臓を素手で引き千切ったのよ」


カノンの動きが、一瞬だけ止まった。

脳裏に、虚飾の神が見せた『幻覚』の光景がフラッシュバックする。

「でもね、一番滑稽だったのはあの女の態度よ!!」

女神は歓喜に顔を歪め、叫んだ。

「あの女、神以外の初めての種族で、私よりもずっと強大な力を持っていたくせに……抵抗すらしなかったのよ! ただ微笑んで、あの男に自分の命を差し出したの! アハハハッ! 馬鹿みたいでしょ!? 自分の命を投げ打てば、愛する男の心を繋ぎ止められるとでも思ったのかしらねぇ! ほんっと、下劣で反吐が出る勘違い女!!」


ドクンッ。

カノンの胸の奥で、何かが冷たく凍りついた。

抵抗しなかった? 母が?

あの空から感じる巨大な悪意。もし、父が自分を疎み、自分を殺そうとしていたのだとしたら。

母は、男に愛されるためではなく――『赤子だった自分を隠し、護るため』に、あえて無抵抗で殺されたのではないか?


「……あ……」

カノンの真紅の瞳から、スッと焦点が外れた。絶対的な自信と誇りで保たれていた彼女の心に、取り返しのつかないほどの巨大な『隙』が生まれた瞬間だった。

「もらったわァ、オヒメサマ!!」

女神がその隙を見逃すはずがなかった。

六本の血の鞭が一本の巨大な槍へと結合し、無防備なカノンの胴体へと容赦なく突き刺さる。

「カノンッ!!!」

身動きが取れないセラフィの絶叫が響く。

ブシャァァァッ!!

大量の鮮血が宙を舞い、真紅の最強吸血姫の身体が、残酷な音を立てて冷たい肉の床へと縫い付けられた。

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