10話 昆虫採集から始まる非日常への入り口③
アリオンside
草木も眠る静寂の夜、その静けさを打ち消すかのように叫びながら逃げ回る冒険者一行の姿がそこにはあった——、と言うか、俺達だった。
何を隠そう、現在進行形でブレイドビートルに追い回されているという訳だ。
「うわァァァー!?聞いてねぇよ街道にブレイドビートルが出るなんて!!!虫は虫でも俺達が探してるのはお前じゃねェェェェェェ!!!」
——ブレイドビートルは、クワガタムシのような大型の甲虫型の魔物で、その名の通り大剣のように鋭く巨大な鋏と、並みの刃や攻撃魔術では全く歯が立たないほど頑強な外甲殻を持つため、地域によっては飛竜種よりも危険度が高く指定されることもある。
弱点は肉質の柔らかい腹部だが、危険な鋏による攻撃を掻い潜って懐に飛び込む必要がある上に、腹下にいる冒険者には巨重を活かして押し潰してくることもあるため、狩猟する際のセオリーとしては、脚の関節や鋏の継ぎ目を狙って弱らせ、動きが鈍り始めた頃に弱点の腹部や頭部を一気に攻め立てるのが望ましい、とされる。
(↑教本の内容丸暗記)
「アリオン、ここは僕に任せて!!」
「流石だなアルマ!!打つ手があるのか!?」
「ここはアルマの作戦に賭けましょう……全員散開!!!」
フリューの合図と同時に、全員バラバラの方向に走り出す。
ブレイドビートルの動きが僅かに止まり、一瞬の迷いの後にアルマの方向へと向かう。
「今だ!!【魔鎧装:灰白の骨杭砲】!!」
アルマの右腕部分のガントレット、その先端に杭状の棘が生成されて、爆発的な勢いで切り離され射出される。
これがアルマの新しい技か!?これならば流石のブレイドビートルも——、
——結論から先に言うと、全然効いてなかった!?
アルマの新しい技、灰白の骨杭砲はブレイドビートルの甲殻を貫きはしたものの、軽く刺さっただけで致命傷には至らなかったようだ。
「チィッ……!!!浅いか……」
「テメェふざけんなァァァァァ!!!全然効いてないじゃあねーか!?」
「いや、螺旋運動を加えて貫通力を上げればあるいは……もう一回!!もう一回チャンスを……」
「変なところで向上心発揮しなくていいんだよバカ!!!何か他の手はないのか!?」
ブレイドビートルの方へと視線を向けると、ギジャァギジャァと目障りな鳴き声を上げながら、怒りに任せて突進攻撃の体勢に移行していた。
「もう一つだけ手はある。確か、ブレイドビートルの弱点は肉質の柔らかい腹部……つまり——!!!」
アルマが魔力を込めて震脚を繰り出すと、地面から鋭く尖った外骨格の柱が形成されて、ブレイドビートルの腹部に突き刺さる。
——ブレイドビートルの自重もあってか、先程の新技よりも効いているようだ。
と言うかアルマ、最初からそれをやれよ!?
「今度は効いてるな……全員、袋叩きだ!!」
アルマとリアンがブレイドビートルを串刺しにするべく上から殴打し、フリューもその辺に落ちてた手頃な石でブレイドビートルをひたすら殴る。
どこまでも泥臭く、文字通り必死な戦いの末に、(本来のクエストにはなかった戦いではあるが)遂にブレイドビートルを討伐した。
なんか、既にめちゃくちゃ疲れたけど俺達の本命は黄金五本角カブトのみ。ブレイドビートルの素材を剥ぎ取った後に、本来の目的である昆虫採集の為に森へと急ぐのだった。
アリオンside 終
▷▷▷
森に入った僕達は、あらかじめ仕掛けた虫寄せ用の罠を一つずつチェックしていく。
「また会ったな若人よ……」
あ、エルドアンさんこんばんは。
「森の奥から悪しき気配がする……おそらく密猟者だろう。私はここで警戒を続けるから、君達も気をつけたまえ」
「ご忠告、ありがとうございます」
別に森の奥に向かうつもりはないけど、助言はありがたく受け取っておく。
というか、密猟者がわざわざ森の奥に向かったって事はおそらく飛竜種とかその辺りの大型魔物の素材目当てだろう。ちょうど今の時期は飛竜種の繁殖期だから、狙いは卵とか、あるいは骨や鱗……
飛竜種の素材は武器や防具にも使えるし、かなり高値で闇取り引きされるらしい。
——これギルドに通報した方が良くないか?とか思ってたその時——、
——グォォォォォァァァァ——
大気を震わせるような咆哮が響きわたる。おそらく飛竜種のだ。(昔、飛竜種の縄張り争いに出くわして逃げ帰った事あるからたぶん間違いない)
「やはりか……!!!私は密猟者を抑える!!君達はギルドに通報を!!」
あまりにも唐突な出来事に動転し、エルドアンさんの言葉が遠くに聞こえる。
——アリオン達は無事だろうか?
そう考えた途端、僕は矢も盾もたまらず走り出していた。




