9話 昆虫採集から始まる非日常への入り口②
カイツールまでの道行きは、最近クロスキングス周辺に野盗が増えて物騒だという前評判通りに襲撃を受ける事となった。
頭数としては4人、(たぶん)剣士2人と軽装備の短剣使い、弓使いの前衛後衛がはっきりしたシンプルなパーティ編成だ。
「まずは防御!!」
左手側に形成した外骨格のガントレット兼盾で、闇雲に剣を振り回すだけの前衛を押しとどめて、戦棍で土手っ腹を殴りつける。
すかさず僕の後ろから飛び出したリアンがもう1人に斬りかかるが、そのタイミングでダメ押し!!
「【魔鎧装:灰白の咬牙罠】!!」
地面に接している僕の足を起点として魔力を通して、敵の足元からトラバサミ型の罠を展開、そのまま捕らえた。
野盗の剣士は防御すら間に合わず、鎧の上からリアンのトマホークでぶん殴られて派手に吹っ飛ぶ。
後ろに控えていた弓使いと、攻撃の機を伺っていた短剣使いも既に灰白の咬牙罠で捕らえている。
後衛のフリューとアリオンがなんだか暇そうにしてるくらいの平和的解決だった。
——とまぁ、道中そんな感じの出来事もありつつ無事にカイツールに到着した。
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現地での宿を確保した上で、カイツールのギルドへの一時的な登録を済ませて森へ。
——そして、どういう訳か森は、黄金五本角カブトを求める冒険者で賑わっていた。
これはいったいどういう事なのだろうか?いくら報酬が高額だからと言って、地味な昆虫採集でこんなに人が集まる事ってある?空前のカブトムシブームか何かですか?
「これは……予想外の展開ですね……」
あまりの出来事にフリューも衝撃を受けているようだ。とはいえ、わざわざカイツールまで来て今さら引き返す訳にもいかない。
「当然、何か策はあるんだよね?フリュー」
僕は僅かばかりの期待を込めて尋ねてみる。
「ここは昆虫の習性を利用して捕まえましょう。カブトムシの類はたいてい夜行性、今のうちにそこら辺の木に餌となるハチミツとか果物を仕掛けて、夜になってからゆっくり探せば良いだけの話ですね」
つまり、焦ってむやみやたらに探し回らずとも今のうちから準備を整えて夜になって人が居なくなってから一気に勝負に出るという訳か。
流石フリュー、かつてエルフの里に住んでただけあって、サバイバルとか狩猟採集系の知識が豊富だ。
とりあえず、今やるべき事がわかった以上は目の前の目標に全力を尽くすのみ。
フリューから回復薬の調合に使ったハチミツの余りと、森で採取した食べられる木の実を受け取り、辺りの木に仕掛けていく。
「慌ただしいな。何か探し物かな?若人よ……」
「……!?」
——唐突に、どこか近くから男の人の声が聞こえた。声はするけど姿が見えない、いったいどこから……!?
「ここだ。君の目の前にいる」
声のした方に振り向くと、目の前には森の木に扮したおっさんがいた。
「うぉォォォォォォォァ!?」
何このおっさん!?さっきまで全然気配を感じなかったし、そもそも何故木になりすましてるのかわからないし、あまりにも存在が意味不明すぎる!?
「まずは落ち着きたまえ。そう慌てていると探し物は見つからないものだ。呼吸を整えて森の声に耳を傾け、自然と一体になるのだ。そうすれば探し物も自ずと見つかる」
「何かいい事言ってる風な空気醸し出してますけど、貴方誰ですか!?ここで何やってるんですか!!!!」
あまりにも意味不明な状況すぎて理解が追いつかない。そして、僕の叫び声に気付いたフリュー達が集まってきた。
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「なるほど、つまりこの森はおっさんの修行場所って訳か。騒がしくして悪かったな」
——さっきまで正体不明のおっさんと話してたアリオン曰く、この人は僧侶のエルドアンさん。普段からこの森で修行をしているらしく、たまたま目についた僕に声をかけただけだとか。(何故木に扮していたかは結局理解できなかったけど)
「僕からも、騒いでスミマセンでした」
「なに、気にする事はない。とはいえ、近頃は森を荒らす密猟者が増えているようだから君達も気をつけたまえ。この手の何かやましい事がある人間は、何をするかわからないからね」
僕達はエルドアンさんの忠告を心の片隅に留めつつ、彼と別れて再び木にハチミツを塗る作業に戻った。
——準備はできた。後は夜になってからまた確認するだけだ。




