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次は、どの県を食べようか?  作者: 落川翔太
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11.福岡県

11.福岡県


 その翌日から、晴斗たちの生活が変わった。

 彩乃は、しばらくの間、仕事を休み、自宅で安静することになった。

 そのため、晴斗が朝九時前に一人でお店の鍵を開けた。それから、九時になる十分か十五分前に、ぞろぞろとシェフたちが事務所にやって来て、それぞれが着替えを始めた。

九時になり、晴斗はシェフたちと一緒に開店に向けて、準備を始めた。

 晴斗は彩乃とは違い調理はできなかったので、それらの仕事をシェフたちに任せることにした。だから、晴斗はいつも通り店内の清掃や自分が出来る範囲の準備をした。

 午前十一時になり、お店を開店させた。午後十二時になると、お昼を食べに次々と客たちが入って来た。店内は混雑していた。

 彩乃がいない分、案の定、お店は忙しかった。けれど、晴斗やシェフ四人でお店を回せないこともなかった。それは、平日だからかもしれないなと晴斗は思った。けど、もしこれが土日なら、これでは人手が足りずお店を回すのも困難かもしれないなとも晴斗は思った。彩乃の手も借りたいが、そうする訳にもいかないなと晴斗は思った。他に何かいい方法はないだろうか。晴斗は考えた。

 そうしているうちに、午後三時になった。無事にランチタイムが終わった。

「お疲れ様」

 晴斗は厨房にいたシェフたちに声を掛けた。

「四時まで休憩しよう。ゆっくり休んで」

 晴斗がそう言うと、「はい!」と、吉田というシェフが返事をした。それから、吉田は事務所へ行った。他の三人のシェフたちも彼の後に続いて、事務所へ戻って行く。

 晴斗も一旦休憩しようと思い、事務所へ行った。

事務所に戻って、事務机の椅子に腰掛けた。はあ、疲れた。それから、晴斗は机の上に置いてあるスマホを手に取った。何か連絡が来ているかなと思いスマホを見ると、彩乃からメッセージが来ていた。

『あなた、お疲れ様。お店はどう? 平気?』

 それは、彼女からの心配と労いのメッセージだった。

 晴斗はそれを見て、にやりとした。それから、『お疲れ! なんとかやってるよ』と、メッセージを打って送った。

 それから、晴斗はすぐにふうと息を吐く。

 ランチタイムを終えたが、その時晴斗にはやるべき仕事があった。今の食材の在庫の確認である。いつもなら彼女がいるので、その仕事を気兼ねなくできるのだが、今は彼女がいない。それに、その時晴斗は疲れていたこともあって、すぐにやろうとする気にはなれなかった。

 その前に腹ごしらえをしようと思った晴斗は、カバンの中から弁当を取り出した。その弁当は今朝、彼女が作ってくれたものであった。

 中を開けると、そこには玉子焼きやミートボールが入っていた。どれも美味しそうであった。早速、晴斗は玉子焼きを一口食べる。その玉子焼きは旨かった。これで夜も乗り切れるなと晴斗は思った。

 お昼を食べ終えた後、晴斗は食材の在庫の確認を始めた。それは晴斗がいつもしている仕事だった。食材の確認は夜の営業で困らないようにするためである。もし足りない食材などがあれば、晴斗は夕方の営業までに買い出しを済ませる必要があった。晴斗が今ざっと見ただけでも、卵や牛乳、アボカドなどが少なかった。晴斗は電話の近くにあったメモ帳に足りなかった食材の名前と必要個数をペンで走り書きした。そして、晴斗は一度、事務所へ行って、そこに居た吉田というシェフに「買い出しに行ってくる」と伝えた。

「分かりました。行ってらっしゃいです」と、吉田は言った。

「四時頃には戻って来るから」

 晴斗はそう言うと、「はい」と、彼が返事をした。

 それから、晴斗は財布とスマホと先ほどのメモを持って、外へ出た。外へ出ると、シェフの二人が煙草を吸いながら、お喋りをしていた。晴斗は彼らにも買い出しに行ってくると言い、車を停めた駐車場まで歩いた。

 晴斗はそこから車を五分程走らせて、近くのスーパーへ行き、そこで買い物を済ませた。

 買い出しから戻ってくると、午後四時五分であった。

 晴斗が厨房へ行くと、二人の女性スタッフが来ていたことに気付いた。午後四時に来たのだろう。彼女たちはフロアの従業員であった。

 開店の午後五時に向けて、午後四時に彼女たちやシェフたちが準備を始めた。

 フロアスタッフの二人は、店内やトイレの掃除をしたり、準備をする。晴斗は、その時、厨房でシェフたちに交じり、準備や簡単な調理、それから皿洗いなどの手伝いをした。

 そして、午後五時になり、いよいよ夜の部が始まった。

 夜になると、案の定忙しかった。

 いや、彩乃がいる時とはほとんど変わらないのだが、彼女がいない分、晴斗は忙しく感じたのかもしれない。

 夜の運営中、フロアは二人の女性スタッフにまかせ、晴斗はとにかく厨房のシェフたちを手伝った。晴斗はドリンクを作ったり、簡単な調理をしたりした。晴斗はまるで自分が飲食店でアルバイトをしている気分になった。むろん、晴斗は飲食店でのアルバイトをしたことがないのだが。

 簡単な作業だけだが、どこかで楽しいと感じている自分がいることに晴斗は気が付いた。

 そして、午後七時になり八時と時間があっという間に過ぎていった。九時頃になると、客の数は減り、ようやく閉店の午後十時になった。

 最後のお客さんが帰ると、晴斗はホッと息を吐いた。他のスタッフやシェフたちもそうして安堵していた。

 それから、晴斗はすぐにフロアの女性スタッフたちやシェフたちを集めて、終礼をすることにした。

「皆さま、今日はお疲れ様でした」

 早速、晴斗は口を開いた。「今日は疲れましたね。僕はもうくたくたです」

 晴斗がそう言うと、皆が笑い出した。

「それはさておき、皆さまもご存知の通り、小坂こさかは……、彩乃はしばらくの間ここに来ません。ですから、ここにいる僕を含めた皆さんで、このお店の運営を頑張って行きましょう。いいですね?」

 晴斗がそう言うと、「はい」と、一同が返事をした。

「では、よろしくお願いします。あ、最後に。片付けが終わり次第、皆さん帰っていただいて大丈夫です。以上です。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした!」

 全員は大きな声でそう言って、ぺこりと頭を下げた。そしてすぐに、フロアの女性たち二人はフロアを、シェフたちは厨房の片づけを始めた。

 晴斗は最終で残った在庫の確認とレジ閉めをした。

 それから一時間ほどして、厨房やフロアの片づけを終えたシェフたちが、次々と事務所にやって来た。彼らは着替えを済ませると、「お疲れ様でした」と晴斗に言って、すぐにその店から出て行った。

「お疲れ様でした」

 彼らが出払った後、晴斗も仕事を終えると、帰ることにした。着替えを済ませた後、晴斗は店の電気を消して、そこから出た。それから、その店の鍵を閉めて、近くの駐車場まで行った。

 エンジンを掛けて車の時計を見ると、午後十一時を過ぎた頃だった。晴斗は疲れていた。すぐに帰ろうと思い、晴斗は自宅まで車を走らせた。


 帰宅すると、自宅のアパートの灯が点いていた。どうやらまだ彩乃は起きているようだった。

「ただいま」

 晴斗が玄関でそう言うと、リビングから彼女が顔を出した。

「あ、おかえりなさい」

「まだ起きていたんだ……。」

「うん、まだ寝れなくて……。というより、あなたが帰って来るのを待っていたんだけどね」

 そう言って、彼女は八重歯をのぞかせた。

「ねえ、あなた。今日どうだった?」

 それから、彼女がそう訊いた。

「うーんと」

 晴斗は今日一日のお店の状況を思い出し、口を開いた。

「やっぱり彩乃がいなくて大変だったよ」

「やっぱそっか」

「うん。でも、今日は何か問題があったわけでもなかったし、スタッフ全員が頑張ってくれたから、なんとかお店はうまくいったよ」

 晴斗がそう言うと、「そっか」と彼女は言って笑った。

「それはよかった」

「ただ……。」

 晴斗は一つ心配していることがあった。

「ただ?」

「平日はこの人数で平気でも、土日がこれだとキツイかもしれないんだ」

 晴斗がそう言うと、「ああ、確かに……。」と、彼女が言った。

「それなら、土日だけ入ろうか? 私?」

「そうしてもらいたい気持ちもあるんだけど、ただ彩乃の場合、万が一と言うこともあるから止めておいた方がいいと思うんだ」

「だよねえ……。」

 彼女はそう言ったきり、黙ってしまった。

「晩飯は?」

 それから、晴斗はそう訊いた。

「今日はカレーだよ」

「はいよー。風呂先入るから、もう寝ててもいいよ」

 晴斗にそう言われ、彩乃は「じゃあ、そうする」と言って、寝室に向かおうとした。

「あ、そうだ」

 晴斗が浴室に向かおうとした時、ふいに彼女が何かを思い出したように言った。

「どうした?」

 晴斗は振り返り、彼女の顔を見た。

「今度の休みさ、福岡料理でも食べに行かない?」

 それから、彼女がそう言った。

「福岡料理?」

「そう。今日、テレビ観てたら、ちょうどそれがやってたの」

「へー。いいんじゃない?」

「いい? いつ行く?」

「今度の月曜日はどう?」

「いいよ」

「じゃあ、その予定で」

「分かった。じゃあ、おやすみ」

 彼女はそう言って、あくびをしながら寝室へと向かった。

「おやすみ」と晴斗も言って、風呂場へ直行した。

 翌日も、晴斗は朝九時にお店の鍵を開けてから閉店までシェフやスタッフたちと一緒に仕事をした。

 そして土曜、日曜と、晴斗は従業員を増やして朝から夜まで彼らと一緒にお店を回した。

 それから、ようやく月曜日になった。

 晴斗はその二日間の忙しさの疲れもあって、お昼頃まで寝ていた。

「あなた、もうお昼よ。起きて」

 彩乃がお昼ご飯を作り終えた頃に、晴斗は彼女に起こされた。晴斗はすぐに起きて、ダイニングの椅子に座る。その日のお昼ご飯は、彼女があの店で作るオムレツであった。

「おお、うまそう!」

「頑張って作ってみた! お店のとはちょっと違うけどね。でも、自宅でもこうやって作れるんだよね」

 彼女は嬉しそうに言って笑った。

「食べよう」

 それからすぐに彼女がそう言った。晴斗は「いただきます」と、手を合わせた。早速、晴斗はそのオムレツを一口食べた。

「うん、うまい!」

 それは玉子がフワフワだった。そして、玉子がとろけるようにクリーミーであった。

「ホント?」

 彼女はそう言って、一口食べる。「ホントだ!」

「でしょ? 最高だよ」

 晴斗はそう言って、思わず笑顔になった。

「よかった笑ってくれて」

 ふいに彼女がポツリと言った。

「え?」

 思わず晴斗は声を上げた。

「だって、最近、あなた、全然笑ってなかったんだもん」

彼女がそう言って、にやりと笑った。

 その後、晴斗は確かにそうかもしれないなと思った。それもこれも、仕事が忙しかったり、ここ最近色々と大変だったからだろうなと晴斗は考えた。


 夜六時半頃、晴斗は彩乃と電車に乗って上野駅に来ていた。そこに福岡料理のお店があるようだった。駅から少し歩いた所に、そのお店はあった。

 中へ入ると、男性の店員が二人を奥のテーブル席に案内してくれた。席に着いて、晴斗は早速、メニューを開いた。晴斗はそれを見て、明太子や餃子、もつ鍋などの料理に目が行く。

「おいしそうだね」

「ね」

「何がオススメなの?」

 それから、晴斗は彼女にそう訊いた。

「オススメは、胡麻ごまサバって料理みたいなの」

「胡麻サバ? なにそれ?」

「鯖の刺身を、すりごまとか醤油や酒で和えた料理なの。それをご飯に乗せて食べたりするんだって」

「へー。おいしそうだね」

「でしょ? それはオススメ」

「じゃあ、それを頼もう。後は?」

「明太子」と、彼女はメニューを指して言った。

「いいね」

 それから、焼き餃子と味噌もつ焼き、もつ鍋と生ビールとウーロン茶を一つずつ頼んだ。

 少しして、生ビールとウーロン茶が届いた。

「あなた、お疲れ様」

「お疲れ」

 二人はそう言って、生ビールのジョッキとウーロン茶のグラスを鳴らした。

 それから、晴斗は生ビールをごくりと飲んだ。

「はー、うまい!」

 晴斗がビールを飲んで、息を吐いた。

「ね」と、彩乃もウーロン茶を一口飲んで言った。

 それから、しばらくして、胡麻サバと明太子がやって来た。

「おお、うまそう!」

 晴斗は目の前に出された胡麻サバを見て言った。

「ね。明太子も美味しそう!」

 彼女は嬉しそうに言った。

「じゃあ、いただきます」

 それから、彼女が手を合わせて、まず箸で胡麻サバを一つ掴んだ。早速、それを食べた。

「ん、おいひい」

 それを食べた彼女がニコニコして言った。

「ホントに? じゃあ、俺も」

 そう言って、晴斗もその胡麻サバを食べてみた。噛むと、口の中に胡麻の香りがいっぱいに広がった。それから、噛めば噛むほど鯖の甘味が感じられた。

「あ、うまい! なんか甘いね」

「うん、分かる」

「不思議だね」

「ねー」

 それから、今度、明太子を彼女が食べた。

「うーん、辛っ!」

急に来た辛さに彼女が顔をしかめた。「けど美味しい」そう言って、彼女が笑顔を見せる。

晴斗はそれが可笑しくて笑った。

「いや、辛いよ。あなたも食べてみて」

 彼女にそう言われ、晴斗も明太子を一つ、つまんで口に入れた。噛むと、明太子のつぶつぶとした食感と塩味があった。

「うん、うまい」と言った瞬間、晴斗の口の中に一気に辛みが押し寄せた。「あー、辛え!」

 晴斗はその辛さに思わず舌を出した。

「でしょ?」と、彼女がにやりと笑った。

 すぐに晴斗はその辛さを緩和させるためにビールを飲む。

「はー、辛かった……。」

 晴斗がそうしていると、彼女がケタケタと笑い始めた。

 その後しばらくして、焼き餃子と味噌もつ焼きがやって来た。それらはとてもいい香りがした。

「餃子、美味しそう」

 彼女はそう言って、その餃子を箸で一つ掴む。ふうふうと冷ました後、口に運んだ。彼女はおいしそうに食べていた。

「うまー」と、彼女は嬉しそうに言った。「これはビールが飲みたくなるよ」

 彼女は今ビールが飲めないので、晴斗を見て羨ましそうに言った。

「どれどれ」

 晴斗もそれをふうふうして、食べてみる。その餃子は皮がパリッとしていて、中の具がジューシーで肉汁が溢れでてきた。

「うまいね、この餃子も」

 確かにこれはビールだなと思った晴斗は、くいっとビールを飲んだ。間違いなくビールに合っていた。

 そして、今度、晴斗は味噌もつ焼きを食べてみる。もつはプリッとしていて、噛めば噛むほど、味噌の弾力や甘み、味噌の味が感じられて美味しかった。それから、一緒に焼いてあるキャベツやにらやもやしなどの野菜も一緒に食べると、野菜の甘味や味噌の味わいがより一層感じられた。

 そして、ようやくもつ鍋がやって来た。そのもつ鍋は湯気が立ち、いい匂いがした。

 彼女が深皿にそのもつ鍋をよそう。それを晴斗に手渡した。その後、彼女は自分の分を掬った。

「おいしそう」

「だね」

 早速、彼女がもつを一口で食べた。

「うーん、ぷりぷりしてておいしい」

 彼女は思わず笑顔になっていた。

 その後、晴斗もよそってもらったもつを一つ食べてみた。そのもつはとても柔らかく、ぷりぷりとした食感がとても良かった。

「もつもうまい! 最高!」

 晴斗も笑顔でそう言った。

その後、晴斗はくたくたになったニラや白菜などの野菜も食べてみた。醤油ベースの出汁で煮込まれたその野菜たちも美味しく感じられた。もつと一緒に食べてみると、これまた美味しかった。

「野菜も美味しいね」

「ホントね」

 彼女も白菜を食べながら、そう頷いた。

 その後も、晴斗たちはもつ鍋や焼き餃子や明太子などをゆっくりと食べていた。

「ねえ、あなた。そう言えばね」

 ふと、彼女が口を開いた。

「何?」

「栞里って覚えてる? 私の友達の?」

 彼女にそう言われて、晴斗は少し前にお店に来たベビーカーを押した茶髪ショートの女性のことを思い出す。

「杉下さんのこと?」

 晴斗がそう言うと、「そうそう」と、彼女が言った。

「覚えてるよ。彼女がどうかしたの?」

 晴斗がそう訊くと、「実はね」と、彼女が口を開いた。

「栞里がね。土日ならお昼だけだけど、うちのお店を手伝ってくれるって!」

「え? 本当に?」

「うん。本当よ。でね、彼女ね、学生時代に飲食店でバイトしたことあるんだって」

「へー、そうなんだ」

「そうみたいなの。しかも、接客と厨房を経験したことあるらしいから、栞里、引っ張りだこでしょ?」

 彼女はにやにや笑って言った。

「それは助かるな」

「でしょ?」

「うん。てか、もしかして、彩乃が杉下さんに連絡してくれたの?」

「そうだよ。だって、あなたが『土日は人が欲しい』って言ってたから」

「そっか。そうだよね……。」

「どうかしたの?」

 その後、彼女が首を傾げた。

「いや、ありがとう。彩乃、わざわざそうしてくれて。本当にありがとう!」

 晴斗がそう感謝を述べると、「いやいや、それくらい別にいいって……。」と、彼女は照れ臭そうに笑った。

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