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ゼロのアクタ  作者: いくさや
第三章 故郷
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92 故郷なんだ

 92


 嫌な事件が最後にあったけど、顔合わせは無事に終わり。

 僕はクロエから。ジルはデイジーから。

 筋肉に熱くなり過ぎとお説教された。


 違うんだ。

 筋肉は悪くないんだ

 あいつらは決して裏切らないんだ。

 ただ、魂が熱くなるとどうしても、ね?

 そんな僕たちの語りは優しい微笑みで流されてしまった。


 ともあれ、信頼関係の構築はばっちりだ。

 僕たちは二人からアドバイスをもらいながら準備に一日使い、翌朝には集落を出る事にした。


「忙しいねー」

「ここで時間かける理由もないし」


 大森林の奥に行くならともかく向かうのは外。

 人間の領域なのだから必要なものは行った先でも手に入る。

 ここで準備に時間をかける理由もない。


「まあねー。ここって必要最低限もギリギリだからねー」


 忘れそうになるけど、大森林は亜人族と魔獣の領域。

 人間が生きるには過酷すぎる場所なのだ。

 手に入るものの品質は良くないし、高い。

 無理に買い揃えても、住人の迷惑になりかねない。


 本当は魔王城の周りの方が安全で、暮らしのレベルも高いんだよなあ。

 話しても信じてもらえないんだろう。

 なにせ、外では魔王様が魔獣を従えていると思われているんだし。


「いっそ奥まで行ったら?」

「ダメダメー。普通は亜人族と喧嘩しちゃうからさー。君らの方が例外なんだよー?」


 それもそうか。

 僕らも最初はかなり警戒された。

 ラフル曰く、それでも馴染むのは早かったらしい。


「大体、魔王様のおかげで、魔王様のせいだと思う」

「だよねー」


 唯一の見送りのラフルと軽口を叩いて、お別れだ。

 軽い調子で手を振ってくる。


「じゃ、またねー」

「ラフルも用事が終わったら来るつもり?」


 その辺りを聞いていなかった。

 そもそもどんな用事なのかも。

 秘密主義のラフルの事だから教えてくれないだろうと思っていたけど、今の口ぶりだと追ってきそうな感じだ。


「ま、用事次第かなー」


 やっぱり話すつもりはないようだ。


「けど、きっとまたすぐに会うことになる気がするなー」

「なにそれ、予言?」

「はは。そんなのできたらいいのにねー」


 要領を得ない語り口はいつも通りだった。

 ラフルは二ヘラと笑って手を振ってくる。


「ま、また会う日まで元気でねー。活躍、期待してるよー」


 どんな活躍を期待しているんだか。

 そもそも目立つ行動は控えようとしているのに活躍なんてしようがないのに。


 言い返していたら出発できない。

 黙って手を振り返して、待っていた三人と合流する。


「クロエは話さなくて良かったの?」

「そう。いい」


 ラフルへの塩対応も変わらないな。

 僕と出会うまでは保護者っぽい立ち位置だったはずなのに、全然心を開いていない。

 その辺りはクロエだけじゃなくて、ラフルにも原因があるようだから言及はしないけどさ。


 頭を切り替えよう。

 僕はジルとデイジーの二人に改めて頭を下げる。


「これからよろしく」

「おう。任された」

「うっす。護衛抜きの旅のお手伝いで二百万はもらいすぎっすからね。その分、しっかりお世話するっすよ」


 もらいすぎだけど返すつもりはないらしい。

 当然だね。

 そう提案したのは僕なんだから、働きで返してくれるだけで十分だ。


「さて、最終確認だ。本当にこの道のりでいいのか?」


 早速、僕らは森を歩き始める。

 獣道より少しマシという程度の踏み固められた道だ。

 兵士が巡回して魔獣狩りをしているわけでもないから襲撃される恐れはあるけど、さすがに集落近くはその可能性も低い。

 話しながらでも危険は少ない。


 昨日、話し合って結論は出たはずだけど、ジルが確認してくる。

 反対はしないまでも乗り気ではないらしい。

 折りたたんだ地図を片手にしたデイジーも頷いてる。


「こっちだと王都までかなり遠回りになるっすよ? そりゃ、人は少ないけど他にも近くて安全な道はあるっす」

「うん。でも、そっちの開拓村に用があるんだ」


 旅のルートについてはジルたちに任せている。

 どこにどんな道があって、どんな町と繋がっているかも知らないのだ。

 プロに任せた方がいいに決まっている。


 でも、最初の目的地だけはわがままを言わせてもらった。


「故郷なんだ」

「ふぅん。ま、雇い主がそう言うならあたいはいいけどね」


 文句は飲み込んでくれたみたいだ。

 デイジーはまだ何か言いたそうだったけど、ジルに肩を叩かれると続けなかった。


 わがままな雇い主で申し訳ない。


 けど、村を急に出てから五年。

 あれからどうなったのか知りたかった。


 家族はどうしているのか。

 無事なのか。

 クラリスを倒して、巡回神父はベルたちに任せて街に向かってもらったから、本当に教会につぶされたりはしないだろうけど。


 ベルとヌイはまだ王都だろうか。

 それとも五年もあれば学院を卒業して戻っているのだろうか。

 あるいは王都で働いているかもしれないし、冒険者や騎士になっているかもしれない。

 教会には所属していてほしくないけど、クラリスにあれだけ噛みついていたんだから心配ないかな?


 おじさんとおばさんは?

 村長たちは?

 村の人たちは?

 開拓は進んでいるのか?


 今まであまり考えないようにしていたけど、気になりだすと止まらない。

 あんなトラブルを持ち込んだ身だ。

 村の中に入れてくれなんて言わない。

 でも、せめて一目だけでも見たい。

 家族が無事に過ごしているのを確認したい。


「だいじょうぶ?」


 いつも通り隣にいるクロエが手を握ってくれる。

 思っている以上に緊張していたのか、握りしめていた手に気付く。

 ああ。

 これじゃ手を繋げないね。


 一度息を吐いて、手を握りなおす。


 僕たちは支え合って生きている。

 こういう時に何度も実感する。


「うん。クロエがいてくれるから大丈夫だよ」

「そう」


 さあ、五年ぶりの帰郷と行こう。




 出発から半月。

 以前の半分の時間で踏破した僕たちは大森林を五年ぶりに出た。

 そして、すっかり寂れてしまった故郷を見るのだった。

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[一言] 寂れちゃったかぁ。
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