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ゼロのアクタ  作者: いくさや
第三章 故郷
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88 怪しい仕事じゃないだろうね

 88


「仕事?」

「そ。お仕事だよー。ちょっとここで問題があってさー。解決手伝ってくれたらー、外のお金あげるよー」


 この集落なら両替もできるけど、それなりの手数料を取られる。

 多少の手数料で困るような貯金ではないけど、どうせ案内人の連絡待ちになるんだ。

 ここでダラダラとしているよりは体を動かした方がいいかもしれない。


「内容によるよ」

「ある場所のー、見張りをしてほしいんだよー」


 見張りはいいけど、なんで言葉が足りないかな。

 場所とか、見張る相手とかまで話してよ。

 思わずラフルを疑ってしまう。


「怪しい仕事じゃないだろうね」

「怪しい仕事を取り締まる方だよー。俺は正義の味方だって知ってるでしょー?」


 両手を上げて、無実をアピールするラフル。

 そういう大袈裟な仕草が、うさんくさいんだよなあ。


「見張ってほしいのはー」


 チラリとラフルがクロエを見て、続ける。


「精霊族の村だよー」


 サラダを突いていたクロエのフォークが一瞬止まった。

 すぐに何事もなかったようにジャガイモを刺して口に運ぶけど、今度はその動作が早くなっている。

 動揺はしているし、意識もしている。

 けど、取り乱すほどではない、かな?


 なるほど。

 反応を探りながら話すのはそのせいだったのか。

 気遣いができないわけじゃないもんな。


「どうして精霊族の村を見張らないといけないの?」

「実はねー、亜人族を狙った人さらいがいるみたいなんだよねー、ここ」


 カツンッ。

 フォークの先が木皿の底を叩く音。

 今度ははっきりとクロエが反応した。

 ずっと我関せずの様子でいたのに、今は黙ってラフルを見つめている。


「クロエ、大丈夫?」

「いい。でも、手」

「うん。握ってる」

「そう。そうしていて」


 手を握れば冷たい感触。

 いつもより少しだけ強い力。


 クロエは人間と精霊族のハーフ。

 精霊族が他種族の子供を産む事は今までなかったそうだ。

 少なくとも村にはクロエ以外にハーフは一人もいなかったと聞いている。

 それは精霊族が排他的な一族で、人間と積極的に交流しないし、恋仲になる事もないためだろう。


 じゃあ、どうしてクロエが生まれたのか。

 精霊族の母親がどこで、どうやって人間と関係を持ったのか。

 あまりいい想像にならないと思っていたけど、そういう事なのかもしれない。


「昔から噂はあったんだけどねー。外の貴族とか、豪商とかが性質の悪い冒険者を雇ってー、亜人族を攫っているってさー」


 ラフルはあえて理由まで話さない。

 クロエへの配慮でもあるし、正義の味方からしたら口にするのもはばかられたのかもしれない。


 権力や金持ちの道楽。

 それは時に行き過ぎる時がある。

 往々にして、法や道徳を超えて、踏み外す。


 危険な大森林にしかいない亜人族はさぞ希少な扱いだろう。

 手に入れば大金を出す奴がいるのだろう。

 そして、それを商売として考える外道がいるのだろう。


「そいつらがここにいるの?」

「さすがにここを拠点にはしてないだろうけどー、大森林で他に人間が出入りできる場所もないでしょー」


 物資の補給に使われている、と。

 ラフルは溜息を隠さずに続ける。


「そんなのこの集落の人からしたら大迷惑だよー。外にはいられないのにー、亜人族やー、魔王様から目を付けられたら行き場なんてないのにさー。だからー、解決を頼まれたんだー」


 その通りだ。

 僕らなんかは五年も魔王城で過ごしていたから、亜人族の人たちとも馴染めた。

 でも、それぞれの集落で過ごしている大多数の亜人族からすれば、人間は人間。

 自分たちを攫おうと狙う連中と区別してくれるはずもなく、被害が大きくなれば人間はまとめて排除されてしまうだろう。


「っていうか、魔王様が怖くないの?」

「外の人間にとってー、魔王様って伝説の存在だよー。千年も生きるってー、本当だと思ってないんじゃないかなー」


 知らないとは恐ろしい。

 そいつらに話して聞かせたところで信じないだろうけど、知っている身からすれば無謀にも程がある。


 ともあれ、ここまで聞いてしまえば協力する以外の選択肢はなかった。


「わかった。精霊族の村を見守ればいいんだね?」

「頼めるかなー。近くにある他の亜人族の村はー、交流できているから話して警戒してもらえるしー、警備の人を送れるんだけどさー」


 排他的な精霊族だけは、それができなかった、と。

 だから、襲撃されないか見張りが必要なのか。


「二人が来てくれて助かったよー」

「ラフルは?」

「俺はこっちに残って捜査の陣頭指揮って感じー? ほら、魔王城から来た奴らと、こっちの連中の間に立てるの俺だけだしねー」


 集落に残って、人攫いの拠点を探すのか。

 ラフルは言葉にしないけど、既に目星はつけているんだろうな。


 狭い集落だ。

 出入りする人間は高が知れている。

 外とのやり取りも皆無じゃないんだろうけど、どうしたって目立ってしまう。

 それでは誰が人攫いか一目瞭然だから、直接村に入ってくるわけがない。


 なら、この集落に協力者がいる可能性が高い。

 直接じゃなくても、物資の補給とか情報の伝達とか、やっている奴がいないと成立しないのだ。

 容疑者はもういて、後は現場を押さえて捕まえて、拠点を制圧するだけ、と。

 高レベルの数印持ちの冒険者が相手でも、ラフルなら勝てる。


「それまでの間だけ守ればいいんだ」

「相変わらず察しが良くてー、説明の手間が省けて助かるよー」


 そうと決まったらゆっくりはしていられない。

 最低限の準備を整えたらすぐに精霊族の村の近くまで行こう。

 僕なら急げば数時間で行ける距離だ。


「クロエはここで待って――」

「そうじゃない」


 僕の台詞を遮るクロエ。


「わたしも、行く」


 指先は冷たいままで、僕を見る瞳は揺れている。

 彼女の生い立ちを考えると関わらない方がいい。

 どういう結果になったとしても、気持ちのいい終わりになるとは思えないんだ


 けど、僕の手を握る力は強くて、固い決意を感じられた。


「わかった。でも、無理はしないでね」

「そう」


 正解はわからない。

 だから、何かが起きた時は僕がクロエを守ろう。

 それだけ心に決めて僕は頷くのだった。

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