87 けど、いいよ。僕たちは僕たちで調べて、知りたい
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「えー? マジであの化け物に一発入れたのー?」
「いや、正確にはもう少しで入れられそうになったら、魔王様に反撃されて相殺されたんだけどね。魔王様の反則負け、みたいな?」
待て、ラフル。
引くんじゃない。
自分の料理を持って他の席に行こうとするな。
「クロエもサラダに夢中になってないで、こいつを止めるの手伝ってよ」
宿屋、兼、食事処に着いてからずっとサラダを無心に食べているクロエ。
ラフルとの再会にも全くいつも通りで、コミュニケーションが良くなってもラフルだけは例外なんだよなあ。
「そうじゃない」
「え?」
「アクタの料理の方がおいしい」
「うん。その評価は嬉しいけどお店の人に聞こえたら気まずいからね? それから今の主題はそっちじゃないから!」
問答している間にもどっか行こうとするラフルの袖をつかまえれば、諦めたように席について酒杯をグイっと傾ける。
完全に自棄になったおっさんがそこにいた。
しかも酒乱。
「いやいやいやー、だって、魔王様だよー? 正真正銘の化け物だよー? あれに一撃返させるってー、そりゃあもう自分と戦える相手って認識されたんだろー? ないないない。あり得ないわー。っていうか、今の話からしたらこの前の光と地揺れってお前らが原因なんじゃんー」
人間の集落で一ヶ月ぶりに再会したラフルと食事しながらそれぞれ情報共有していたら、これだ。
「そんなのもう俺より強いじゃんー。五年でひっくり返されるとかー、やってられないじゃんよー」
「うわあ」
今度はこっちが引く番だった。
傍若無人に見えて大人な魔王様と比べて、こっちの大人はあまりにも大人げない。
世話していた子供の成長を素直に喜べないのか。
「まー、いっかー。もうだいぶ前からわかってたしねー」
と思えば、あっさりと切り替える。
さすがに冗談だったのだろう。
……冗談なんだよな? 信じていいんだよな?
近くを通った店員さんに二杯目を注文したラフルは真剣な顔つきになった。
「で、二人はこれからどうするつもりー?」
「それはさっきも言った通り」
もう一度繰り返そうとしたところでラフルが手を上げて制してくる。
「うんうんー。覇王を調べるってのは聞いたー。いいねー。それは本当にいい事だと俺も思うよー。全面的に協力するよー」
森の外に出ようとしているのに、思ったよりラフルの反応がいい。
というか、かなり乗り気だ。
あんまりやる気のないラフルがこんな事を言うと。
「逆に怪しい」
「酷いなー。ま、仕方ないかもだけどねー。でも、覇王の事は本当だよ」
いつになく真面目な様子だった。
ますます怪しいと思ってしまう辺り、僕らの信頼関係はどこか間違っているのかもしれないけど、残念ながら五年で積み上げたものがこれなのだ。
「どうして?」
「んー。ま、そろそろ話してもいっかー」
少しだけ考えてからラフルが姿勢を正して、机の上に身を乗り出してきた。
周りに聞かせたくないのだと察して僕も頭を寄せる。
クロエは相変わらずサラダを食べているけど、いっか。
「俺が教会に追われているのはな。覇王――いや、聖王ゼフの真実を知って、離反したからなんだ」
ラフルがゼフの真実を知っている?
そんなの五年で一度も聞いた事がない。
けど、今の一言だけでもラフルがゼフについて詳しいというのは想像できる。
少なくとも覇王と聖王が同一人物で、それがゼフを指す言葉だと知っているのだから。
僕はニールの記憶で見た光景について、ラフルにもクロエにも話していない。
「教会の連中は数印が神から与えられたと触れ回っている。だが、本当は違う。聖王ゼフが作り出し、広めたんだ。それを奴らの神の手柄に挿げ替えて、ゼフを覇王なんて戦い狂いに貶めて、あまつさえ、信仰から得られる利権をわがものにしている。聖職者が聞いて呆れるぜ」
ラフルの強い口調。
以前から教会に対して強い憤りを持っているのは知っていたけど、それが原因だったのか。
「だから、お前らがゼフを知るというのは俺にとってもいい事なんだ。だから、協力するぞ。なんだったら、俺の知る限り全てを話してもいい」
ラフルは出奔するまで教会の総本山でもある聖都にいたらしい。
クラリスとの会話からもかなり優秀だったそうだし、他の人より知っている事は多そうだ。
もしかしたら、僕たちの旅は始まった途端に答えを得られるのかもしれない。
「けど、いいよ。僕たちは僕たちで調べて、知りたい」
与えられるままじゃ子供のままだ。
どの道、聞いたところで裏付けを取らないといけないんだし、それなら最初は第三者からの話を聞きたい。
ラフルの話を聞くのはそれからでもいいはずだ。
「そっかー。成長したんだねー」
背もたれに体を預けて座りなおしたラフルはいつも通りだった。
ちょうどやってきた店員さんから新しいお酒をもらって、嬉しそうに飲んでいる。
「ラフルはどうする?」
言外にお前を心から信頼できないといったようなものだ。
気を悪くされても仕方ない。
けど、僕の懸念に反してラフルは普通に考え込む。
「んー。世間知らず二人だけで行かせるのは正直怖いから付いていきたいなー」
それは、言い返せない。
僕が知っているのは辺境の開拓村と魔王城だけ。
クロエに至ってはもっと狭い。
二人で外に出て、やって行けるのか不安はある。
前世の知識もあやふやだし、あんまり頼りにならないんだよなあ。
その辺り、ラフルはかなり心強そうだ。
頼らないといっておいて恥ずかしいけど、来てくれるなら助かる。
「けどなー。ちょっと用事があるんだー。協力するって言っといて悪いんだけどさー」
難色を示すラフル。
まあ、そうだろう。
元々、魔王城に拉致られて長くなったのもあり、こうして人間の集落に来たのはラフルの予定あってこそだ。
僕たちについてきたらやりたかった事もできなくなってしまう。
「だからー、案内人を紹介するよー。ちょっと癖が強い奴だけどー、金さえ積めばいい奴だからさー」
それ、金の切れ目が縁の切れ目ですよね?
いや、仕事を依頼するんだから当たり前の事か。
労働には報酬を。
「魔王城のお金で支払いは?」
「いけるいけるー。森の中なら通用するから、それー」
なら、大丈夫だ。
ドミトル一家に巻き上げられもしたけど、五年で魔獣を倒しまくってできた貯金はまだまだある。
「クロエ、いいかな? もちろん、会ってからダメだって思ったら断るから」
「そう」
食べながらも話は聞いていたらしい。
すぐに頷いてくれた。
それにしてもクロエはお腹が減っていたのか、ずっと食べているな。
一回一回の量が少ないせいであんまり減っていないようだけど。
「じゃあ、頼む」
「おー、連絡とるから三日ぐらい待ってくれなー」
さて、その間にどこに向かうか考えないとな。
聖都にいきなり行くのは危険だろう。
一番ゼフの記録が残っていそうだけど、ゼフの真実に一番警戒しているのもそこだ。
世間知らず二人が突っ込むには危険すぎる。
となると、王都だろうか。
村や町を回りながら外の常識を学んで、馴染んだところで王都に行くというなら良さそうな気がする。
その辺り、案内人と相談してみるのもよさそうだ。
人となりがわかれば採用の有無が決められるだろう。
「ところでさー、待っている間に仕事を頼まれてくれないー?」
行き先を考えていたら、ラフルがそんな事を言ってきた。




