表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロのアクタ  作者: いくさや
第三章 故郷
86/154

81 武御雷尊

 81


融けに解けトケニトケ

 流転する雪ルテンスルユキ

 凍て結ぶイテムスブ

 埋め蠢くはウメウゴメクハ

 灰雪の園ハイユキノソノ


 出し惜しみはない。

 僕は早々に唱歌を詠唱する。


「謳う氷河」


 五崩・顎で吹っ飛んでしまった雪が再び降り始める。

 魔王様にデバフ効果がどれだけあるかはわからなくても、ほんの少しでも削れる部分は削っていく所存だ。


「風情のある詩は良いが、何度も聞けば飽きもするぞ?」

氷の枝コオリノシ

 降る白雪にフルシラユキニ

 首折るコウベオル

 大樹の陰タイジュノカゲ

 咎人眠れトガビトネムレ


 煽ってくる魔王様を無視して更に詠唱を重ね、降雪の隙間を埋めるように冷気を降り注がせる。


「凍原の墓標」


 連続の唱歌。

 大森林の一部は既に冬の情景となっている。

 もちろん、これでも魔王様に届かないのは四年間で実証されていた。


「クロエ」


 名前を呼べば手を握り返してくる。

 指示するまでもなくクロエは口ずさみ始める。


空に雲ソラニクモ

 黒雲遥かコクウンハルカ

 地に焦がれチニコガレ

 地上の星をチジョウノホシヲ

 求めて攫うモトメテサラウ


 クロエの唱歌。

 二人が考えて生み出したオリジナルの魔法。


 どこからともなく吹き込んできた旋風が、徐々に徐々に風速を増していき、渦巻きのようにうねり出す。

 それはすぐに竜巻へと成長し、辺り一面を強風で支配した。


「貪る天嵐」


 暴風。

 轟々と音を立てる風は凶悪の一言に尽きた。

 雪を巻き上げ、空へと還していく有様は異常でありながら、見る者を魅了する魔性も宿している。


「なるほどのぅ。唱歌を三つとは剛毅よ! ふはは! 派手で実に結構! まさに冬の嵐! 極上の吹雪である!」


 冬の嵐の中でも魔王様の声は普通に届くの、どうなっているんだか。

 ともあれ、この中ではさすがの魔王様でも高速移動はできないだろう。

 いや、普通なら身動きできないどころか、数秒と持たずに風に混じった氷片でズタズタに引き裂かれているはずなんだけど、その辺りは魔王様に期待できない。


 だから、当然僕らは本命を用意している。

 この四年間の集大成。

 正直、これで届かなかったら手詰まりだとさえ思っている。


「ダメだったら、一から出直しかな」

「そう。でも、大丈夫」


 思わず零れた弱音にクロエは即答してくる。

 絶対に届くから大丈夫という意味か、一からやり直しになっても付き合うから大丈夫と言う意味か。

 そんな事を聞くのは、無粋って奴なんだろうな。


 だから、試して結果で示そう。

 吹雪が届かない空白地帯。

 魔王様の位置はここだ。


「クロエ」

「そう」


 クロエの胸元で『親愛』の聖印が光り出す。

 服の下から青い光が浮かび上がって、それだけでクロエが聖印を使いこなせるようになったのがわかった。


 僕はと言えば、まだまだだ。

 二種四個の聖印で、まともに使えると言えそうなのは『水氷』と『浄化』ぐらいで、残りの二つは最低限の発動だけ。

 今後の成長に期待だ。


 今はできる事をやる。


「四刀」


 四指を揃えた左手。

 掲げた切っ先が天を衝く。

 巨大な刃はきっと遠く離れた場所からも見えるだろうか。

 真っ赤な魔力で生み出された一刀は禍々しい。


「魔王様、覚悟」

「ふはは。意気は良いがまさに片手落ちよ。手が塞がっては先のような大技が出せぬではないか?」


 吹雪の中でも見えるのか。

 指摘された通り、僕の右手はクロエで埋まっている。

 これでは五崩・顎のような同時発動は使えない。

 言葉通りの片手落ちと思われるのも無理はない。

 なるほど、この四刀でも待ち構える魔王様は受け止めてしまうのだろう。


 このままならね。


「片手落ち? 僕の右手は傍にいるよ」


 僅かに目を伏せ、集中していたクロエが新たな詩を口ずさむ。

 かつて己の全力を絞り出した時の調べを僅かに変えて。


空に雪ソラニユキ

 雪に雹ユキニヒョウ

 雹に雷ヒョウニイカヅチ

 黒雲運ぶ嵐の芽コクウンハコブアラシノメ


 三十一音に術者のイメージを込めて放つのが唱歌。

 それが人の限界だとラフルは言っていた。


雪に霞む目ユキニカスムメ

 風に散る礫カゼニチルツブテ

 淀む景色をヨドムケシキヲ

 穿つ霹靂ウガツヘキレキ


 でも、僕とクロエは四年前にその頸木を取り払っている。

 何故かと問われれば、魔力が足りてしまったからだろう。


万雷はなくバンライハナク

 雷霆はなくライテイハナク

 合切束ねるガッサイタバネル

 武神の一刀ブシンノイットウ


 当時の僕の魔力が約三百六十九万。

 そして、今の僕の魔力総量は。


「もう五千万を超えている」

霹靂神ハタタガミ!」


 雪降らす黒雲から雷鳴が轟き、閃光が大森林から影を払った。

 一瞬の間、吹雪さえも晴れた隙間で見えた魔王様は獰猛な笑みを浮かべている。

 左の閉じた扇を頭上にして受け止める構え。

 ああ。こうして魔王様に構えを取らせたのも初めてだ。


 けど、足りない。

 これでは止められる。

 だから。


 まさに落雷となって降り注ごうとする瞬間に合わせて僕は唱える。

 右手から伝わるクロエの『親愛』と想いを重ねて、詩を繋げる。


継ぐ刀ツグカタナ

 其の刃ソノヤイバ

 ナヅケテ


 轟雷と合わせ四刀を振り下ろした。


武御雷尊タケミカヅチノミコト!!」


 雷光を纏い、赤黒く光る一刀を、魔王様に向けて。


 極度の集中でコマ送りのようになる視界。

 魔王様は牙を剥き、両手で扇を支え、背から真紅の円環を浮かび上がらせ――そして、閃光と雷音が世界を塗りつぶした。


 光と音の炸裂。


 反動は想定を超えていて、覚悟していた僕らでもこらえきれない程だった。

 地面が砕け、爆風が突き抜け、更地の果てまで押し流されてしまう。

 転げまわるような無様は晒さなかったけど、状況がまるで把握できない。


「っつう――くそ。どうなった?」


 眩しい。

 あまりの光に目が塞がれてしまって見えない。

 耳も大音量のせいでぐわんぐわんと鳴っている。

 立ち上がるのもやっとの中、右手のクロエの手の感触だけが確かだ。


 身体強化の回復を待っている時間が惜しい。

 慌てる気持ちを宥めて、『浄化』で僕とクロエの目と耳の不調を回復させる。


 やっと取り戻した視界。

 その真正面には。


「うむ。見事な一撃であったぞ。アクタとクロエよ」


 腕組みして呵々と笑う魔王様がいた。

 あの嵐と雷と斬撃の痕跡はまるで見当たらない。

 傷どころか、髪の一本さえ焦げていないなんて……。


 四年の集大成が無為に終わったのかと、明日からの攻略に意識が向かいそうになったところで目に映ったのは。


「アクタ、あれ」

「ああ」


 魔王様の足元に落ちた残骸。

 真っ二つになって、焼け焦げた扇。

 見ている間に塵となって風に流されていく。


「おうよ! 思わず儂も反撃してしもうた! ふはははは! アクタよ、己の啖呵を見事に叶えおったな! 褒めて遣わそう!」


 魔王様が思わず反撃したくなる程の一撃。


 武御雷尊。

 四刀と唱歌の合わせ技。

 それと魔王様の反撃が激突した結果、僕らの想定を超えた反動が起きたのか。


 そうか。

 できたのか。

 僕らは、届いたんだ。


 なかなか実感が湧いてこないけど、頭が理解を進めていくにつれて、僕はクロエと見つめ合った。


「やったーーーーーーーっ!」

「うん! そう!」


 この日、僕たちは魔王様からの課題を達成したのだった。


 挑戦から四年と半年。

 僕が記憶を取り戻してから五年。


 ようやく零印の謎へ一歩踏み出すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なんか恐ろしいことになってるけど、これから先にはこれが必要ってことか・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ