80 それで僕らが喜ぶとでも?
時間も経って、今日から新章です。
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「いかんのぅ。ちと、刺激がたりんぞ、アクタよ」
大き目な切り株に座り、足を組んだ魔王様。
さすがは千年生きているだけあって四年ぐらいではまるで衰えていない。
容姿も、実力も、けた外れのまま。
この四年間、一日たりとも欠かさずにやってきては、完全勝利を重ねているんだからぐうの音も出ない。
「見晴らしをよくするのが目的ではなかろぅ?」
辺りは更地だ。
さっきまで大森林の一部だったけど、すっかり木々は地面ごと吹っ飛んでしまって、所々に残骸が残っているだけだった。
僕と魔王様。
クロエと魔王様。
この一年は共闘ではなく、それぞれで挑むようにしている。
それぞれの連戦の余波でこうなってしまったのだけど、これも珍しい光景じゃない。
というか、魔王城の周辺の森にはこんな跡地がたくさんある。
これも四年の成果と言っていいのだろうか?
僕らの挑戦の跡地は危険地帯と認識されるのか、魔獣もなかなか立ち寄らない土地になる。
一種のマーキングになるのかもしれない。
ドミトル氏は街の魔獣被害が激減して喜んでいたけど。
というか、次はここでやってくれとか指定してくる。
おかげで、僕らの挑戦の跡地は街と集落を結ぶ街道になろうとしていた。
便利に使われているなあ、僕ら。
「それだけちんちくりんじゃったお主の手足も背も伸びたんじゃ。実力の方も伸びていると見せつけてもらえんかのぅ」
「こ、の……」
本日の一戦目。
早々に僕は魔王様に弾き返されて地面に転がっていた。
さんざん言われっぱなしの僕も、ここまで露骨に挑発されては発奮しないわけにはいかない。
ぶっ倒れたままから勢いをつけて立ち上がった。
「この理不尽の塊が! 目にもの見せてやる!」
「よしよし。それでよい。愛いままのお主も好いが、男の意地を見せるお主の方が儂の好みよ」
余裕でしゃべる魔王様へ突貫。
身体強化のおかげで数十メートルの距離も一瞬だ。
けど、その一瞬の間にも左手から一指を放つ。
「ほい、ほい」
「どういう仕組みなんですかねえ、それ!?」
扇で一指が弾かれるのと同時に、右の四刀を叩き込んだはずだけど、何故か魔王様の扇が僕の四刀を受け止めている。
ちなみに、機会があって触らせてもらったんだけど、この扇はただの紙と木で出来ていた。
物理法則とかどうなってるんだよ、この人。
「ふはは。魔王の手に掛かれば箸も槍に勝るに決まっておろう?」
「決まってねえから!」
理屈じゃないらしい。
まあ、そんなのはいつもの事だ。
「ほれほれほれ。これでは今までと変わらんぞ? 技は練られて研ぎ澄まされておるが、それだけで魔王には届かんぞ? 何か秘策があるんじゃろ? ほうれ、意地悪せんで儂に見せておくれ? 出し惜しみばかりしておると、儂も辛抱できずに食ってしまうかもしれんぞ?」
直感で見透かすからなあ、この人!
あと舌なめずりが怖すぎる!
いいさ。
不意打ちなんて意味がないのはわかっているし、元々しかけるつもりだったんだ。
やってやるさ。
「五崩!」
右の四刀で押さえつけている間に、左の五崩を放てば逃げ場はない。
地面から空を引き裂いた爪痕。
その余波で辺りを土煙で覆う。
もちろん、こんなものであの魔王様に一撃入るはずがない。
「融けに解け
流転する雪
凍て結ぶ
埋め蠢くは
灰雪の園」
詠唱から間を置かずに唱歌発動。
「謳う氷河!」
舞い上がった塵が雪となって降り注ぐ。
本来ならデバフのための雪だけど、それだけじゃない。
術者の僕には雪に付着した何かが伝わるのだ。
「そこ!」
いつの間にかすぐ背後に気配もなく立っていた魔王様。
けど、それも残像で、本体はその更に三歩奥。
僕は右足を地面に突き立て。
「一指!」
足先から一指を放ち、地面を巻き上げる。
跳ね上がった雪が魔王様の足元にまとわりつく。
一瞬で引きはがされるとしても、その一瞬の間に左足の下へ。
「三甲!」
足場を展開。
僕の全力での踏み込みはもう常人では姿を捉えられないぐらい速くなったけど、足場が崩れて全速力は出せないという欠点。
これならそれを補える。
魔王様のような衝撃や反動さえなくす瞬間移動はできなくても、速度だけなら負けていないはずだ。
僕は五指を『左右同時』に突き出した。
「五崩・顎」
爪ではなく牙。
上下から挟み込む、近接遠隔同時攻撃。
土煙も、雪も、何もかもを飲み込んでいく。
魔王様でも避けられるはずがなく。
「いいのぅ、いいのぅ。実に、実に、良い。儂に左手を使わせよったぞ!」
魔王様が僕の右手を左手で掴み、左手を右手の扇で押さえていた。
両手での同時発動は初見だというのに、完璧に防ぐとか理不尽すぎる。
それでも四年で魔王様が両手を使ったのは初めてだ。
成果だ。
成長の結果だ。
僕たちは強くなった。
魔王様も我が事のように喜んでいる。
「それで僕らが喜ぶとでも?」
「そう」
「お?」
僕が押さえつけている間に回り込んだクロエが蹴りつける。
両手を塞がれている魔王様は防げるわけもなく。
「ほうれ。こんな手も――いや、尾もあるぞい?」
ふさふさの尻尾で受け止めていた。
自前の魔力で強化しただけのクロエだけど、鉄の城門を蹴り破れるぐらいの威力があるんだけどなあ!?
あんなふさふさした毛並みでどうやったら防げるんだよ。
「おおう! 今日は二人がかりか? よいぞ、よい! 主らは番ぞ。連れ合いぞ。別れて挑むも楽しかったが、やはり手を携えてこそよ!」
番とか、連れ合いとか、思春期の人に言うなよ。
ほら、すっかり子供から大人に近づいたクロエさん、顔を真っ赤にしちゃうからさあ。
魔王様としては隙を作ろうとしたわけじゃないんだろうけど、クロエが動揺している間に尻尾で蹴りをいなして、僕らの間を抜けるようにして離脱していった。
「ううむ。その様子ではまだまぐわっておらぬのか? アクタ、お主もしや……立たぬのか」
「不能じゃねえから!」
とんだ疑いをかけるんじゃない!
だから、クロエさんも『そうだったの?』みたいな目で僕を見ないで!
変な空気になりかけるのを振り払うように右手をクロエに差し出す。
「ほら! クロエ、やるよ!」
「……やる?」
恥ずかしそうに上目遣いしない!
僕の心臓を止める気か!
「そうじゃなくて!」
「うん。わかってる」
クロエは少しだけ笑って、僕の手を握りしめる。
冗談、だった?
大人に近づいて、美少女というよりは美人と呼ぶべきになったクロエ。
前のようにべったりくっつきっぱなしではなくなって、他の人ともコミュニケーションを取れるようになって、少し僕との距離の置き場に迷う時もあるけど。
それでも僕の右手を握る時だけは変わらない。
お互いの指を絡めるようにしっかりと握りしめていた。
「今日こそ魔王様に一撃いれるよ」
「そう」
さあ、ここからが本番だ。




