表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロのアクタ  作者: いくさや
第二章 魔王
72/154

閑話 クロエの戦い

 閑話 クロエの戦い


「来たのはこっちかー。意外だー」

「そう」


 森の中、追いついたラフルが呟く。

 わたしが来るとは思ってなかったみたい。


「少年はどうなのー?」

「へいき。アクタは、強い」


 あれからずっとアクタの魔力で身体強化を続けた。

 強化していると怪我の治りが早くなる。

 早くなると疲れたりお腹がすいたりするけど、それも魔力でどうにかした。

 アクタのすっごい魔力のおかげでできた。

 アクタの友達も驚いていたけど、うまくできて良かった。


「それは上々。まー、あれで退場する奴じゃないと信じていたよー」

「そう」

「でも、看病してたら良かったのにー。こんな所まで来るとは思わなかったー」


 嘘つき。

 リィンを追ったラフルは、森の木に傷をつけたりして目印を残していた。

 わたしか、アクタが追いかけてくるって思っていた。


 目印を追って走ってついたのは森の広場。

 この前、アクタが腐竜と戦った場所だった。

 広場の真ん中、月の明かりの下で一人うずくまって泣いているリィンを、遠くから見ていた。


 今すぐリィンのところに行きたい。

 でも、ラフルが手を広げて通してくれない。


「何しに来たのー? ここは俺に任せなよー」


 来なくてもいいのに、そんなふうに言いたそう。

 けど、わたしは首を振る。


「そうじゃない」

「俺に任せられないって?」

「そう」


 ラフルはリィンを殺そうとしている。

 リィンの中にいる奴と一緒に。

 そんなのはダメ。


「リィンを助けたい」

「へえ」


 もう一回ラフルがわたしを見る。

 びっくりしている顔。


「そうかー。良くも悪くもこの子にとっては意味のある出会いになったかー」

「そう」


 けど、驚いていたのも少しだけ。

 ラフルはすぐに冷たい目でわたしとリィンを交互に見る。


「けどー、助けるなんて無理だよー。あの子はもう『浄化』の一部だからー、切り離すなんて無理ー」


 ラフルは色々と知っているみたい。

 アクタが言った通りだ。


「教えて。リィンは、どうなってるの?」

「あれは悪霊憑きだよー」


 知らない言葉。

 でも、なんとなく意味はわかる。

 リィンの中に悪霊っていうのが入ってしまって、悪い事をしようとしているんだ。


「聖印?」

「そ。『浄化』……魂の漂白を操るって事はさー。浄化するもしないも選べるってわけでしょー? それで、あれは自分が消えるのを嫌がってー、死んでも残り続けてー、聖印にこびりついたカビって事ー」


 魂とか、漂白とか、カビとか。

 難しい話はわからない。

 でも、ラフルが『浄化』の聖印のやつをすごい嫌ってるのはわかった。


「知ってるの?」

「なんかー、今日はよくしゃべるねー。無口はやめたんだー」

「そう」


 教えてくれないみたい。

 それならそれでいい。

 わたしはわたしのやりたい事をするから。


 ラフルの腕の下を潜って抜ける。

 止めようと思えば止められたはずのラフルは、手を伸ばしては来なかった。


「リィン」

「お姉ちゃん……」


 しゃべれるようになったのは良かった。

 嬉しい、はずなのに、今は悲しい。


「おっと、獲物の方から来てくれるとはありがたいねえ。そっちの陰険なおっさんと違って活きもよさそうだ」「お姉ちゃん、ダメ! 来ないで!」


 影が広がる。

 夜よりも黒い影。

 広場をすぐに埋め尽くして、わたしに向かってくる。


「風幕」


 体の周りに風を流して、影が触れたらそっちに向けて風を吹かせて、わたしの体を遠くに押してくれる。

 そうしたら影に捕まらない。

 ふわり、ふわりと影から逃げていく。


 影は鋭いし、硬い。

 どんな魔法でも止められないし、貫けない。

 ラフルの魔法が、アクタの四刀が見せて教えてくれた。


「ちょこまかと、鬱陶しい!」「ダメ! 危ないよ!」


 嫌な/助けたい声。

 影がどんどん増えていく。

 避けていく場所がなくなっていく。

 もう広場は影絵の森みたいになって、不気味だった。


 影が一番怖いところ。

 鋭い事。

 固い事。

 それも怖いけど、一番は広い事。


 弱点はふたつ。

 広がるまで時間が掛かる事。

 だから、針の攻撃を最初からやってこなかった。

 なら、戦いの初めにいきなり襲いかかれば倒せるかもしれない。

 きっとラフルはそうしようとして、機会を待っていた。

 今もそうしている。


 でも、わたしはそうしない。

 そっちじゃ、リィンを助けられないから。


「影、攻撃と防御。一緒にできない。そうでしょ?」

「だから、どうした!? 攻撃力が! 防御力が! 手数が! 間合いが! どれもが違うんだよ! ざぁこ!」「ダメ! やめて! お姉ちゃんにひどいことしたくない!」


 どんどん攻撃が増えていく。

 どんどん逃げ場がなくなっていく。

 魔力も減っていくばかりで、アクタの手を握っていないからなくなってしまう。


 でも、避ける。

 避けられる。

 風の魔法で感じ取らなくてもわかる。

 左胸の聖印が服の下で輝いて、広場をうっすらと青く照らし始めていた。


 だって、わたしとリィンが『親愛』で繋がっているから。

 影がどう向かってくるか、来る前から感じられる。


「そう。わかる」


 リィンの首の右と左。

 聖印は一人ひとつで、『浄化』が悪い奴なら、『虚空』はリィンのもの。

 操られていても、力を持っているのはリィン。

 なら、リィンには影の動きがわかるし、わたしに教えてくれる。


「ったく! 忌々しいガキどもが! 餌の分際で獲物とじゃれ合ってんじゃねえよ! てめえが生きていられるのは誰のおかげかわかってんのか!?」「そんなの頼んでない! リィンは家族と一緒がよかった! お姉ちゃんとお兄ちゃんと一緒がよかった!」


 怒鳴り/言い返す声がぶつかって、影が止まった。


 今の間に休む。

 息が苦しい。

 疲れてきたし、魔力も減ってきた。

 あまり長い間は続けられないかもしれない。


 リィンまで遠い。

 離されないようにしていたけど、近づくのも無理みたい。


「あー、いいか。綺麗に残そうとか考えたのが馬鹿だったわ。どうせ本命の獲物は別にいてさ。そっちは瀕死なんだろ? 聞こえてたぜ、てめえらの声もさ。あっちのオスのガキの魔力。あれがあれば十分だ。あれだけあれば百年は続けていられる。だからさ、てめえはもういらねえよ、メスガキ」「お姉ちゃん、逃げて! これ、ダメ!」


 悪い方が話している間。

 ちょっとずつ影は広がっていった。

 広場を超えて、森にまで届いてしまって、今から逃げても逃げきれないぐらい。


「死ね」「だめええええええええええええええええええええええええっ!!」


 死刑宣告/止める声。

 同時に地面から影の針が飛び出してくる。

 アクタでも止めるのが精一杯で、大怪我をしてしまった攻撃。


 わたしは空に向かって跳ぶ。

 すぐに落ちそうになるけど、そのたびに足元に空気の床を無詠唱で作って、そこを蹴って空に向かって、高く高く跳び続ける。


「いつまで続けられる? 魔力が減ってるぞ? さあ、落ちてグチャグチャになっちまえよおおおおおおお!」「お姉ちゃんを助けて! 誰か!」


 そう。

 こんなの長くできない。

 空を跳ぶなんて狼の女の人ぐらい。

 あとちょっとだけ頑張ったら、きっと終わる。


 でも、その前に。


「水霧」


 薄い霧が影の間に広がっていった。

 森の中、逃げながらラフルが霧の魔法を使ったんだ。


「ばあああああああああああかっ!! わかってんだよ、そんなことさあっ! 攻撃なんて通らないようにしてんに決まってんだろ!?」「寒いけど、ダメ、止まらない。止められないの!」


 影の針はあまりにも多くて、ラフルは他の魔法をリィンにまで届かせられなかったみたい。

 霧なら届いたみたいだけど、届いただけじゃ意味がない。


「そう」


 魔力がなくなりそう。

 空気の床が作れなくなる。

 踏んだ場所が薄くなって、踏み抜いてしまって、体が沈む。


 影の針がすぐそばまで伸びている。


「はははははははは! 殺して奪って食って生きる! 死んでたまるか! 消えてたまるか! 永遠に生きて生きて生き抜いてやるんだ!」「だめ、だめ、だめだめだめだめええええええええっ! 助けてよ。お姉ちゃんを助けてよ、お兄ちゃん!」


 霧の中、愉快そうな/悲痛そうな声が響いて。


「ああ。任せろ」


 世界で一番大好きで、頼りになる人の声がした。

67話でラフルの魔法属性を間違えておりました。修正しましたが、読み直さなくても話は変わっておりません。失礼しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ