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ゼロのアクタ  作者: いくさや
第二章 魔王
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61 リィンってどう?

 61


「あ」


 お店を出たところで女中さんたちとは別れた。

 さすがにお仕事を抜け出すのも限界らしい。

 疲れたけど楽しかったと笑顔で帰っていった。


 僕らはお昼ご飯を食べようと広場に向かい、たくさん出ている屋台を適当に巡りながら食べ歩きしているところだった。


 片手に肉串を手にしながら、鈴を鳴らしていた白い少女。

 クロエが口周りについたタレを拭いたり世話をしているのを見て思いついた。


「リィンってどう?」


 クロエと少女は首を傾げている。

 ぴったしシンクロしていてちょっと楽しい。


「ほら、あだ名。その子の」


 キョトン顔までそっくりとか狙っているのか。

 黒と白で色合いは全然違うけど、仕草がそっくりだから姉妹みたいに見えるな。


 いや、言い出した僕も忘れかけていたけどさ。


「その子、鈴が気に入ったみたいだし。その音からリィンっていいんじゃない?」


 安直というなかれ。

 あだ名なんてわかりやすすぎるくらいで丁度いい。


「リィン。どう? 嫌じゃない?」

「………」


 少女はニコニコ笑っているだけ。

 うん。わからないからね!


「そう」

「クロエ。わかってないのに頷かない」

「そう……」


 持ちネタみたいになってない?

 クロエなりに少女の心を推し量ろうとしているのかもしれないけど、口数の少ないクロエだとちゃんと伝わらなくなりそうで怖い。


「あー。じゃあ、『はい』なら鈴を一回。『いいえ』なら鈴を二回鳴らして。いい?」


 リン。

 少女は早速、一回鳴らしてから僕を見上げてくる。

 理解が早くて助かる。


「君の事を『リィン』って呼んでもいいかな?」


 リン。

 いいみたいだ。


「よし。これから君をリィンって呼ぶね」


 リン。


「お腹、まだ空いてる? 食べたいのがあったら指さして」


 リンリン。


「疲れてない? どこかで座る?」


 リンリン。


「午後もお店を回るつもりだけど、いい?」


 リン。


 便利だな。

 鈴。

 ここまで考えてプレゼントしたわけじゃないけど、コミュニケーションのハードルがグッと下がった感じだ。


「アクタ」


 不意にクロエが僕の手を引く。

 真剣な目をしている。

 その目が見つめるのは少女――リィンだ。

 どうやらクロエもリィンとお話したいらしい。


「そう」


 リン。


「そう?」


 リン。


「そう……」


 リンリン。


「そう!」


 リン!


 だから、通じ合った気にならないでね!?

 いや、それとも本当に意思疎通ができているのか?

 似た者二人にだけわかる何かがあるのかもしれない。


 二人のやり取りを眺めながら食べ歩きしていると、兵士の詰所が見えた。

 前世で言う交番みたいな場所で、多種多様な種族が住む街だからか仲裁役の兵士が待機している。


「あー。クロエ、リィン。僕はちょっと飲み物を買ってくるから、ここで待っていてくれる?」

「そう」

 リン


 何が楽しいのかわからないけど、一言と鈴のやり取りを続けていた二人に言うと、想像通りの返事が返ってきた。

 精霊族から敵視されやすいクロエと、コミュニケーションが難しいリィンだけど、兵士が近くにいるここならトラブルも起きないだろう。


 二人が詰所の前まで行ったのを確認して、僕は人の間をすり抜けて広場の隅っこに向かう。

 飲み物を買うのは後だ。


 さっきから歩いている間についてくる気配があった。

 クロエのような感知はできないけど、僕も周りの魔力を探るのはちょっとぐらいできるようになっている。

 それをわかっている距離感でついてくる人に心当たりがあった。


「ラフル」

「やーっと気づいてくれたなー、少年。ここじゃあんまり意味ないかもだけどー、もう少し普段からー、魔力感知はした方がいいぞー?」


 隠れてついてきたのかと思ったけど、気付いてほしかったらしい。

 ストーカーっぽい行動を悪びれる事無く、腐竜の現場に残っていたはずのラフルは指摘してくる。


「いつ戻ったの?」

「昼前になー。あの腐竜はー、解体するからってー、運んできたよー」


 腐竜、街に着いたのか。

 今は街の外に置かれているだろうから、そのうち街の人の話題にもなるだろう。


「それで、ついて来てたのはどうして?」


 寂しかったから仲間に入れてほしくて見ていた、ってわけじゃないだろう。

 だとしたら、悲しすぎるな。

 肉串でも買ってあげようか。


「少年ー。徹夜で働いていたー、正義の味方に酷いぞー?」

「あ、声に出てた? ごめんごめん」

「わざとっぽいー」


 なんて軽口を叩いている間にラフルは大通りから細い路地に入っていき、段々と人が減っていって周りに誰もいなくなったところで、ようやく足を止めた。


「事件の続報ー、伝えにきたんだー」


 この街から鳥人族の村まで五日。

 様子を見に行った兵士はまだ到着もしていないだろう。

 腐竜の死体から何かわかるかもしれないけど、解体作業も始まったばかりじゃ新事実なんて出てこないはず。


「……何かあった?」

「生き残り、いたんだー」


 生き残り?

 あの場所に?


「いや、それは……」


 腐竜と戦った場所。

 簡単に埋葬までしたんだ。

 あの場所に生きている人なんて一人もいなかったのを僕は知っている。

 なら、見つかったのは別の場所か。


「腐竜に襲われる前にはぐれた人がいた?」

「正解ー。どうやら、村の最後の生き残りみたいだねー。今は城で治療が終わって、休んでいるよー」


 リィンと同郷の人が見つかった。

 どうやら束の間の平穏は終わりのようだ。

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