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ゼロのアクタ  作者: いくさや
第二章 魔王
63/154

60 どうしてこうなった

 60


「アクタ」

「うん?」

「お願い、聞いて」


 部屋に戻って早々にクロエから声を掛けられて、突然のおねだり。

 無自覚に小首を傾げてくるから可愛らしい。

 今は隣の白い少女がマネしているから倍かわいい。

 何をしても愛らしんだから美少女は困る。


「アクタ?」

「あ、ああ。昨日の約束の事だよね。大丈夫。いいよ」


 白い少女の事ばかり考えていたから忘れていたなんて言えない。

 疑う事を知らないクロエは嬉しそうに頷いてくれる。


「そう」

「それでお願いって? お金も手に入ったから何でも買ってあげられると思うよ」


 ルミネルから分割払いの報酬は受け取っている。

 なんでも、普通の人なら三ヶ月は遊んで暮らせる金額だとか。

 膨らんだ革袋はずっしり重い。


「そう」


 頷いたクロエは白い少女を前に出す。

 そして、ボロボロの貫頭衣――たぶん、元はワンピースだっただろう服を摘まみ上げた。

 割と危うい位置まで裾が持ち上がるからやめようね?

 僕がロリコンだったら危険が危ないよ?


「この子、服、買って」


 なんでもいう事を聞く権利をこの子に使うとは。

 今まで僕以外の人に興味も関心もなさそうだったクロエだから、意外にも感じられる。

 でも、根は優しい子なんだから、不思議じゃないのか。


 さっきはどうしてこうなったなんて思ったけど、クロエの心を開くきっかけになったのかもしれない。


 白い少女の身の上を便利に使ってしまうようで申し訳ないけど、誰かが不幸になる話ではない。

 ここは彼女の心を育みつつ、少女の心のケアを一緒に取り組んでいこう。


「了解。じゃあ、街に出かけよう」


 何もなければ出かける予定だったんだ。

 白い少女の保護があるから城にいた方がいいかと考えもしたけど、少女の様子を見るに引きこもっても快方に向かうとは限らない。

 怪我自体は大したことがないようだし、お出かけと行こう。


「その前にこの子の靴とか用意しないとな。女中さんにお願いしよう。君……名前がわからないのは不便だな」


 この子とか、君とか、白い少女とか。

 呼びづらい。


「名前、つけていいのかな?」

「そう」

「いいと思う? うーん。でも、本当の名前を思い出す邪魔になったらいけない気がするんだよね」

「そう」

「よし。じゃあ、あだ名だ。そうだな……白、鳥、女の子……」


 連想ゲームみたいに思い浮かぶのは前世の有名なバレエの曲。

 ただ、あの話って悲恋だったよな。

 そんな名前を付けるのは縁起が悪いだろう。

 いや、前世の物語なんて影響がないのはわかっているけどさ。なんとなく。


「いいのが浮かばないから、考えながら出かけようか。それでいい?」

「そう」

「………」


 クロエが頷いて、白い少女もニコニコと笑う。

 果たして記憶と声を取り戻すのがこの子にとっての幸いなのか。

 僕が決める事ではないとわかっていても考えてしまうな。


 どうしても思い詰めていきそうになる思考を切り替える。


「じゃあ、準備ができたら服屋だ。ついでにご飯も食べて、午後からはお店を見て回ろうか」

「そう」


 さあ、当初の予定とは全然変わってしまったけどお出かけだ。




「かわいい!」

「綺麗な羽根ですね」

「こっちも着てぇ。うん。似合うよぅ。ね?」

「そう」


 どうしてこうなった。

 今日だけで何度も嘆かされる。

 僕はクロエと少女と女中さん三人がお店ではしゃぐのを眺めつつ、溜息を胸中でついていた。


 お店の相談もしていた女中さんたち。

 少女の靴を用意してもらった時にショッピングに行くと言ったら、ついていくと言い出したのだ。

 デートならともかく、少女のコディネートなら手伝う、と。


 正直、僕は自分のセンスに自信がない。

 地雷と呼ばれるほどは酷くないと思うよ。

 でも、僕がプレゼントしたクロエの服もなんだか周囲から浮いている気がする。

 その辺り、女性陣からの意見がいまいち参考にならないんだよなあ。

 クロエはそうとしか言わないし、ベルは文句を言いつつも絶対に手放さないし。

 いいのか悪いのかわからんって。


 じゃあお言葉に甘えてと言った途端にハイテンション。

 僕たちが口を出す間もなくそれぞれに手を引かれて、城下町でも大きなお店に直行。

 それからもう一時間以上も少女を着せ替え人形にしている。


 予算に上限はないなんて言ったのがまずかったのか。

 既に僕が抱えている購入予定の商品は両手に収まらない程になっていた。


「どうしてこうなった」

「そう」


 思わず呟いた言葉にクロエの返事。

 ローテンションながらも着せ替えの輪に入っていたクロエだけど、僕の右手を握りに来ていた。

 定期的に手を握らないと心細くなるみたいだ。


 顔見知りとはいえ女中さん三人とのやり取りはストレスになっているのかな?

 見たところ無理をしている様子はないから大丈夫だと思うけど。


「へいき?」

「そう」


 今の「そう」は大丈夫のやつだな。

 ちょっと強引な展開になったけど、クロエが僕以外の人と交流するきっかけにはなっているようで良かった。

 いきなり改善とはならないだろうけど、少しずつ他の人と接していけるようになってほしいなあ。

 寂しいのは秘密だけどね。


「アクタ?」

「? どうかした?」

「そう。アクタ、さびしい?」


 えー、もしかしてまた声に出してた?

 かなり恥ずかしいんだけど。

 穴があったら飛び込みたいぐらい。


 頭を抱えたいけど、右手はクロエに握られていて、左手は固定されて動かせない。

 赤くなっているだろう顔も隠せなくてノーガードだ。

 どうしてこうなった。


「いや、うん。寂しい。かも? みたいな? 僕の初めての仲間がクロエだからさ。クロエにとっていい事でも、複雑な気持ちがちょっとだけね。あったり、なかったり……なんか言わなくてもいい事をしゃべってない、僕!?」

「そう」


 ちょっとクロエさん。

 ここで優しく微笑むのは反則ですから。


「アクタは特別。わたしの、特別」


 そんでもって殺し文句をぶっ放してくるんだからなあ!

 惚れるわ。そんなん惚れちまうわ。


「………」

「うわあっ!!」


 クロエの微笑みを直視できなくて、視線を逸らせばジッと見上げる白い少女がいた。

 不思議そうに僕たちを見つめている。

 いつから聞いていたんだ、この子。


 見れば女中さんたちは小休憩なのか、ベンチに座ってお話している。


「どうしたの?」

「………」


 少女は僕の服の裾を引っ張るだけ。

 短文しか話さないクロエのおかげで無口な子の言いたい事を察する力は人並み以上と自負している僕だ。

 これまでの流れ、少女の表情、仕草、雰囲気から読み取れるはずだ。


 決して恥ずかしいのを誤魔化そうと話を逸らすわけではない。


「あー。僕にも何か選んでほしい、とか?」


 思い付きを口にすれば少女はこくこくと頷く。

 当たりか。

 考えてみれば女性陣の熱意に押されて、荷物持ちに徹してしまっていた。

 センスに自信はないとはいえ、挑戦もしないのはいけないな。


「うーん」


 けど、既に服はかなりの量を購入予定。

 ここに僕が新しいものを追加しても面白くない。

 なら、服ではなく他で送ろう。


 改めてお店を見てみれば、大きいだけあって服屋と言いながらアクセサリーとか靴とか色々と取り扱っている店だ。

 選択肢は多い。


 僕はたまたま目についた小物を一つ手に取ってみる。


 リィンと澄んだ音が鳴った。


 小さな鈴が付いた、青と銀の糸で編まれた組紐。

 試しに少女の右手に巻いてみれば、ちょうどいい具合だ。

 鈴の音色に目を丸くしていた少女だけど、試しに手を動かしてやれば音が鳴って、目を輝かせる。


 どうやら気に入ったらしい。

 何度も手を振って、リンリンと鈴を鳴らし始める。

 これは勝ったな。


「すみません。これ下さい。あと、これつけていってもいいですか?」

「はーい。毎度ありがとうございまーす」


 大量購入に上機嫌の店員さんが駆け付けてくれる。

 僕が会計をしている間も、少女はずっと鈴を鳴らし続けていた。

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