62 うええええっ!? セクハラ!? モラハラ!? そんな奴だったりするの、これ!?
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「……生き残りかあ」
完徹明けのラフルを城に戻して、僕はクロエとリィンに合流したけど、もう一人の生き残りの事が気になってしまう。
会話はないながらも楽しそうにしている二人から少し距離を空けつつ、ラフルから受け取った第一報の情報を整理する。
やはり、鳥人族の村は竜に襲われたらしい。
急襲してきた竜になすすべなく、一方的に蹂躙された。
壊滅的な被害を受けた村は魔王城への避難を決定。
足止めに多くの大人や老人が残り、僅かな戦える者たちが女子供を守りつつの長距離飛行を敢行したらしい。
けど、竜からは逃げきれなかった。
足止めをあっさりと蹴散らし、空を追ってきた。
それでも誰かが囮になって、時間を稼いで、その間に全員が逃げて、を何度も繰り返した。
結果が、あの場所だった。
時間稼ぎの成果もなく、追いつかれて鳥人族はリィンを残して全滅した、はずだった。
「途中で羽根を怪我したおかげで生き残るなんてなあ」
もう一人の生き残りは囮となって残ったが、竜から逃げ回る中で翼を怪我して墜落したらしい。
着地に失敗して瀕死の重傷を負い気を失ったせいか、気づかれなかったのだろう。
普通ならそのまま他の魔獣に襲われていただろうけど、この辺りの魔獣は何故か極端に減っていたため無事だった。
僕とクロエの魔獣乱獲が思わぬところで役立ったわけだ。
それはいい。
リィンが天涯孤独とならなかった事もいい。
けど、どうしても疑問が残る。
「腐竜が空を飛んで追ってきた?」
僕が奴と接敵した時、既に翼の皮膜はボロボロに破けていた。
空を飛べる状態じゃなかった。
だからこそ、勝てた部分はあるのだけど。
「何があったんだ?」
鳥人族が決死の覚悟で翼を破壊した?
いや、それは難しい。
僕の一指や二爪でも斬れなかった相手だ。
逃げるのに精いっぱいで、ほとんど戦える人がいなかった鳥人族たちがどんなに工夫しても、命を賭けても、届くレベルじゃない。
何者かが腐竜と戦った?
一体、誰が?
腐竜と戦えるというだけでも常人ではない。
そんな人が大森林にいきなり現れて、腐竜の翼だけを破壊して、何も言わずに去っていった?
「なんだそれ。そっちの方があり得ない」
魔王様が手助けしてくれた?
うん。実力的には余裕だね。
余裕過ぎて手助けどころか、討伐までしてしまうけどね。
というわけで、あの理不尽が裏で動いているわけではない。
広い大森林。
僕も知らない実力者が潜んでいてもおかしくはないのかもしれないけど……。
「やっぱり、変だよな」
ガシガシと頭を掻いて、溜息をもらす。
そもそも、奇妙なのはリィンが生き残った事もなのだ。
いや、これは本当に幸いな事だから、彼女の無事を呪うわけではない。
ないのだけど、状況的に不自然なのも無視できない。
だって、腐竜は鳥人族を執拗に追いかけて殺していたのだ。
なのに、逃げ延びようとした人たちを全滅させた腐竜は、何故かリィンが逃げた先にまでは追跡してこないで、僕が現場に近づくまで森に潜んでいた。
「おかしいだろ、これ」
もう一人と違ってリィンは普通に動けていたのだ。
これまでの流れを考えれば、腐竜は追ってきたはずなのに……。
クロエと楽し気に鈴を鳴らして笑っているリィン。
彼女に何かあるのだろうか?
「ああ、もう!」
完徹までして情報を届けてくれたラフルには申し訳ないけど、状況が更にややこしくなった気がする。
「アクタ?」
離れていても僕の様子がおかしいのがわかってしまったのか、クロエとリィンが手を繋いだまま足を止めていた。
危うく二人にぶつかりそうになっていたのに気付いて慌てる。
「なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ」
「そう?」
リンリン。
おっと、誤魔化したのがバレたらしい。
二人とも疑わしそうに、でも、心配そうに僕を見つめてくる。
保護者的な立ち位置の僕が心配されてしまっては情けない。
「ごめんごめん。さっきラフルが徹夜で無理して深刻な顔していたからさ。心配だったんだよ」
「そう……」
リン。
嘘はついていない。
だいたい、ラフルが悪いと僕は思っているからね。
今頃は城の部屋で布団にダイブしているだろう正義の味方に、心の中で謝りつつ話を逸らす。
「それで、二人してどうしたの? 何か気になるものでもあった?」
食後のウィンドウショッピング(窓なんてないけど)をしていた二人に尋ねる。
物欲が薄いのか、おねだりしてこない二人が何に興味を持ったのか気になった。
大分街の外まで来ているせいか、人通りも減ってきて、この辺りの店に目立つ売り物はなさそうだけど……。
二人が視線を向けた先は街の外。
僕らが半年で開拓した場所だった。
そこは家畜用の牧場で、ここからでも柵に入れられた羊たちが見える。
「羊が気になるの?」
果たして、食欲的な興味か、モフモフ的な興味か。
「あれ、なに?」
それ以前に牧場を知らない、だと?
考えてみれば牧場っていうのはなかなか高度な文化で、森と共生するように生きる精霊族や鳥人族にはない発想ともいえる。
二人とも生活圏と知識が偏っているから知らないのは無理ないのかもしれない。
けどさあ。
「クロエはあれ毎日見てるよね?」
クロエ、君は開拓の一員なんだから見ていたよね?
わからないなら、なんで聞かないかな?
言外にそんな思いを込めつつ尋ねれば、クロエはプイッとそっぽを向いてしまう。
これは誤魔化そうとしている。
向こうが僕の誤魔化しに気付けるんだから、逆もまた然り。
僕は溜息をこぼしつつ、クロエのほっぺを挟んで正面を向かせた。
「興味なかったから聞かなかった? それでリィンに聞かれて困った? じゃあ、これからはもうちょっと周りに興味を持とうね?」
「そう……する」
反省しているならいいよ。
関心が僕にしか向かっていなかったのを矯正する機会になったんだから、望ましい心境の変化ともいえる。
これ以上は叱らない。
好奇心を満たしてあげれば、次に繋がるのかもしれないのだから拗ねさせてはいけないからね。
「あれは牧場だよ。羊とか、ここからは見えないけど、馬とか牛とか、動物を育てているんだ」
小さな子供に牧場を説明するのはちょっと難しいな。
ここでなんで? と聞かれたら食育の話に繋がってしまう。
幸い、クロエもリィンも牧場の意義よりも、動物そのものに興味があるらしい。
目の良い二人は羊一匹一匹がわかるのか、指さしながら話し始めた。
「ふかふか」
リン。
「もふもふ」
リン。
「ごわごわ」
リン。
「ふわふわ」
リンリン。
おっと?
最後に否定が入ったぞ。
クロエも意外だったのか、リィンを振り返ればかわいらしいほっぺたを膨らませた少女がいた。
リィンは背伸びするみたいに胸を張って、首を反らせている。
おかげで目立つのは首元の羽毛。
え?
何が言いたいの?
まるで分らない僕に対して、クロエは頷いた。
「そう」
「いや、だから、わかってないのに」
「そうじゃない」
おっと、ここで定番を崩してきた。
自信満々にクロエはリィンの羽毛に手を伸ばして、優しく撫でる。
リンリンリンリンリンリンリン
リィンが興奮して腕を振り始めた。
表情を見るに、嫌がっている様子はない。
むしろ、心地よさそうな感じだ。
ドヤ顔で僕を見つめてくるクロエはかわいいなあ。
そんな事を考えながら一連の流れを振り返る。
「あー、つまり、フワフワは自分が一番、と?」
「そう」
リン。
さよか。
鳥人族特有の拘りがあるのだろう。
そうに違いない。
「アクタ」
「うん?」
しばらくは少女二人で撫で、撫でられしていたけど、不意に名前を呼ばれた。
見ればクロエが両手でリィンを持ち上げて、首元の羽毛を差し出してきていた。
キョトンとしているリィンは状況をわかっていないようだけど、クロエの目は僕の右手とリィンの間を行ったり来たりしていた。
撫でろ、と?
僕が寂しそうに見えたのかな?
別に少女たちの戯れに野郎が踏み込むような無粋をするつもりはなかったんだけどなあ。
でも、どうぞと用意されて断るのは無粋な上に野暮ってやつだ。
決して、そのフワフワに興味があったわけじゃないんだからね!
「じゃあ、ここはお言葉に甘えて」
ペシン!
羽毛を撫でようとした手がリィンに叩かれた。
子供らしい非力な手だけど、はっきりと叩き落とされてしまった。
試しにもう一度だけチャレンジ。
ペシン!
叩き落とされる。
リィンは不思議そうに首を傾げている。
まるで僕が何をしようとしているのか、意味が分からないという感じ。
「それぐらい、常識はずれな行いだと?」
リン。
「うええええっ!? セクハラ!? モラハラ!? そんな奴だったりするの、これ!?」
同性ならいいけど、異性はNGって事はそうでしょう!?
鳥人族的にこれってどういう意味があるの!?
今まで清く正しく誠実に生きてきたのに、予想外のところで道を踏み外しかけてしまった。
別れた家族たちに会わせる顔がない……。
詳しく聞きたいけど、リィンは話せない。
クロエもあれ? みたいな顔で首を傾げている。
ああ。
城に戻ったら生き残りの人から聞く事が増えてしまった。
なんだか無性に悲しくなりながら僕は叩き落された手を撫でるのだった。




