58 わかりました。あの子から何か話が聞けたら伝えます
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「お前らが魔獣を狩ってくるとは聞いていたが……」
できたばかりの開拓地。
まだ何もできあがっていない空き地の一角に並べられた魔獣たちを眺めながらドミトル氏は頭を抱えていた。
「この量はどうなっている?」
「その、なりゆきで?」
「お前さんがやったんだろうに聞き返さんでくれ。辺りの魔獣をかき集めでもせんとこうはならんだろう」
ですよね。
まさにかき集めた結果がこれだ。
等間隔に並べられた魔獣たち。
多種多様な魔獣が百近く。
大森林の最奥であるこの街でもなかなか見れない光景だろう。
本当なら僕とクロエだけじゃ持ち帰れなくて、置き去りにしないといけなかった素材も大量にあったけど、腐竜の応援で駆け付けてくれた兵士の人たちが一緒に運んでくれたのだ。
鳥の獣人たちを簡単に埋葬して。
得体の知れない腐竜の死体には監視を置いて。
その帰りに狩った魔獣を回収と大忙しだった。
すっかり夜も更けてしまっていて、辺りには篝火がいくつも置かれている。
「魔獣を狩ってくれたと感謝するべきか、問題を起こした事を叱るべきか、報酬を分割してもらえんか泣きつくべきか、どう思う?」
それこそ聞かないで下さいよ。
というか、間に説教を候補に入れられてしまうと分割払いを受け入れないとダメな感じがするなあ。
この近衛兵長は強かだから油断ならない。
「その辺りはお任せします」
「判断を委ねて儂を計る、というよりあまり興味がないようじゃな。つまらん」
十歳児相手に腹の探り合いとかしないで下さい。
まあ、本気ではないのだろう。
ドミトル氏は部下から受け取った書類にザッと目を通した。
「運送と解体の手数料を引いて、食肉部位は消費しきれるか微妙だから値引くぞ? ざっと四百万といったところか。詳細は後でルミネルにでも伝えさせよう。すまんが分割払いだ。或いは現物払いでもいい」
「あー。じゃあ、この半年間の生活費を引いてもらってもいいですか?」
魔王様のお客様という名目に甘えていたけど、短期間ならともかく長くお世話なり続けるのは居づらい。
遠慮しては魔王様の顔に泥を塗るとか言われるかもと心配だったけど、ドミトル氏はあっさり頷いてくれた。
「ふむ。なら三人分で百万程引いておくか」
安すぎないかなあ。
いまいち物価がわからないけど、大森林の奥地なんだから何もかもが貴重だろうに。
とは思うけど、それを口にしたらドミトル氏の気遣いを無駄にしてしまうか。
そもそも、貨幣の価値がわかっていない僕には主導権なんてないんだから、相手を信用するしかないのだ。
そして、ドミトル氏は信用できる相手だと思っている。
「じゃあ、それで」
「よし。決まりだ」
がっちりと握手をする僕ら。
巨人族の手は大きすぎて人差し指を握るだけだけど。
これで仕事の話は終わり。
僕は表情を引き締めて、少し離れた位置にいるクロエと白い少女に目を向ける。
適当な倒木に並んで座る姿は、黒と白のコントラストが映えてなかなか絵になっている。
どちらも顔立ちが整っているだけに姉妹にも見えた。
二人に聞こえないとは思うけど、声は小さく。
「それで、亡くなった人たちは?」
「兵の中に知り合いがおった。あやつらはここから五日の位置にある鳥人族の村のもんだそうだ」
書類を確認するふりをして巨体を屈めたドミトル氏が囁く。
五日。
きっとそれは森を歩いての距離。
危険を承知で空を飛べば、もっと短時間でたどり着けるだろう。
「何があったんですか?」
「わからん。向かわせた兵の報告待ちだの」
この口ぶりだと少なくとも最近までは大きな事件も問題もなかったんだろう。
「まあ、明るい話題ではなかろう」
そういうドミトル氏の表情は淡々としていた。
悲劇に何も感じないわけではないのだろう。
ただ、きっとここでは珍しい出来事でもないという事か。
「腐竜。あれって」
「それじゃ」
ますます僕らは声を潜める。
クロエの腕にしがみついたままの白い少女に絶対に聞こえないように。
「魔獣に襲われるのは珍しくもない。だが、ありゃあ、なんじゃ。竜が出ただけでも大儀というのに、死んでも果てん不死を患うなんぞ今まで一度もないぞ」
「大森林の最奥でもですか?」
「当たり前だ。あんなバケモンが出たら魔王陛下に頼る他ないぞ。でなければ、兵の壊滅を覚悟せねばどうにもならん」
よかった。
さすがにあれは日常茶飯事ではないか。
……僕、魔王様の領域に踏み込んでるの? という疑問も浮かんだけど、今は考えないでおこう。
きっと間に超えられない高すぎる壁とかありそうだし。
「そもそも魔王陛下がいるここに竜は近づいてこん」
「少しでも知恵があるなら、でしたっけ」
「そうだ。余程の幼竜でもなければちょっかいは出さんわい。なんせ、竜の肉は魔王陛下の好物じゃい」
捕食者と被捕食者の関係だった。
あの魔王様、竜をおいしい食材だと思っているのか。
「鳥人族の人を追って?」
「ないとは言わんが……」
ドミトル氏の中ではないのだろう。
ドラゴンの習性や本能の面から見ても、ゾンビになっていた事からも、異常事態と考えている。
「わかりました。あの子から何か話が聞けたら伝えます」
白い少女は僕たちが預かる事になった。
どうやらクロエから離れようとしないらしい。
無理に引き離そうとすると泣いて暴れて手が付けられなかったのだとか。
「頼む。こっちも調べが付いたらお前たちの連れに知らせよう」
連れはラフルの事だ。
今は腐竜の警戒を手伝ってここにはいない。
頷き合って僕たちは分かれる。
ドミトル氏は徹夜で指示を出すのだろう。
協力したい気持ちはあるけど、どうしたって部外者の僕たちがヘタに入り込んでも邪魔になるだけだ。
それなら、僕たちにしかできない事をしよう。
事件の中心に近い位置にいるだろう、白い少女。
彼女から何か聞き出せればいいんだけどなあ。
「お待たせ。もう帰っても大丈夫だよ」
「そう」
クロエのところに行くけど、珍しく向こうから近づいてこない。
よくよく見れば、白い少女はクロエにしがみついたまま眠っているようだ。
動いたら起こしてしまうと立ち上がれないのか。
いつもは僕がしがみつかれる立場なのに、クロエがしがみつかれる側なのはちょっと微笑ましかった。
そんな僕の内心が伝わってしまったのか、珍しくクロエが不満げに僕を見上げてくる。
「アクタ」
「ごめんごめん。僕が抱っこするよ」
「そう」
むずかる白い少女を持ち上げて、クロエは肩が触れるぐらいの距離で僕らを見つめている。
手を握ろうとしないのは久しぶりだなあ。
ちょっと寂しいのは内緒にしておこう。
「さあ、帰って休もう。疲れたよ」
「そう」




