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ゼロのアクタ  作者: いくさや
第二章 魔王
56/154

53 わかっているよ。僕は平和主義者なんだ

 53


 クロエは友達が少ない。

 ぶっちゃけ、僕しかいない。

 魔王様の膝元で暮らして半年だ。

 生活の中心が魔王城というのもあって、同世代の子供と知り合う機会が少ないとはいえ、皆無というわけでもない。

 実際、僕は友人ができた。


「なあ、ルミネルはどうすればいいと思う?」

「どうって言われてもな」


 隣の背の高い少年は、難しい顔で首を振った。


「距離を置かれているオレには何も言えないぞ」


 ルミネル。

 ドミトル氏とデミエルさんの子供で、城内で手伝いをしている少年だ。

 特徴はなんと言っても背の高さ。

 僕より三つ上というのもあるけど、両親が巨人族なだけあって二メートル近い背丈は見上げる程。


 訓練をしたわけでもないのに筋肉質なのは種族的な体質なのだとか。

 筋肉に愛されているなんて、羨ましい。

 あの立派な大胸筋なんか見とれてしまいそう。


 デミエルさんとの料理対決で味見係をしてもらったのがきっかけで良く話すようになった。

 今日もノルマを終えて、温泉(城内に沸いていた!)に入ったらやってきたから、相談してみたんだけど、バッサリ切られてしまった。


「だよねえ」

「他の人に向ける分までお前に集中しているな、あれは」


 顔の汗をぬぐいながらも的確な指摘。


 それな。

 クロエは最初の友達に全部注ぎ込んでいるんだ。

 今までの人生で持て余していた分まで全部。

 おかげで他の人がまるで目に入らない。


「突き放すわけにはいかないのか?」

「それは、ちょっと」


 できる気がしません。

 刷り込みで親と思い込んだヒヨコみたいに懐いてくる彼女に冷たく当たるとか罰ゲームかよ。

 何より、ただ突き放しただけじゃ意味がないとも思っている。

 きっとクロエは元の孤独に戻ってしまうだけ。

 それじゃあ逆効果だ。


「ふうん。怖気づいただけではない、と」


 言いにくい事もズバリと切り込んでくるのがルミネルの良い所だ。


「なら、きっかけを探すのはどうだ?」

「なるほど」


 確かにこの半年間は時間を無駄にできないと、休む事もなく毎日訓練という名の開拓に明け暮れていた。

 城と街の外を行き来するぐらいで、散歩だってまともにしていない。

 うーん。

 思い返してみるとブラック企業ばりの生活だな。

 家と職場の往復、みたいな。


 訓練も開拓も順調で、少しぐらい休暇を入れても文句は出ないだろう。

 いきなりやってくる魔王様の対応もあるから一日全休は難しくても、午後からをお休みにしても問題あるまい。


「いいね。採用」

「案内するか?」


 悩むなあ。

 デートにエスコートを頼むのはどうかと思うけど、ここは亜人族の街。

 ルミネルが一緒に来てくれたら余計なトラブルも起きにくいだろう。


 魔王城の人にはだいぶ受け入れてもらえたけど、街の人からはまだまだ道半ばといった感じ。

 皆無とは言わないけどね。

 完成した空き地にはもう一部人が入っている。

 家を建てる職人さんたち。

 畑を作る小作人たち。

 警備の兵士たち。

 外からやってくる人たち。


 かなり距離を置かれているけど、毎日のように顔を合わせていれば少しぐらいは関係もできてくる。

 まあ、主にデミエルさんとの食事対決のおかげだけどね。

 そりゃあ、肉体労働でお腹を空かしているところに、よい香りがすれば、ねえ?

 羨ましそうに見つめてくる人たちにおすそ分けすれば、憎まれていたわけでもないんだから、受け入れてもらえるさ。


 割と義理堅いらしい人たちだったから、翌日にお返しとかしていれば話すようにもなって。

 そちらは主にラフルが相手をしてくれているから、僕らの繋がりは弱いんだけど。


「……いや、僕とクロエで行ってみるよ」

「そうか。父上の手を煩わせるような事はするなよ」


 ドミトル氏は城の兵士たちのトップだ。

 魔王様の性格のせいか、この国に軍隊はいない。

 いるのは自警団――というには精強過ぎる兵士たち。

 近衛兵、なのかな?


 そんな彼らは街のトラブルによく出動している。

 異なる種族が集まるだけあってトラブルは頻発するのか、かなり出動する姿を目にして、その先頭を走るのがドミトル氏。


 魔王様の無茶ぶりの相手をしつつ、兵士を鍛え、街のトラブルを解決する。

 僕たちよりもブラック企業体質じゃないかな?


「わかっているよ。僕は平和主義者なんだ」

「主張するだけなら誰でもできるな」


 説得力ないぞ、と暗に言われた気がするけど、気付かないふりをしてスルー。


「ちなみに、ここだけはって場所はあったりする?」

「西の街は精霊族が多いから近づかない方がいいぞ」

「そっちの意味じゃなくてね?」


 いや、その情報自体はありがたいけど。


「案内はいらないんだろう?」

「実は一緒に出掛けたかった?」


 バシャとお湯をぶつけられて、顔を拭っている間にルミネルは湯殿を出ていくところだった。

 怒らせてしまったかな?


「魔王城の近くは気位の高い奴らが多い。外側は懐が広いからそっちの方に行った方がいいぞ。あと、大通り以外は通るな。お前らに絡んだ奴らが憐れになるからな」


 ツンデレ、ありがとうございまーす。

 振り返らないままのルミネルの背中に礼を言うと、早足で出ていってしまった。


「クロエとも仲良くなってほしいんだけどなあ」


 ちょっと取っつき辛い性格をしているし、異性というのもハードルを高めている。

 もう少し対人レベルが上がってから挑戦するべきだろう。


 まあ、同行を断ったのは別の理由があるんだけど。


「両親が魔王城の権力者で、本人も見た目と性格がイケメン」


 そんな奴を連れて歩いたら注目の的だ。

 満足に街歩きもできなくなってしまう。

 顔を隠しても、巨人族の巨体だと効果が薄いしなあ。


「よし。クロエの友達大作戦、決行だ」


 作戦なんて行き当たりばったりだけど。

 さて、ラフルに明日の予定を変えてもらわないとな。


 僕は温泉から出て、明日の予定を考えるのだった。

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