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ゼロのアクタ  作者: いくさや
第二章 魔王
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54 ……魔王様にお金を出してもらおう

 54


 急遽、決まった午後デート(本人に未承諾)とはいえ、僕に抜かりはない。


 温泉から出てすぐに向かったのは女中さんの待機部屋。

 夕食後から寝る前の間が比較的手すきになるのは把握済み。

 ルミネルからの情報を裏付けしつつ、より具体的なおすすめポイントを聞き取りした。


 相手は魔王城勤めの女中さん。

 街の情報に詳しい人が多い。

 デミエルさんとの料理対決をきっかけに半年間交流したおかげでお話できるようになっていて助かった。

 家事トークは心の距離を縮めるよね。

 まあ、差し入れのハーブクッキーとミルクティーの効果が何よりも大きいのだけど。


「アクタ君は主夫っぽいよね」

「そうですね。奥様友達と話してるかと錯覚します」

「アクタ君のお嫁さんは幸せ者ねぇ」


 獣人族、精霊族、巨人族の若い女中さんからのお言葉だ。

 男として見られていない気がするけど、考えないようにしよう。


 とにかく、休憩中だった三人からいくつかのお店の情報をもらって、頭の中に叩き込んでおく。

 情報を制するものがデートを制するのだ。

 時々雑談で脱線したりもしたけれど、種族も年齢層も違う三人からは幅広い話が聞けて有意義だった。

 これで勝てる!


「ところで、アクタ君」

「はい?」

「先立つものはあるのですか?」

「あ……」


 精霊族の人妻さん(良くも悪くもクロエを特別扱いしなくなった)から聞かれてフリーズする。

 お金。お金か。

 街をただ歩くだけじゃ散歩だから、お店を見るつもりだったけど、お金がなければどうしようもない。

 当たり前の話だ。

 この半年間、ずっと魔王城でお世話になっていてお金を使わなかったから失念してしまっていた。

 危うく大恥をかくところだった。


 もちろん、この街で人間のお金は使えない。

 使えたとしても着の身着のままで出てきた僕にお金なんてないのだけど。

 とにかく、僕はお金がない。

 まさに正真正銘の一文無し。


「……魔王様にお金を出してもらおう」

「陛下からお金をせびるってすごい度胸だね」


 獣人のお姉さん(膨らんだ尻尾の毛を撫でながら)が乾いた声で笑う。

 あんまりにフランクで忘れがちだけど、あの人はとんでもない人なんだよなあ。

 魔王城でも平然と話せるのはドミトル氏ぐらいで、兵士の人も女中さんも恐れ多いと平伏してしまう。


 千年を生きるという魔王。

 最初の内はビビったものだけど、クロエの前髪を切った時に噛みついてからは普通に話すようにしている。

 なんか、その方が向こうも楽しそうだし。


「いや、労働の対価を払ってもらうだけですから」

「そうだねぇ。アクタ君たちは頑張っているもんねぇ」


 巨人族の少女(僕よりも頭一個ぶん背が高い)が何度も頷いている。

 この人、叔母さんと話し方が似ているから話すと懐かしくなって困るんだよなあ。


 ともあれ、生活を保障してもらっているとはいえ、街の開拓なんて大仕事をやっているんだから、多少の金銭を都合してもらっても罰は当たらない、はず!

 貴重な情報に感謝しつつも、僕は魔王城の最上階に向かった。




「ぬふふ。金が欲しい、と」

「はい! ください!」


 この人相手に誘導とか交渉とか考えるだけ無駄だ。

 直球勝負で判断を委ねるのが吉。


 閉じた扇を顎に当てながら僕を見つめてくる。

 実に楽しそうですね。


「儂に金の無心に来る奴なんぞ、初めてだのう。ぬふふ。誠に主は愉快よ」


 魔王様の初めての男になってしまった。

 光栄ですね!

 出入口(魔王様が半年に開けた大穴を改造したもの)からチラチラ見ていた兵士さんも、信じられないという顔をしている。


「だが、やらん!」

「なんでですか! 僕ら、結構働いてますよ!」

「そのぶん、騒ぎも起こしておろう?」


 それを言われると辛い。

 城と街の外を往復するだけとはいえ、そこは亜人たちが行き交う道。

 最初の方は特に絡まれる事も多くて、見回りの兵士さんに何度も仲裁してもらったりもした。


「でも、それで苦労したのはドミトルさんですよね?」

「ドミトルの手柄は儂の手柄よ!」


 そんな堂々と配下の手柄を横取りせんでください。


 しかし、衣食住以外にもお世話になっているのはその通りだ。

 訳ありの僕たちがこんなに落ち着いて訓練できているのは間違いなく魔王様のおかげなのだから、開拓の手間を差し引いても恩が勝つ。


 それに僕は開拓が終わったら、もう一度だけ零印について尋ねるつもりなのだ。

 開拓の報酬をそれにするなら、お金にしてしまうのはまずい。


「しかし、金がないのも確かにつまらん。好いた女子おなごに甲斐性を見せられんでは憐れよ」


 パシンと扇で手を叩いた魔王様。


「幼くとも雄ならば狩りで稼ぐが道理よな。明日から森の魔獣を狩ってくればドミトルに買い取らせてやろう」


 ドミトル氏の仕事が増えた。

 けど、提案自体はありがたい。

 魔獣の相場がわからないのは不安だけど、苦労人のドミトル氏は買い叩いたりしないだろうし、試してみる価値はありそうだ。


「ありがとうございます」

「よいよい。主の狩りの成果、楽しみにしておるぞ」


 最後にハードルを上げられた気もするけど、僕は近衛兵の人たちが『うわあ』という顔をしているのに気付かないふりをしつつ、謁見の部屋を出たのだった。




 明けて翌日。

 いつも通りの予定をこなして、昼食を終えた後。


「クロエ、僕は午後から森に行くから」

「そう」


 とは言いつつもクロエは僕の手を放さない。

 一緒に行くのが当たり前と思っているなあ。


 しかし、女の子をデートに連れていく資金を稼ぐのに、その女の子を働かせるというのはダメだろう。

 何もデート代は全部男が奢るべきだってわけじゃないけど、僕にも見栄というものがある。


「違うよ。僕一人で行くんだ」

「!?」


 天地がひっくり返ったみたいな驚きようだ。

 そんなにビックリするかあ。


 あと、痛いぐらい手を掴むのはやめようね?

 知らない場所に置いていかれそうな子猫みたいな反応だけど、聖印が薄っすらと輝いているのが見えるぐらい魔力で強化している。

 僕も強化していなかったら手が潰れているからね?


「わたしは?」

「うん。午後も魔法の練習をしてくれるかな。ラフルは残るから大丈夫だよね?」

「そう……」


 ぜんぜん、大丈夫じゃなさそうな『そう』だ。

 完全に心ここにあらず。

 今魔法を使ったら暴走させそうな気配がヒシヒシと感じる。


「……少年。今日のところは二人で行けばー?」


 なんのかんの、ラフルはクロエに甘いよなあ。

 とはいえ、一人で残して事故を起こしたら大変だ。


「わかったよ。クロエ、今日は一緒に行こう」

「そう」


 本当に嬉しそうに、はにかむんだからずるいなあ。

 僕もラフルの事は言えないな、と反省しつつも僕は森の中に入っていくのだった。


 さあ、ひと狩り行こうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めての狩りは成功するかな。 ここは甲斐性の見せ所。
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