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ゼロのアクタ  作者: いくさや
第一章 零印
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45 気候まで操るとか、メチャクチャだ

 45


 まずはベルたちを下ろす。

 バタバタしていたから拘束を解いてもいないままだけど、今は一刻を争う事態だ。

 もう少しだけガマンしてもらおう。


「アクタにい!」

「ベルはそこにいて。ヌイと神父の人を頼むね」


 噛みつこうとして寸前で食いしばるベル。

 いつも僕を心配してくれていたベルだから、止めようとしてくれたんだろう。

 けど、クロエが手伝ってくれるなら今の僕は無能の零印じゃない。


「ぜってえ! ぜってえ、戻って来いよ! 約束だからな!」

「うん。それは絶対に守る」


 振り返らずに走る。

 対処方法なんてわからないけど、少なくとも遠くからどうにかできる事態ではないのは間違いない。

 折角の距離を再び詰めていく。


「冷たい」

「そう」


 ほんの少し戻っただけで辺りの気温がグッと下がった。

 体感は冬のそれだ。

 吐く息はとっくに白くなって、触れる空気は切りつけるよう。


「気候まで操るとか、メチャクチャだ」


 唱歌っていうのがクラリスの心象風景というなら、一体彼女の心の内にはどんな闇――いや、雪原が広がっているのか。

 触れるものを凍えさせ、どこまでも広がる冷却世界。

 凶悪な魔法だけど、不思議と寂しさや悲しさを感じてしまう。


 彼女を知らない僕にはわからない。

 あるいは、クラリスと因縁のあるラフルならわかるのかもしれないけど、僕たちの横をフラフラと走るラフルは何も言わないし、何も見せない。

 聞いてみたいと思うけど、興味本位で触れてはいけない気がした。


 だから、今はただ目の前の問題に集中する。


「ラフル、あの巨人を倒せばいいと思う?」

「そだねー。少なくとも、気温を上げる、とかじゃ解決しないだろうねー」


 気候なんてどうやっても倒せない。

 対処するなら元凶に決まっていた。

 問題は、あの氷雪の巨人を破壊できるのか、という事。

 それと。


「ま、壊したら直りそうだけどねー」

「そう」


 ラフルとクロエも僕と同意見らしい。

 何せ、僕たちはあの巨人ができあがるところを見ている。

 術者のクラリスの意思を無視して、草原中の氷雪が集まって出来上がったんだ。

 破壊しても自動で修復ぐらいしそうな気がする。


「たぶんー、問題なのはー、魔力がどこから来ているか、かなー」


 魔力。

 そうだ。

 唱歌の暴走、なんて言っても結局は魔法なんだ。

 なら、必ず魔力が関わっているはず。


 この異常な冷気も。

 効果範囲の広さも。

 自動修復の能力も。


 そこさえ断ってしまえば、解決する。


「本当だ。どこから来てるんだ、これ」


 これだけの魔法現象を実現する魔力……って、僕でも難しいんじゃないの?

 聖印を持っていたクラリスの魔力量も多かったんだろうけど、それでもこんな異常事態を起こすほどはないんじゃないか?


「わかるの?」

「さっきからー、探しているんだけどねー。見えないやー。この子も、わからないみたいだねー」

「そう」


 魔力の流れか。

 僕にも……あれ? なんとなく、わかるような?

 いや、体の中で何かがモヤモヤとしている感じがするだけで、これが魔力のような気がするってだけなんだけど。

 気になるけど、言っている場合じゃないか。

 どっちみち、内側がなんとなくっていう程度じゃ外の魔力なんてわかりようもないんだし。


 ラフルとクロエでもわからない、か。

 唱歌の暴走の中だからか。

 それとも別次元から流れ込んでいるなんて話ならどうしようもないぞ。


「……ま、大元はともかくー、通過点はクラリスちゃんだねー」


 ラフルは言外に、クラリスを狙えと言っている。

 確実な方法はそれだ、と。

 僕もそう思う。


 けど、それはダメだろう。


「ラフル、正義の味方なんだよね?」

「はは。ここでそう言うかー」


 どこか嬉しそうに短く笑うラフル。

 そして、すぐに鋭い目つきになり、はっきりと指示を飛ばしてくる。


「じゃあ、二人は魔法で巨人をぶっ壊してくれ。そうしたら、クラリスちゃんは俺が受け持つから」


 気軽に言うなあ。

 さっきの雷爪も防がれたのを知らないから言うんだろうけどさ。

 でも、できないとは思わない。

 クロエの手を握れば、確かに力強く握り返される。

 きっと彼女も同じ気持ちだ。


 ラフルは僕の返事を待たずに速度を上げた。

 横から前に。

 冷気の漂う靄の中に消えていく。


「見えた」

「そう」


 氷雪の巨人が見え始めた。

 辺りには酷い光景が広がっている。


 氷の彫像と化した草原。

 以前の形を保ったまま、凍りついてしまったのだ。

 ただの生物では生きていけないだろう。

 僕がこうして動けているのは、きっとクロエが強化の魔法とか、冷気を防ぐ魔法を使ってくれているんだと思う。

 助けられっぱなしで申し訳ない。

 けど、今は頼りにさせてもらう。


「クロエ。やろう」

「そう」


 相変わらずの短い言葉だけど、握り返される手の力でクロエの気合が伝わってくる。


 雷爪は届かなかった。

 それも全くと言っていいぐらい通用しなかった。

 速度を優先したからというだけじゃない。


 暴走した唱歌は僕の大魔力を使った魔法より上回っている。

 なら、ここは一つもっと上を目指そうじゃないか。


「全力だよ」

「そうするつもり」


 出し惜しみなし。

 正真正銘の全力。

 残った魔力を全て振り絞った、極大魔法をぶつけてやろうじゃないか。

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― 新着の感想 ―
[一言] さぁ、クラリスさんの暴走を止められるか。
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