42 そう、だね。でも、僕の敵だ
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僕の手を取ったクロエはすぐに魔法の準備を始める。
相変わらず僕には魔力の働きはわからないけど、繋いだ右手から魔力が流れているのだろう。
「雷爪」
クラリスへと向けた、重ねた僕たちの手の先。
そこに現れたのは黄金に輝く電撃の爪だ。
てっきり風の系統と思っていたけど、そういえばクロエの第四聖印は裏で『親愛』だけど、表は『風雷』だった。
きっと得意な属性に含まれているんだ。
ただ、巨大すぎる。
バチバチと音を立てる雷光。
ほとばしる電撃は僕らの身長を遥かに超えて、降り注ぐ雪を蒸発させている。
こんなものを放とうものなら、クラリスと一緒にラフルまで巻き込んでしまう。
「クロエ、集めて!」
「そう」
僕の言いたい事をすぐに読み取ってくれたクロエ。
みるみるうちに雷が収束していく。
無駄な放電が消え、ナイフ程の大きさにまとまり、指先でジジジと音を立てながら滞空した。
凝縮に合わせて派手な黄金から落ち着いた青白い色に変化している。
「前より、早い?」
「そう」
前回は制御に苦労していたけど、そんな様子はない。
怪我がないから?
いや、なんとなく違うとわかる。
前よりも今の方がクロエと深く繋がっている感覚。
これが『親愛』の力?
名前を呼んだだけなのに。
クロエがどうしてここまで僕のために動いてくれるのかもわからないのに。
ただ、お互いがお互いを必要としている。
それだけは理屈も感情も超えて、知っていた。
「ラフル!」
名前を呼ぶ。
それだけで伝わるはずだ。
徒手空拳でクラリスを押さえていたラフルはこちらを見る余裕もないのか。
肩や足に雪が積もり始めて、傍から見ても動きが鈍くなり始めている。
最初は主導権を握っていたのに、今ではラフルの方が防戦一方。
「いい! やれ! 合わせる!」
似合わない切羽づまった声。
いいのか?
打合せもなしのぶっつけ本番。
成功率なんて計算するのもバカバカしい賭け。
クラリスだって僕らが何をしようとしているかわかっている。
さっきから僕たちの間にラフルが入るような立ち回りだ。
少しでもタイミングがずれれば、ラフルを巻き込むどころか、誤爆するだけで終わるかもしれない。
「やれ!」
ラフルの声。
全部わかっていて、それでも、と。
「クロエ! 狙って!」
「そう」
やると決めたら早い。
クロエは即座に雷爪を放った。
五本の雷のナイフ。
まさしく雷光の速さ。
瞬きの間に二人に迫る。
四本が左右と上下を塞ぐ進路。
残る本命の一本がラフルの背中と、クラリスの胴体を狙った軌跡。
背後から飛来するそれを見てもいないのに、ラフルはギリギリでそれぞれの隙間に体を滑らせる。
「そこですわ――」
クラリスが鏡合わせのように動いた。
避けられた。
次弾、どうする?
どうすれば当てられる?
この距離からじゃダメだ。
もっと、近づかないと――。
次を考えだす僕の予測は覆された。
「だよねー」
瞬間。
ラフルは左手を泳がせていた。
そこはかわしたはずの本命の通過地点。
雷光が左手に突き刺さる。
「あぎっ――ああああっ!」
苦鳴を吼えて飲み込んだラフル。
そして、雷光の軌道を無理矢理捻じ曲げた、その手をクラリスへと叩きつける。
「―――――――――――――――――――っ!!」
ラフルの左手。
雷光はクラリスの脇腹を掠めただけ。
それだけでも、声にならない絶叫を上げるクラリス。
まだ、終わらない。
僕の大魔力で生まれた雷爪だ。
二人に突き刺さった一本は、外れた四本と合わせて、凝縮されていた電撃を解放する。
両者の体を青白い雷光が駆け抜け、近くの雪へと伝播して、周辺一帯で爆発的な電撃が広がった。
発光は一秒にも満たない。
目を焼きかねない光量。
瞼を閉じていても眩しいぐらい。
チカチカする目を無理矢理開ければ、雪原に巨大な焦げ跡ができていた。
その中心。
炭化した地面の上に倒れた人影は、ラフル。
全身を痙攣させつつも、立ち続けるクラリス。
先に雷爪を掴んだラフルの方が大ダメージになったか。
「クロエ!」
名前を呼んだ時には動いていた。
僕の魔力の一部を使った身体強化。
手を放した瞬間から急速に失われてしまう残滓でも、莫大な魔力が使われたそれは絶大な強化。
クロエは一息の内に肉薄している。
放たれるのは飛び回し蹴り。
クラリスの意識どころか、首さえも刈り取りそうな一撃。
「舐めないで――」
それが受け止められる。
鬼の形相のクラリス。
クロエの蹴りを両手で受け、咆哮と共に払い落とした。
雷爪で破けた牧師服の下。
右の脇腹から青白い光が――聖印が見える。
「――くださいな! わたくしは! 元杯の騎士団の一員ですわ! そして、そして、正しく努力し! 正しき行いを守り! 正しさを広める! 第二聖印の――」
「そう、だね。でも、僕の敵だ」
がら空きとなったクラリスの懐。
その内側で僕は頷く。
肉薄したのは、クロエだけじゃなかった。
強化されたのも、クロエだけじゃなかった。
僕は既に右手には『狐』を、左手には人差し指を立てている。
目を見開くクラリスが反応するよりも、その指を突き出す方が早い。
零距離。
指先がクラリスの聖印に触れる。
「一指!」
赤い輝きが青い聖印を飲み込み、クラリスを吹き飛ばした。




