41 クロエ。やるよ!
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一指の成功率、三割。
三日という極めて限られた時間の中ではかなりの成果だと思う。
けど、これ以上は上がらないというのがラフルの見解だった。
ここからはより時間をかけて、反復しないとダメだ、と。
そもそもが反射なんて、ちょっとやそっと繰り返すぐらいで手に入るものではないのだから、その結論は納得できた。
そう結論が出たのが二日目の夜。
じゃあ、残り一日をどう過ごすか。
そうなった時に僕が提案したのだ。
右手だけじゃなく、左手でも使えるようにならないか、と。
二爪。三甲。四刀。五崩。
そっちを覚えるよりは、同じ技の方が覚え易いのではという計算だったのだけど、ラフルはなるほどと頷いて、さらなる改良案を出してきた。
曰く、一指を飛ばすようにしてみないか、と。
右手の一指の射程は短い。
いや、余波とかまで考えると広範囲まで届くのだけど、それでも威力自体はその指先にしかない。
だから、それを外に放てるようにしようというのがラフルの案だった。
問題は、魔力を体外に出すにはシンボルがいるという事なのだけど。
「できるの?」
「さあー。やったことないからわからんー」
で、やってみたら出来てしまった。
何を馬鹿なと思うかもしれないけど、実際にできてしまったのだから仕方ない。
我が事ながら、この右手の零印は規格外すぎると思う。
結局、四日目の移動中にも訓練をして得られたのは右と同じく三割の成功率。
ともあれ、選択肢が増えるのは良い事だ。
おかげで、右肩を砕かれて右の一指が封じられても、左の一指ができるのだから。
「――なっ!?」
さすがにクラリスも予想できていなかったのか、妨害は間に合わなかった。
唐突に動き出した僕に手を向けるのが精々。
魔法を出すよりも先に発動する。
左の一指。
遠距離用の一撃。
なかなか僕は勝負強いらしい。
三割の成功を再びつかみ取る。
放たれたのは赤い光。
いつかの夜、辺境村の夜を照らした輝き。
直視すれば目を焼きそうな閃光。
唱歌の雪でも止められない。
触れる雪を飲み込むよりも先に弾き、薙ぎ払い、吹き飛ばす。
まさに逆転の一撃。
その赤い閃光が『メカクレちゃんとラフルに』向かって飛んだ。
「……え?」
予想外からの更に重なる予想外。
咄嗟に防御姿勢に入っていたクラリスは呆然とする。
その目の前で閃光は二人の辺りで炸裂し、再び土煙を辺りにまき散らした。
「何を? 暴発、ですの?」
「ほらー。そういうところ、やっぱり小細工には向かないよー」
土煙を割って飛び出てきたラフル。
その動きは俊敏で、雪の阻害を感じられない。
当然だ。
左の一指が足元の雪を吹き飛ばしたのだから。
僕の一指は強力だけど、それでもクラリスを一撃で倒せるかはわからなかった。
真正面から通用するのは知られていない最初の一回だけ。
なら、僕はその一回をフォローに使う事にした。
「慣れない事するからー」
「……っの! 調子に乗らないでほしいですわ!」
勢いのままに突撃。
ぬるい語勢から想像もつかない打撃が放たれる。
肉と肉、骨と骨がぶつかる重い音。
反応が遅れたクラリスは辛うじて受けるが、押し込まれた。
「そう」
その頭上から。
手枷はそのまま。
氷の鎖の残骸もひっかけたまま。
メカクレちゃんが急襲する。
ラフルの相手で手いっぱいのクラリスは対応できない。
シンプルなドロップキックが顔面に炸裂して、その体が吹き飛んだ。
相手が相手とはいえ、容赦ないな。
「少年。判断、任せたー」
ラフルは雪の中に踏み入り、すぐに立ち上がろうとするクラリスに追撃する。
徒手空拳の連続と、間に入る水の魔法。
二節だけど、無詠唱のそれは隙が無い。
クラリスは態勢を整えられないまま防戦一方だ。
けど、追撃の間際に言ったラフルの台詞。
判断を任せる、って事はだ。
ラフルはこのまま押し切れないと判断している。
それは、そうだ。
クラリスの唱歌、謳う氷河と言ったか。
この魔法の恐ろしさは広さだとばかり思っていたけど、それだけじゃない。
効果時間も恐ろしく長い。
少なくとも一瞬だった攻撃と違い、ずっと雪が降り続けているのだから。
僕の一指で周辺の雪を散らせたけど、それもやがて埋められてしまう。
そうなれば戦局は戻り、最早戦える状態ではなくなる。
今度こそ一巻の終わりだ。
そうなる前に決断しないといけない。
つまり、クラリスを倒すか。
それとも皆を連れて逃げるか。
「決まっている。倒すよ」
クラリスはここで倒す。
家族が危険だし、逃げたところでクラリスは追ってくる。
そして、次は教会の全力を引き連れてになるだろう。
各個撃破できるチャンスを逃せない。
「そう」
メカクレちゃんが頷く。
何をすればいいか、わかっている。
「メカクレちゃん。僕の魔力、使って」
「………」
左手を伸ばす。
けど、メカクレちゃんは唇をキュッとしてしまって、手を握ってくれなかった。
「……そうじゃない」
「あれ? え? 間違えた? 以心伝心できてると思った痛い奴になってる、僕!? もしかしてメカクレちゃんは逃げるつもりだった!?」
その時はもれなくラフルは見殺しになるのだけど、容赦がなさすぎじゃないかな?
計算違いが多いし、適当な奴だけど、悪人じゃない、と思う、かな?
「そうじゃない」
それも違うのか。
くぅ。
メカクレちゃんとの会話は相変わらず難易度が高いなあ!
わかった気になっていると簡単に足元をすくわれるぜ。
「メカクレちゃん?」
「そうじゃない」
呼びかけると、やっと手を握ってくれた。
でも、まだ僕は間違えているらしい。
前髪の向こうから見つめてくる目を見ても、何を言いたいのかわからない。
「……クロエ」
「え?」
「わたし、クロエ」
くろえ?
……あ、ああ! 名前か!
そうか。
メカクレちゃんはクロエだったんだ。
こんな時に何を、とは思わない。
だって、僕たちの魔法には信頼関係が必要なんだから。
だから、教えてもらった名前を呼ぶ。
「クロエ。やるよ!」
「そう」
ちょっとだけ唇を持ち上げるメカクレちゃん――クロエ。
それが微笑みだったと気付いたのは、クロエの胸元から青い輝きが溢れた後だった。
41話目でやっとヒロインの名前が出る。
そして、そんなやり取り目の前で見せつけられる妹ちゃん。




