39 やられた……
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成功!
三割を掴んだ。
僕の放った一指。
不安定な空中からで狙いはつけづらかったけど、先頭のシスター服に向かったのは間違いない。
轟音と同時に盛大に土煙が上がる。
僕はその中を落下。
受け身というのも無理な態勢で地面に激突する。
痛み、はそれほどじゃないけど、衝撃がすごい。
ゴロゴロと転がって、ようやく勢いが弱くなったところで立ち上がる。
土煙がすごい。
満足に目も開けられない。
「ラフル!」
返事はない。
戦いはもう始まったか。
僕が一指を放った直後。
ラフルは舟ごとクラリスのいた辺りに突っ込んでいた。
あれなら多少狙いがずれても捉えられたはず。
実際、彼がいるだろう場所からは水が跳ねる音が聞こえた。
戦いが始まっている。
戦況はわからない。
けど、ここから先はラフルの役目だ。
僕は今のうちに皆を助けよう。
まだしびれる手足を無理矢理動かして、皆がいた場所に向かう。
落下のせいでいまいち自信がなくて勘だけど、ラフルの戦う音が聞こえる位置から考えれば大外れではないだろう。
問題は巡回神父。
また一指が成功するのに賭けて仕掛けるしかない。
それかメカクレちゃんを解放さえできれば、対処できるだろう。
ベルとヌイも解放すれば手伝ってくれる。
「メカクレちゃん! ベル! ヌイ!」
居場所を知られるかもしれないけど、それよりも合流が先だ。
それに僕に意識が向かえば、皆は自力で脱出できるかもしれない。
聖印や高レベルの数印を持っているんだから。
「助けに来た! シスターはラフルが押さえているから今のうちに離れるんだ!」
返事は、ない。
口を縛られていたからな。
やっぱり、ここは土煙の中を探すしかないか。
巡回神父は風の魔法を使うみたいだから、視界を回復される前に合流したい……え?
強烈な違和感に襲われる。
「なんで、風の魔法を使わないんだ?」
僕たちが速攻を決めたとはいえ、いくらなんでも対応が遅すぎじゃないか?
巡回神父はクラリス程じゃないとはいえ戦える人だったのに。
そんな状況判断ができないとは思えない。
嫌な、予感がする。
気持ち悪い汗が背中を濡らす中、不安に突き動かされるように皆を探す。
声は出ない。
出せない。
無言で手を伸ばして、段々と薄くなっていく土煙の中をさまよう。
そして、手が何かに触れる。
「ベル!」
「んんんんー!」
ベルだ。
性格上、暴れたりしていないか心配だったけど大人しくしてくれていて良かった。
僕に気付いて声を出そうとして、でも唸るだけ。
手枷は……木だけど、僕じゃ壊せない。
せめて猿ぐつわだけでも外してあげよう。
固い結び目をほどくと、ベルがすぐに叫んだ。
「アクタにい、逃げて!」
「わかってる! 早くヌイとあの子を――」
「そうじゃなくて!」
ベルの焦り方は尋常じゃない。
ともかく、彼女の言う通り今はすぐに逃げないといけないんだから、近くにいるだろうヌイとメカクレちゃんを解放しよう。
「うん。ヌイはそっち、だよね。上から見たから――」
と、ベルの手を引いていこうとして気づく。
ベルは動かなかったんじゃない。
動けなかったんだ、と。
見下ろす足元。
ベルの足首に絡まる氷の鎖。
寒気が、首筋を撫でる。
「あらあら、気付かれてしまいましたわ」
「クラりゃ――っ!」
声が、すぐ後ろから、耳元で囁かれた。
振り返る、事さえできない。
「氷弾」
背中から撃たれる。
ミシミシと右肩が砕かれる音が内側から聞こえた。
氷の弾。
ラフル曰く、二節――初歩の魔法。
それだけで一指の身体強化を失っていた僕の体は打ち倒されてしまう。
地面にぶつかって、跳ねて、転がって。
混乱する頭。
グルグルと回る思考。
それでもすぐに立たないといけない。
地面を両手で突き飛ばして、反動で起き上がろうとして止まる。
立て、ない?
「嘘だろ……」
見下ろせば両足には氷の鎖。
何本も重なるようにして絡みついて、膝から下が地面に接着されたみたいだ。
「アクタにい!」
「囮、ご苦労様ですわ。あなたの献身を主は見て下っていますわ」
「ちげ! オレはそんな事――」
「でも、お静かに。これから大切な粛清の時間ですわ」
ベルの口元が氷の鎖で覆われる。
余裕だというようにゆっくりと歩み寄ってくるクラリス。
その赤い唇が口にするのは悠然とした唱歌。
「融けに解け
流転する雪
凍て結ぶ
埋め蠢くは
灰雪の園」
強烈な魔力の発露。
それを感じ取れないはずの僕にさえ知らしめる、圧迫感が辺りを埋め尽くしていく。
前の時とは違う言葉。
でも、それ以上に感じる危機感。
「あ、あああああああっ!!」
僕は自由な手を握りしめる。
左手は『狐』に、右手は一本指。
砕かれた右肩が激痛を訴えてくるけど、無理やり飲み込んで叫ぶ。
「一指!」
突き出す。
この間合いならどうやっても当たる。
けど、何も起きない。
間抜けに手を伸ばすだけ。
肝心な時に、外れを引いた!?
クラリスに焦った様子はない。
まるで僕が失敗するとわかっていたような……いや、わかっていたんだ。
右肩の痛み。
それが反射を邪魔したんだ。
そうなるように、氷弾で撃ったのか。
愕然とする僕に、正解と唇を形づくるクラリス。
いっそ優しささえ湛えた微笑み。
「謳う氷河」
冷気が吹き抜けた。
前回のように目に見えた変化は少ない。
辺り一帯が冷え、地面には霜が立ち、ゆっくりと空から雪が降り始める。
それだけ。
氷の弾丸も、刃も、鎖も飛んでこない。
体温を奪われ続けるのは脅威だろうけど、それが命に届くにはかなりの時間がかかる。
拍子抜け、するなんてできない。
だって、土煙が雪に飲まれて沈んだ光景。
見渡す限り、ずっと。
中途半端な態勢で見える範囲だけでも。
その全てに雪が降り積もっているのだ。
どこまでも、どこまでも、どこまでも。
まるで草原を埋め尽くそうとするように。
「やられた……」
悠然と立つクラリス。
彼女は『司祭服』を着ていた。
シスター服ではない。
じゃあ、最後尾にいた巡回神父だと思っていたのは、クラリスだった?
入れ替わっていた?




