38 できる事はやった! 後はやってみる!
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「………」
「少年、無事かー?」
あれから五日。
僕たちは訓練を終わりにして、クラリスたちを追っていた。
追うというか、僕は運送されているというべきだろうけど。
「頑張れよー。もう少しで追いつけるだろうからさー」
ラフルの移動手段。
それは陸上でやるジェットスキーだった。
訓練中にできた倒木を雑に削った舟っぽいもの。
その上に乗ったラフルは魔法で水を噴射という荒業。
船の下と後ろ、それから左右。時に上や前からも。
それぞれから強烈な水が噴き出して、陸上を滑る――なんて平和なもんじゃない!
速度は高速道路を走る車並み。
当然、風から守ってくれる車体なんてない。
その上、水で衝撃を多少は殺してくれているんだろうけど、それを圧倒的に上回る道の悪さ。
三日の出遅れを取り戻すため、最短距離を進むというのだから街道が使えない。
そのせいで、丘を飛び、川を超え、草原を薙いで進む、進む、進む!
乗り心地は最悪を通り越して最恐だった。
ジェットコースターがかわいいぐらい。
ラフルが押さえつけてくれていなかったら、今頃僕は空中で放り出されていたに違いない。
「うえぇ……」
吐きそう。
けど、我慢だ。
吐いている暇なんてない。
既に太陽は南の空高く。
ラフルの計算ならそろそろクラリスたちは隣町に近づいている頃。
それまでに追いつく必要があるんだ。
喉に上がってくる吐き気を強引に飲み込む。
ラフルも大量の魔力を消費しながら耐えているんだから泣き言は言えない。
「お、いたぞー」
前を見据えていたラフルが呟く。
感知できたのか。
できれば、このまま不意打ちできるのがベスト。
けど、それは最初から捨てている。
魔力感知なんて頻繁にやるものじゃないだろうけど、今は向こうも襲撃を警戒しているはずだ。
こんな乱暴な乗り物で近づけば派手な音が聞こえる上に、馬鹿げた魔力を持つ僕がいる。
遅かれ早かれ気づかれる。
だから、真正面から行く。
問題は、訓練の成果が出せるかどうか。
「少年、準備はいいかー?」
結局、僕は一指ができるようにはなった。
三日という突貫で、それこそギリギリまで、魔力を使い切る程に訓練して――成功率は三割だけど。
「できる事はやった! 後はやってみる!」
「ははー。覚悟はできてるねー」
ここまで来てジタバタとしても結果は変わらない。
賭けに勝つ、それしかない。
「あと、どれぐらい!?」
「んー。もうすぐ?」
あいまい!
報告は正確にしてほしいなあ!
文句を言うのも辛いのに、なんて考えながら聞き直そうとしたところで、舟は唐突に空へと舞った。
どうやら丘をジャンプ台にして飛び跳ねたらしい。
広がる視界。
どこまでも草原と、直下に見下ろす一本の街道……街道!?
乗り出すように見下ろせば、街道がすぐ下にあった。
そして、そこを歩く一行も見える。
このタイミングで辺境の開拓村と行き来する人達なんて決まり切っていた。
距離がある上に揺れているからはっきり見えないけど、シスター服の人が先頭にいて、最後尾には司祭服の人がいた。
クラリスと巡回神父に違いない。
真ん中、あの大柄な体格はヌイで、隣の小さな影はベルだろうか。
そして、そこから少しだけ離れて、巡回神父らしき人の前を歩く夜色の髪の少女。
それぞれ手枷をされ、口は布で塞がれて、おまけに縄で胴を縛られて、その縄は神父に握られている。
怪我は、ないように見える。
追いつけた!
追いつけたのはいいけど!
「本当にすぐじゃん!」
「そう言ったじゃんかー」
この男はー!
先に覚悟を決めておいてよかった。
おかげで行動できる。
百ぐらい言いたい文句を吐き気と一緒に飲み込んで、僕は左手で『狐』を作り、右手で一本指を伸ばした。
眼下、一行も動いている。
とはいえ、本当の本当に一瞬の滞りもなく突撃してくるとは思っていなかったのか、その動きは遅い。
隙とは言えないけど、先手ぐらいは打てそうだ。
「少年ー」
呼ばれる。
それだけでラフルが次に何をするかわかった。
最初から決めていた通りだ。
同時、僕を押さえつけていた手が放される。
当然、体が浮く。
舟の外に投げ出される。
落下の勢い。
風がぶつかって痛みが走る。
この高さ。
零印の僕じゃ大怪我――どころか墜落死しかねない。
けど、攻撃の反動があれば大丈夫!
たぶん!
ラフル曰く、一指は指先だけを強化しているわけじゃないからー、だとか。
そもそも一指に失敗したら?
そんな事は考えない。
賭けに出ると決めた時の覚悟にそこまで含まれているんだから。
見上げてくる集団。
狙いはその先頭。
最強のシスター、クラリス!
正確に照準を合わせる必要はない。
どうせの大威力。
味方を巻き込まないかの心配の方が大きい。
クラリスは手を頭上に掲げている。
今にも魔法を放とうとしているのか。
あるいは、前の戦いで見せた唱歌。
あんなものを出されたら何もできなくなってしまう!
させるか!
「一指!」
僕は叫び、人差し指を突き出す。
次の瞬間。
街道に巨大な土煙が上がった。




