36 一指
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「使いようって、そもそも使えないから困っているんだけど……」
あれか?
メカクレちゃんがやったみたいに、ラフルが僕の魔力で魔法を使うとか?
確かに魔力タンクにはなれる。
「あー、言っとくけどあの子みたいなのは俺、できないからなー?」
「そうなの?」
言う前に無理と断られてしまった。
「他人の魔力で魔法を使うなんて不可能だってー。そんなのできたらさー」
ラフルが僕の肩に手を置く。
それだけで言いたい事がわかってしまった。
「人の体の中に人の魔力で魔法が使えちゃう」
「そういうことー」
「でも、僕はそういうのもわからないから使えるんじゃない?」
「これはー理性とか感情とか感覚の問題じゃなくてー、生き物の性質だからねー。反射っていうやつー?」
じゃあ、メカクレちゃんは?
と聞く前に想像できた。
「聖印」
「それも正解ー。あの子は『親愛』だからかなー。俺もあんなことできるとは思っていなかったから驚いたよー」
単語から想像する限り、メカクレちゃんは他人の魔力と同調できるんだろう。
全くの無条件ってわけではなさそうだけど、その辺りは推測の域を出ない。
ともかく、ラフルに魔法を使ってもらうというのは不可能。
「ま、できたところであの子もどの子もぜーんぶ巻き込んで吹っ飛ばすしかできないだろうけどなー」
それは、そうか。
棘蔓熊の時の惨状を思い出す。
あの時、メカクレちゃんが口にした魔法名は『風弾』だ。
おそらくラフルやクラリスが使っていた『水弾』とか『氷弾』と同じレベルの――二節? の魔法。
それが、ああなった。
あんなのをクラリスに向けてぶっ放した日には、もろとも巻き込んで全滅させてしまう。
助けようとした人たち諸共。
「じゃあ、どうするつもりなの?」
「それなー。魔力が感じられない少年がー。魔力を使う方法ー」
ラフルは話しながら入口に向かっていく。
ついていくと、小屋から少し離れたところで足を止めた。
崖下の岩壁付近は暗い。
「といっても、難しい話じゃないんだー」
人差し指を立てる。
それだけなのに、何故か辺りの温度が少し下がったような気がした。
「お、やっぱりー。少年は魔力を感じとれなくてもー、魔力の影響はなんとなくわかるっぽいー」
……魔力そのものじゃなくて、魔力で起きた水とか風はわかるって事か。
うん。
それはわかる。
「なら、これができると思うんだよねー」
ラフルは立てたままの人差し指を、そのまま岩壁に突き立てた。
まるで粉雪の山に突っ込むような勢いで、なんの躊躇いもなく。
良くて突き指、普通に骨折の惨状に悲鳴が出かけたけど、当の本人は平然としたままだった。
落ち着いて見ると、指が岩壁に刺さっている!?
まさか岩に見えて砂?
なんてことはない。
触ってみると岩の手触りが返ってくる。
ちょっと得意げなラフルと目が合うと、指を引き抜いて解説を始めた。
「これ、一指って言ってなー」
そのままの技名になんとなく渋い顔になる。
「ははー。ま、技っていう程のものでもないのよー。学院で最初に習う基礎の基礎。魔力操作の練習方法ね」
続けてラフルは指を二本立てると、同じく岩壁に向けて振り下ろす。
岩壁の表面辺りに一筋の切れ目が入った。
「二爪」
次に三本指。
それを正面に構えて、岩壁に体当たり。
ひょろ長いラフルの体格からは想像できない重い音が響いて、四角い陥没ができていた。
「三甲」
四本指。
手刀の形を岩壁に向けて振るい、払い、突く。
手が剣となったように岩が分解されていく。
「四刀」
最後は五本指。
獣の鉤爪みたいに開き、下から上へと振り上げる。
崖下から崖上へ。
五条の爪あとが走り抜けて、空に消えていった。
「五崩。ってなわけよー」
やっている事は多分、シンプル。
一本指で魔力の一点集中。
二本指でそれを線に。
三本指で面に。
そして、四本指でそれを全部同時にやって、五本指は……増幅? 暴走? いや、激化とかしたんだろうか?
なるほど。
魔力操作の練習というのはよくわかる。
「……え? 数印【Ⅹ】以上の人は皆、こんなのできるの!?」
ベルがこれを身につけたら、僕は彼女のツンを受け止められる気がしない!
「あー。俺って割とできる方だからー。ここまでやれるのは一部っていうか、一握りだなー」
つまり、ベルにもその可能性がある、と。
これは忘れないように覚えておこう。
閑話休題。
「これを僕にやれって?」
「そ。といってもー。やるのはこれだけなー」
ラフルが立てたのは一本指。
一指。
岩壁を打ち貫く一撃。
魔力の一点集中。
「一指」
試しに僕も人差し指を立ててみる。
やっぱり、どうにも魔力なんて感じられない。
おそるおそる、岩壁を突いてみるけど、指先が弾かれるだけ。
「無理じゃない?」
「そのままじゃなー。だからー、俺が手を貸してやるよー」
ラフルが僕の右手を取る。
身長差があるから片膝をついて、後ろから腕を回して。
「手を貸す?」
「おう。魔力で魔法を使う、っていうのは無理でもー……って、うわ!? なんだよ、この魔力。洪水かっての! あの子、これで魔法を使うとか、すごいなー。う……ぬ、ぬぐぐぐぐ!」
握られた手が後ろに引かれる。
ぼやきながらラフルが何かしているのか、やっぱり僕にはまるで分らない。
ただ、そのまま腕が突き出される。
指を一本立てたまま。
岩壁に。
「ひゃっ――うえ!?」
思わず悲鳴が出かけて、すぐに轟音に飲み込まれた。
指が岩壁を吹き飛ばした。
穴が空き、ひびが広がり、断面が裂け、粉々に砕けて、衝撃がその何もかもをどこかに吹き飛ばしていく。
塵も残らない。
目の前にあるのは半壊した崖だったモノだけ。
「……は?」
「メチャクチャだなー、少年」
お前も驚くんかい!?
心の中で突っ込むけど、すぐに思い直す。
無理もない。
数印【Ⅻ】で、自称だけどかなりやれるというラフルを遥かに超えた威力。
魔法ではなく、ただの鍛錬法で。
散った空気が戻ってくる風に吹かれながら僕は自分の手を見下ろす。
相変わらずの零印が赤く灯る右手。
「うまくいってよかったー。と、まあ? こんな感じだねー」
何やら不安になる事を呟きながらもラフルが見下ろしてくる。
「こんな感じ、って? 人の魔力で魔法は使えないって……」
「そ。だから今のはー、ただ少年の魔力を導いただけでなー。それだけじゃ弱すぎて身体強化にもならないんだけどー、少年の大魔力でやればこうなるってわけー。今ので大体三千ぐらいの魔力を使ったからー、少年はこれを千発以上使える……提案してなんだけどー、ヤバすぎじゃね?」
行き当たりばったりの気配はあるけど、ラフルの言う通りになっているから今は文句を飲み込んでおく。
何せ、これなら十分に戦力の目途が立つのだから。
「でも、やっぱり僕にはよくわからなかったんだけど」
「ん。だからー、これが反射になるぐらい繰り返すっての、どうよー」
そう言って笑うラフルは確かにドSの気配を漂わせていた。




